第20話 半分こ 〜天音〜



 チュッ、チュッ、チュッ


 唇をついばむようなキスが何度も、何度も重なる。雰囲気が拒否をさせてくれなかった。


『こんなのはダメ』


 背徳感と子宮に溜まっていく重い感覚。なんとも感覚であることが悔しい。


 暗闇の中で堕ちていく。行き着く場所は、漆黒の闇。


 天音の記憶から刻印されていた感情を揺さぶってくる。激しい自責の痛み。


『彼氏がいるのに唇を許してしまうなんて。堕ちてしまう自分は、やっぱり汚れているからなんだろうか?』


 あきらめの極致で刻印された快感が非現実的なロマンスの香りを漂わせるせいだろう。天音のお腹の下の方で甘やかな疼きを生み始めている。


 天音の瞳がトロンと蕩けた頃に健の声が低く囁いてきた。


「コイビト・シェアだよ」


『何、それ?』


 頭が働かない。感覚の中に身を投げ出したい。しかし、健の声は熱情を込めたまま道理を説く。


「天音がキチンと公平にしてくれればいいんだ。もちろん表側は大竹のものだよ。本当の彼氏だし、大切なんだろ? オレがどれだけ君のことを好きでも彼氏は大竹だ。オレは裏の彼氏でいい」


 キスを繰り返したせいなのだろう。健の言ってることが、ひどく謙虚で、もの悲しく感じる錯覚が埋め込まれている。


「オレはずっと君が好きだった。天音の彼氏は大竹でも、オレは君のことが好きなままだ。それなら、今まで通りだろ? だから、オレをにしてくれ」


『そんなこと、できるのだろうか? 裏切ることにならないの? ホントにいいの?』


「もちろん、大竹には絶対に言わないから」

「でも」

「表の彼氏は大竹だからね」

「だか、んっ、ちゅ、んっ、で、でも」


 ついばむようなキスで反論を封じ、合間に背中をかき抱きながら健は繰り返し言い聞かせてくる。


 長く開発されてきた天音の身体だ。そうやっていつまでも撫でられてしまうと、その気はなくとも身体がザワザワとしてしまうのをとめられない。


 吐息が熱くなり始めていた。


「学校のある日は、大竹が全面的に優先だよ。部活に絡んだことも、絶対に優先だよね」

 

 案外と物わかりの良い言い分だ。


『瞬が優先。それなら健を傷つけずにすむの?』


「天音の嫌なことはしないよ。大竹が優先だ。半分こでいい。大竹と会わない時に会うだけだ。今まで通りだろ?」

「そうかも」


 確かに、今までも、毎晩のようにお部屋で会っているのだから変わらないかもしれない。


「そうだよ。何一つ変わらない。違うのは天音を好きだと言う気持ちを伝えたってことだけさ」

 

 チュッ チュッ チュルン ニュルッ


 舌を絡めてしまうと頭がどんどんボーッとしてしまう。


「キスなら大竹ともするんだろ?」

「そうだけど」

「だから半分ずつだよ。大竹と会わない時に、こうして」

「んっ、んっ、んー」


 舌を絡めていると、天音の頭は霞む。


『これなら大丈夫かな? それに、こうしてキスだけなら、うん、後で瞬ともしちゃえば良いし。一番スキなのは、瞬だもん』


 言い訳にもならない、どうしようもなくダメなことを考えてしまう天音を見抜くように、健は囁く。


「大丈夫だオレは半分だけでいい。それ以上は求めない。天音が楽しければ、それでいいんだから」


『でも、やっぱりそれって、瞬を裏切ることにならないかな?』


 裏切りはダメだと言う言葉は、さすがに消えてない。けれども「今、こうしているのも裏切りなんだ」と考えるのはやめてしまっている。


 闇とキスと、そして何よりも、幼なじみの特別な信頼関係とが天音に拒絶の言葉を用意させないのだ。


「普段は大竹が優先だ。だから、たま~にあるお休みの日とか、部活の後なんかはオレを優先させてよ。時間的には圧倒的にオレより優先されちゃうけど、たまの休みに会えるなら我慢できるから」


そのくらいなら良いかもしれない。学校にいる間はずっと瞬のことを考えていられる。


「そうやって、大竹にも自分の時間を作ってあげようよ。大切にしたいんだろ? 空いた時間にオレと会う。今までと何も変わらないさ」


『それなら、今までとほとんど変わらないかも』


 自分の言葉が染みこむのをのぞき込みながら、健はさらにダメ押しをしてくる。


「ほら、大竹とは学校でずっと一緒だろ? だから、休みの日くらいは、彼自身がゆっくりできる時間を上げた方が、長く付き合えるじゃないかな?」

「瞬と、長く付き合っていく……」

「そうだよ。大切にしてあげないと」


 子宮からこみ上げる感覚が天音の思考を妨げていた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・


クレクレをしてしまってすみません

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