第13話 思わぬところからの襲撃。
真昼の太陽のように眩しく、その光はみなの目を焼いた。
「何だ、この光は!」
「ぐっ、眩しい!」
「何が起こっている⁉」
ざわめきが、スーリャ側からもハルジャ側からも上がる。マイラも呆然として薄目を開けてそれに見入っていたが、ルーチェが突然マイラの腕を引っ掴んで壁際まで連れて行った。
「わっ、どうしたの、ルーチェ⁉」
「危険です。部屋の隅でお静かにしていてくださいませ。そして隙を見てお一人でお逃げください」
「え……?」
マイラは壁に張り付いて、様子を窺った。ルーチェは光の方に進み出て、マイラを庇うように立った。
そして、白い光の中から、何と、人間が出てきた。
一人目は、がっしりした体形の中年男性。薄茶色の短い髪を後ろに流していて、肌の色は白く、薄緑色の袖の広い服を着ている。彼はきびきびとした動作で会場に足を踏み入れた。
「ふむ。二度目の渡航は、成功のようですね」
几帳面そうな口調で言う。それから、光の方を振り返った。
「シロン、こちらへ来て、手始めに一発やりなさい」
「……承知しました」
続いて出てきたのは、若い女性だった。こちらは髪色は黒だが、それを結わえることなく後ろに垂らしている。彼女は光の中から完全に姿を現したかと思うと、腕を一振りした。
次の瞬間に起こったことを、マイラは瞬時には理解できなかった。
火のように熱い鞭のようなものが襲い掛かってきたように見えた。それは席に座っていたドゥロイ・セダトらに直撃し、セダトの腕は一瞬にして消滅した。他の者も重度の火傷を負った。うち何名かは、首と胴体が分かれていた。
「ギャアッ」
怪我をしたものは喚いた。セダトの父親フィオルが、色を失って立ち上がり、息子を支えた。
「何を……」
ワーッと、会場が恐慌状態に陥る。血溜まりが、黒い床のあちこちにできてゆく。
「黙りなさい。蛮族の言葉に耳を貸すつもりはありません」
最初に出てきた男は若干眉をひそめながらも、無機質な声で言った。そして、騒然としている室内をサッと見回し、ルーチェに目を留めた。
「ルーチェとやら。単身での調査ご苦労でした」
「……ギヨム様」
ルーチェはか細い声で答えた。マイラは目を皿のようにした。
この急に現れた二人の謎の狼藉者は、もしかしてルーチェの知り合いで……つまり、クナーシュ界の住人か。道理で見たこともない術を使うわけだ。
また、ハルジャにクナーシュ人がやってきた。同時に二人も。どういうわけだろう?
ギヨムと呼ばれた男は事務的な口調でルーチェに話しかけた。
「既に伝えた通り、現在お前の身分はわたしの奴隷ということになっています。しかし此度の働きに免じて、シロンの直属の部下となることを許しましょう。今後ともよく働くように。分かりましたね?」
「は、はい……」
「よろしい」
マイラはますます困惑を深めた。
セダトたちを攻撃した連中。謎の術で人々を殺した二人。ルーチェに、彼らを手伝えと? この男は一体どういうつもりでそんな命令を……。
彼はこれから任務だと言っていた。だがこのギヨムとやらの任務が、ルーチェが言っていたような調査任務でないことだけは明らかだ。調査だけするつもりならば、出会い頭にあんな仕打ちはしない。こんな、虐殺なんて。
蜂の巣を突いたような騒ぎに陥っている室内で、ギヨムは淡々と恐ろしいことを告げる。
「ではシロン、手始めにここの蛮族どもを殲滅なさい」
「承知しました」
黒髪の女性が腰の刀に手をやった。
「お待ちを!」
ルーチェが叫んだ。
「寛大なるギヨム様、シロン様。どうかわたしが発言するご無礼をお許しください」
「……。仕方ないですね。何ですか、ルーチェ」
ルーチェは震え声でこう言い張った。
「ここにおります者は、ハルジャを束ねる実力者ばかり。殺すよりも、捕虜として捉えて有効活用した方が……」
「ルーチェ」
ギヨムは呆れたように溜息をついた。
「お前は随分と愚か者ですね。まあその身分では致し方ありませんが」
「ど、どういうことでしょうか……?」
「蛮族の指導者など、皆殺しにしておかなければ、安心して新天地の侵略および統治などできません。もし指導者たちが蛮族どもをまとめて反乱でも起こしたらどうするつもりですか」
「……」
「全く、愚かな奴隷身分の者に説明をするのは骨が折れます。とにかくルーチェ、指導者こそ積極的に殺さねばなりません。分かりましたね? 分かったのなら、シロンたちに協力してここの者たちを皆殺しになさい。……さあ、みなさん、出番ですよ」
そして、光の中から、続々とクナーシュ人が出てきた。十人、二十人、五十人、……百人といったところか。
だが、唖然としている暇などない。
もちろんマイラは、ルーチェの言う通り大人しく逃げるつもりはなかった。この場にいる者をなるべく多く助けなくては、と思った。でないともっと死者が出る。
相手は未知の魔法を使いこなすクナーシュ人。しかも身分が高ければ高いほど、多様な魔法を使うということはルーチェから聞いている。そして特に最初に来た二人は特に身分が高そうだ。
なればこそ、先手必勝!
マイラは部屋中の人間も机も椅子も何もかも巻き上げるような暴風を起こした。そして風を器用に操り、現れたクナーシュ人たちを一ヶ所に集め、他の者は窓から外に放り出した。もちろん、ルーチェも。
そして建物を破壊してクナーシュ人たちの上に机と瓦礫の雨を降らせると、自分も崩れ去ろうとする窓からさっさと逃亡した。
首筋に熱気を感じた。多分、あの恐ろしい炎のような魔法が使われたのだろう。ぎりぎりのところで避けられて良かった。マイラの風起こしも、少しは早く発動できるようになったということか。
急ぎ、ルーチェのもとに向かう。
「マイラ様!」
ルーチェは地面にへたり込んで、色を失っていた。
「お一人で逃げるようにと申し上げましたのに!」
「そんなことできるわけないでしょ! そんなことよりルーチェ」
マイラはルーチェを風に乗せて全速力で館から逃げながら尋ねた。
「あいつらは何? まるでペルーク界を侵略するみたいなことを言っていたけれど!」
「……あの」
「うん」
「あの……」
真剣に聞き入るマイラ。そしてルーチェの口から、思ってもみなかった言葉がこぼれ出した。
「申し訳ありません。わたしたちは……最初からそのつもりでおりました」
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