第3話
近くの駅前の線路沿いにホテルが聳え立っているのは認識していた。「まさか先方から打診を受けるとは」と不本意な点はあれど、どの道ゴールは同じなのだと受け入れた。イレギュラーな出会いを重ねていると、たまにはこういう意図せぬことが起こるのは承知の上だ。声を掛けて反応が帰って来た瞬間、いつにも増して手応えを感じたのは確かだった。僕に限っては顔刺しの様なことはほぼあり得ないのだが、もっと美形のイケメンだとこの様な手応えを日々経験していることだろう。確かにこのおねーさんは最初のリアクションの時点で「声を掛けてくれて有難う御座います!私で良ければ宜しくお願いします(笑)」とでも言われそうなくらいの食い付きだった。こんなことが当たり前になると何か勘違いしてしまうだろうし、物事の相場という価値観が何もかも簡単といった具合いにバグって来そうだ。そのまま苦労を知らずに歳を取ると、相手にされなくなってから現実を知って大人しくなる末路が容易に想像出来る。側から見ればどっちもどっちなのだろうが、僕の普段のアプローチ以上に唐突な流れからスタートする感も否めなかった。やはり僕はその日の内に身を重ねるのは本望なのだとしても、しっかり会話しながら互いに興味を持ってからコトに及びたいようだ。簡単でシンプルなのはこの上ないのだが、そこに至るまでの多少駆け引きもないのは何処か物足りない。
ホテルの入り口を潜り抜け、パネルの前で部屋を選択するというプロセスは不可避ではあるが、この時間からでは選べる程部屋が空いているわけでもない。他より千円だけ高い部屋のボタンを押し、ルームキーを受け取って部屋へ入った。
「露骨な言い方になっちゃうんですけど、チェックアウト時の精算のようなので、私の方が後に出ることになりそうだし先にお部屋代だけ貰っておいても良いですか?(笑)」
「カードで支払いたいので僕が先に出る時に間違いなく支払いはしておくよ」
「じゃぁお名刺だけでも貰っときたいです」
そのままベットに横になり、伸びをしながらおねーさんが言うのだが、ここまで露骨なやり取りをしていると業者を相手にしているかのようだ。勤め先や名前などの個人情報を晒すことをこの展開の早さ故に何故だか憚られた。そうする位ならと、今この場で僕が支払いを済ませてくれば全て解決する、そう考えた。
「分かった分かった、先に支払い済ませて来る。仮に僕がとんずらぶっこいたら自分持ちになるのを避けたいというのは凄く分かるよ(笑)」
「今のお仕事になってお給料すごく下がったので甘えさせて下さい(笑)」
「そんなズルいことする気は更々無かったけど仕方ないな」
エレベーターでフロントへ向かい、仕切りの奥へ座ったおばちゃんに、自分は先に出てしまうので支払いを済ませたておきたいと事情を告げる。大人の事情があるのだろうと快く対応してくれ、去り際に「チェックアウトは10時だということだけお伝え下さいね(笑)」と手短かに用件を済ませて部屋へ戻った。当然ルームキーを持って出ていた僕はそれを使ってそっと部屋に入ると、ベッドに潜り込んで寝息を立てそうなおねーさんを余所に、その場でフルチンになって静かに下の方から潜り込んだ。
「分かってる。ちゃんと起きてます。やることちゃんとします!」
「寝てても良いよ。好きにさせて貰うコトになるけど(笑)」
「こわーい(笑)」
「何となくだけど、せっかくだしシャワーは一緒に浴びない?」
「もちろん!」
「脱がしてあげるから力抜いてて良いよ」
そう言いながら僕は、おねーさんの服に手を掛けて一旦は下着姿のままベッドに張り付ける様に互いに大の字で重なった。裸体との対面をよりイイ感じにしようと、舌先をその下着姿のカラダに這わせる。愛撫を重ねて行くと収まりが効かなくなり、結局汗も流さぬままパ●パンだと事前の宣言で聞かされていた、2ミリ程度に再度生えかけた毛に囲まれた中心の濡れた隙間の中で、コンドーム越しに果てた。
帰り際。
全裸のまま寝落ちしそうなのを堪えながらおねーさんが入り口まで見送りに来る。
「今夜はお泊りさせて頂きます…」
「LINEにまた連絡入れるね!」
「都合が合えばまた別のカタチでお会いしましょう…」
通りを出てタクシーを拾おうと駅前まで出ると、数人の酔っぱらったサラリーマンとすれ違う。
今から帰ると3時間は寝られる。きっと彼らと同じように、僕も明日の朝は半分寝ながら駅まで歩いてフラフラの状態でオフィス入りすることになるのだろう。
帰宅前のほんの1時間と少しのひと時であったが、日々のありきたりな日常を彩ってくれるのはこうしたイレギュラーなめぐり逢わせだ。
朝まで過ごせるところであれば______ 城西腐 @josephhvision
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