第4話畑

おれが目を覚ますと、そこは畑であった。

身体を動かせない。当たり前だ。トウモロコシに転生したんだから。

それにしても、暑い。

早く収穫してくれ。

すると、農家のおばさんがおれを収穫した。数枚、皮を剥いたので、いくぶん涼しい。

作業所で、身体を洗われ箱詰めされ、軽トラの荷台に乗せられた。

到着したのは、スーパーであった。

店員のおばさんがおれたちトウモロコシを陳列した。スーパーの温度はいくぶん外にいるより、ここち良かった。


「よう、先生」

おれは見渡した。目が届く範囲で。身体は動かないのだから。

それより、さあ、人間よおれを食べてくれ。出来ればキレイなお姉さんに。

「おれだよ、赤ら顔の」

「お前はあの赤ら顔が?」

「そうだよ」

「お前もダーツを投げたのか?」

「あぁ、トマトに転生しやがった。かわいい女の子に食ってもらいたいなぁ」

「おれもだよ」


客が現れた。

トマトの赤ら顔は、70代のばあちゃんがつかみ、買い物カゴに入れられた。

「先生、助けてくれ~」

「また、転生すりゃいいさ」

「おれはやだ~」

赤ら顔の訴えむなしく、ばあちゃんが買って行った。

「おれを食べてくれるのは誰だ!」

そこに、20代であろう女の子がトウモロコシに手を伸ばした。


おれか?やった!


女の子は隣のトウモロコシを掴んだ。


何故だ~!


すると、おれを掴む者がいた。腕が剛毛に覆われたひげの濃い男だった。

「ヒィッ、た、助けてくれ~」

おれの叫びが、人間に届く事なぞなく買われてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る