第13話 精霊石、ナコリスの花
小雨がふる中、ソフィアと、ベリル君といっしょに、ポポノンの森に入る。
入口から、大きな道を少し進むと、キュルルン
妖精と小人がいない。
でも、そこら辺にいるような気がした。
なんとなくだけど、だれかに、見られているような気がするからだ。
きけんな感じはしないので、だいじょうぶだろう。
精霊たちは、見える場所にいる。
青い色の――水の精霊たちと、緑色の――大地の精霊たち、それから空色の――風の精霊たちが、ふわふわ、ふわふわ、浮かんでる。
ベリル君が時々、足をとめ、精霊たちがいる方を見上げていた。
♢
わたしはあることを思い出し、立ちどまる。
するとソフィアも、足をとめた。
「ねえ、ソフィア。ソフィアって、この森の守り神――クワクワゲココさまのこと、知らないみたいだったけど、しんせきの人がこの村に住んでるんだよね。その人から聞いてないの?」
「王都にとどいた手紙にも、そんなことは書いてなかったし、こっちにきて、はじめてココ村のしんせきに会ったけど、そんな話はしてなかったわよ。お母さんがね、ものすごくひさしぶりにお姉さんに会って、お母さん、号泣してたから、あまり、話せてなくて。昨日は家に、お姉さんがきてたんだけど、この森のことをよく知っている人とじゃないと、森に入ったらダメって言われただけなの」
「そうなんだ。わたしは幼いころから、この森によくきてるからいいのかな?」
「いいと思うわよ。いいって言われたもの」
「……あのね、しんせきの人、もしかしたら、言うのを忘れてるかもしれないんだけど……。それか、ただの言いつたえだと思って、気にしてないか……」
「どうしたの?」
小首をかしげるソフィアは、なんだか不安そうだ。
「この森のどうくつにね、光る石があるって言ったと思うんだけど、おぼえてる?」
「ええ、おぼえてるわ」
「光る石の中にね、
「精霊石って、赤、青、緑、空色に光るふしぎな魔石って、聞いたことがあるわ。急に色を変えるって。とってもキレイで、ふしぎなので、貴族とか、金持ちに人気らしいわ」
「その精霊石だから、冒険者とか、商人とか、なんか、勝手にとって、自分のものにしたり、売ろうとする人たちが、昔はよくきていたんだって」
「今はこないの?」
「うん、わたしは見たことないし、わたしが生まれるよりも前の話みたいなんだ。でね、精霊石をとろうとすると、光る毒ガエルが現れるらしいの。その毒ガエルはね、このどうくつの石をとるなって、ケイコクするんだって」
「精霊石のほかの石もダメなの?」
「うん、そうだよ。精霊石以外にも、光るキレイな石がたくさんあるけど、ダメなんだ。まあ、ほかのどうくつにもあるような石が多いから、わざわざココ村まで、それをとりにくる人はいなかっただろうけどね。たぶん。言いつたえでは、昔、ポポノンの森に、精霊石がたくさんあるどうくつがあるって、有名になってしまったらしいんだ」
「光るキノコはだいじょうぶなの?」
「光るキノコはね、とってもいいけど、食べてもおいしくないんだ。冬、食べるものがない時に、食べることがあったらしいけど、最近はそういうことがないんだ。でね、ココ村の人たちはね、昔から、そのどうくつを大切にしてたから、どうくつの石をとろうなんて、考えなかったんだ。キノコはとっても、また生えてくるからね」
「そうだね。石をとってしまうと、どうなるの?」
「石をとってしまうとね、たくさんの光る毒ガエルが現れて、返せ返せーって、どこまでも追いかけてくるんだって。石を返してくれるまで。夢にも出てくるみたいで、その毒ガエルからはにげることができないって、つたわってるんだ。その言いつたえのおかげなのか、今はもう、だれもとりにこないんだよ」
「すごい話ね」
「こわくなった? 石をとろうとしなければ、なにも起こらないからだいじょうぶだよ。キレイだし、感動するよ。なんどもどうくつに入ってるけど、光ってしゃべる毒ガエルなんて、見たことないし。でも、この村で暮らすなら、知っておいた方がいいと思ったんだ。近くの町や村の人は、今でもその話を気にして、こわがってたりするから。いろいろ言われると思うし」
「そうね。いろいろ言われてから知るより、先に知ることができてよかったかも。お父さんとお母さんにも話しておくわね。ねえ、そのどうくつと、クワクワゲココさまは関係があるの?」
「クワクワゲココさまをまつっているほこらのそばに、どうくつがあるんだ。なんでかは知らないけど。あとね、いろんなウワサがあるらしいんだけど、クワクワゲココさまが怒って、毒ガエルに命じておそわせたとか、そういうウワサを信じてる人もいるみたいなんだー。本当のことはわからないけどね」
♢
しばらく進むと、紫色の花が、たくさん咲いているのが見えた。
すると、ソフィアが突然、走り出した。わたしはあわてて追いかける。ベリルもちゃんとついてきた。
「うわー、キレイな花! なんか、いい匂いもする。ねえ、ラナ、この紫色の花って、なんて名前?」
紫色の花のすぐそばで、花を指さすソフィアを見て、わたしはニッコリ、ほほ笑んだ。
「それはねぇ、ナコリスっていう名前だよ。光の月(4月)から、花の月(5月)まで咲く花なんだ」
「ナコリスかぁ。かわいい名前だね。この花、好きだな」
「わたしの家にもあるから、クレハおばあちゃんに言えば、くれると思うよ」
「えっ? いいの?」
「うん。お仕事で使う花じゃないから、だいじょうぶだと思う」
「ラナのおばあちゃんって、薬草師って仕事をしてるんだよね?」
「うん、そうだよ」
「なんで、ラナが薬草をつむの?」
「クレハおばあちゃんもね、つんでるよ。わたしがこの森が好きで、薬草を見つけるのも、つむのも好きで、楽しいから、わたしにできそうなことなら、やらせてもらってるんだ。でも、ムリはしてないよ。好きなことをしているだけだからね」
「そうなんだぁ。ラナは、薬草師になりたいの?」
「えっ? どうだろ? 薬作りはね、子どもの間は、湯気とかで、身体にえいきょうがあるといけないから、手伝ってないんだ。クレハおばあちゃんが薬を作ってる間は、自分の部屋にいることが多いしね。だから、よく知らないの。でも、薬草は好きだし、それ以外の植物も好きだよ」
「そっかぁ」
「あっ、毒を通さない魔道具(魔石で動く道具)があるから、エントツからけむりが出ても、外の人に悪いえいきょうが出ることはないよ」
「ラナのおばあちゃんは、だいじょうぶなの?」
「うん、魔石も薬もあるし、昔よりも身体が強くなったとか言ってて元気だし、だいじょうぶみたい」
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