第14話 ルネルネ草、闇の魔法、ウサギの魔獣、光の精霊

 ソフィアとベリル君といっしょに少し歩くと、ルネルネソウが見えた。

 たくさんあるし、元気そうだ。


「あそこにある青くて小さな花が、ルネルネ草だよ。草は、1年中あるんだけど、花は、花の月(5月)から水の月(6月)まで咲いてるんだー。根をのこすとね、勝手に成長して、花の時期なら、花が咲くんだよ」


 話しながら、ルネルネ草に近づいたわたしは、カゴを地面におく。

 それから、大地に向かって、「クワクワゲココさま。薬を作るためにひつようなので、ルネルネ草をください」とつたえた。

 そして、ルネルネ草をつみはじめる。根をのこす感じで、つんでいく。


「ねえ、ラナ。その言葉って、いつも言うの?」


 ソフィアに聞かれて、手をとめたわたしはうなずく。


「うん、そうだよ。この森から植物をもらう時は、いつも言うんだ。クレハおばあちゃんがね、昔から言ってたの。あっ、魔石の時なんかは、言わないよ。ほかの人たち――おじいさんとか、おばあさんは、声に出して言ってるのを見たことあるけど、言わない人もいるよ。口に出して言わなくても、クワクワゲココさまのほこらにお参りしてる人もいるし、ほこらまで行かなくても、森の恵みに感謝する気持ちが大事なんだって。そう、クレハおばあちゃんが言ってたんだ」


「ねえ、ラナ。ほこらに、ひっこしのあいさつをしたいのだけど、遠いの?」


「だいぶ歩くよ。大きな水たまりがあるかもしれないし、また今度、晴れた時に行った方がいいと思うな」


「そっか、そうだね。わかった。あっ、ごめんね。話してばかりで。なんか私、ラナのじゃましてるような気がする……。私も手伝っていい?」


 ソフィアに聞かれて、わたしはうなずき、口をひらく。



「いいよ。この辺りに、似た花はないから、まちがえないだろうし。もしちがってたら、言えばいいしね。あと、背の高い草のところに、ヘビがいることがあるから、気をつけてね。この辺りのヘビはおとなしいし、毒のないヘビばかりだけど、それでも、人間が近づきすぎたり、ふんだりすれば、噛むことがあるから」


「そうなのね。気をつけるわ」


「うん。あと、背の高い草のところに、妖精や、小人がかくれてることもあるから、それも気をつけてあげてね。妖精も小人も頭がいいから、人間の声がしたらケイカイするし、ふまれるようなところにはいないと思うけどね」


「妖精と小人がいるって、ロイが話してたのだけど、私もベリルも、まだ見てないの。ラナの前にはよく姿を見せるって、ロイが話してたわ」


「うん、庭や畑の水やりをね、魔法でしてるんだけど、わたしのお水が好きみたいなんだ。ベリル君も、魔法でお水出したりするの?」


「ええ、するわよ。闇の魔法は、よくわからなくてこわいから、使ったことはないみたいだけどね」


「闇の魔法って、影に入るとか、かくれるのにはよさそうなのもあるけど、人をあやつるとか、ほかにも、なんかすごく、こわいことが書いてあったりするもんね。わからないって書いてある本もあったけど」


「そうなのよ。私も、いろいろ調べてはみたのだけど、人以外にも、動物とか、虫なんかをあやつるって書いてあったり。ほかにも……人をこわがらせることが目的なのかしら? って思うようなことが、たくさん書いてある本もあって、嫌な気持ちになったの。むずかしいことだとは思うのだけど、言葉って、どう使うかで、人をしあわせにすることもあれば、深くきずつけることもあると思うのよ」


「そうだね。わたしがケイヤクしてる魔獣の――ガルリカはね、わたしの影に入るけど、それ以外は、おしえてくれないんだ。わたしは知ったからって、ガルリカにだれかをおそわせたりしないんだけど。前にそう、クレハおばあちゃんに言ったらね、ケイヤクしてるだけでも、悪いことを考える人間に、目をつけられるかもしれないのに、正しいジョウホウを知っているってことがバレたら、それを聞き出し、ラナを使って、ガルリカを動かそうとする者が現れるかもしれないとか、言ってたんだ。ガルリカを思い通りに動かすなんて、ムリだと思うんだけどね」


「そうなのね」


「あっ、木の枝とかに、ハチの巣があったりするから、気をつけてね。この辺りは、おとなしいハチが多いし、強い毒を持ってるハチはいないんだけど、巣をさわろうとしたり、巣になにかが当たったら、怒ってコウゲキ的になるから。怒ったハチは、なぜか黒い色に向かって、追いかけてくるんだ。フードがあればだいじょうぶだと思うけど、ベリル君はとくに、気をつけてね」


 そう言いながら、わたしはベリル君に視線を向けた。

 するとベリル君が口をひらく。


「あのっ……」

「どうしたの?」


 ふしぎに思いながらたずねると、ベリル君がしゃべり出した。


「僕も、薬草をつみたいです」

「いいよ。いっしょにやろうか」


 わたしはニコッとほほ笑むと、ソフィアとベリル君に、根をのこして、薬草をつむ方法をおしえた。そして3人で、楽しくルネルネ草をつみ、カゴに入れた。



 しばらくして、ガサッと、小さな音がした。

 ハッとして、顔を上げると、青い毛並みのウサギがいた。茶色い目だ。


「――ラナ。あれが、水の魔力を持った魔獣?」


 ソフィアが、小声で聞いてきた。


「そうだよ」


 わたしが小声でこたえると、ベリル君が、「かわいい」とつぶやく声がした。

 ウサギの魔獣がどこかに行ったので、わたしたちはまた、ルネルネ草をつむ。

 そして、たくさんルネルネ草が集まったので、薬草つみをやめることにした。


「もういいよ。たくさん集まったから。2人とも、手伝ってくれてありがとう」


 ニコニコしながら、2人にお礼を言ったあと、わたしはやさしく地面にふれる。


「クワクワゲココさま。今日も、たくさん薬草をつむことができました。ありがとうございます」


 感謝の気持ちをつたえると、金色の――光の精霊たちが集まってきた。

 ベリル君が顔を上げたまま、びっくりしてる。


「ベリル、どうしたの?」


 ソフィアがふしぎそうな顔でたずねると、ベリル君が口をひらく。


「……光の精霊がね、たくさんいるんだ。いつもは晴れた日に、高いところにいるのに……。神殿でも見たことはあったけど、僕には近づいてこなかった……」


 悲しそうな顔のベリル君を見て、なんか言わなきゃと思ったわたしは、口をひらく。


「神殿でもだけど、おいのりしたり、森で、感謝の言葉を口にすると、集まってくるんだ。だけどね、不安だったり、なやみごとがある時は、姿を見せなかったりするよ」


「僕、よく自分をせめてるけど、だからダメなのかな?」


「ダメってことはないと思うよ。わたしだって弱いし、よく気持ちが不安定になるし、自分をいじめちゃう時もあるよ。自分のことも、だれかのことも、悪く言いたくはないし、せめても、しあわせにはなれないのはわかってるんだ。それでも、自分やだれかへのコウゲキが、とまらないことはあるよ。心の中でだけどね。あっ、そうだ。ラナって名前にはね、古い言葉で、光という意味があるんだって。だから、仲間だと思われているのかも……。あとね、クレハおばあちゃんが、前に言ってたんだけど、人はみんなちがうんだって。似た人はいても、すべてが同じ人はいないらしいから、わたしと同じじゃなくてもいいんだよ。だいじょうぶっ!」


 落ちこんでいるように見えるベリル君に、力強く、そう言ったあと、わたしはルネルネ草入りのカゴを背中に背負う。


「ラナはラナで、すごいなぁって思うけど、私から見たら、ベリルもすごいよ。私にはない魔力を、2つも持ってるし、精霊も見えるのだから。もし、そういう力がなかったとしても、私の大切な弟だけどね」


 ニッコリほほ笑むソフィアは、女神さまのよう。


「……ありがとう」


 お礼を言うベリル君の頭をフードの上から、やさしくポンポンするソフィア。

 すてきだなぁ。そう思いながらニコニコしてたら、ソフィアがこっちを見た。

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