第15話 ペンダントの魔石と、鳥のヒナ
「ねえ、ラナ。ずっと気になっていたのだけど、ラナのペンダントの石って、魔石?」
「そうだよ。よくわかったね」
魔力がない人は、魔力を感じるのが苦手だったりするみたいなのに、ソフィアはすごいなぁ。そう思いながら言うと、ソフィアがニコリとほほ笑んだ。
「魔力がない人ってね、昔から、魔力を感じるのが苦手って、言われてるみたいなの。本にも、そう書いてあったわ。でも、私はなぜか昔から、魔石と、ふつうの石のちがいがわかるの。なんとなくだけど」
「すごいね」
「うふふ。ほめてくれてありがとう。それで、その魔石は紫だから、毒関係?」
「うん。よくわかったね。この魔石はね、毒のえいきょうを受けにくくなるんだ。だけど、まったく毒のえいきょうを受けないわけじゃないの。だから、毒のある植物には気をつけてるんだ」
「どうして、その魔石を使うの? 毒のえいきょうを受けない魔石って、あったと思うのだけど。高いのかしら?」
「あのね、毒のおそろしさを知らないことは、とてもきけんなことなんだ。毒は毒だと、身体でわかった方がいいんだって。毒を安全だとかんちがいするのはあぶないの。魔石に頼りすぎるとね、魔石がない時に、だいじょうぶだと思ってしまう人もいるんだって。気をつけることを忘れす人もいるから、だから、この魔石を使ってるんだ」
「そうなのね。毒のある植物って、さわるとダメなのがあったり、食べるとダメなのがあったりするらしいわね」
「そうだよ。すごいね。王都にも、毒のある植物があるの?」
「王都にも森はあるから、森には、あったかもしれないわね。でも、私は図書館に行くのが好きだったから、そこで、たくさんの本を借りて、読んでたの」
「図書館かぁ。そういうのがあるっていうのは……お父さんと、お母さんから、聞いてたんだけど……。この辺りにはないから、わたしは行ったことがないんだ。本屋さんなら、大きな町まで行けばあるけどね。でも、絵がたくさん描いてある本って、ものすごく高いの。だから、家の書庫にある植物の本や、魔石の本なんかを借りて、読んでるんだ」
「ラナのお父さんとお母さんって、有名な冒険者だと聞いたわ」
「有名……? うーん。有名かは、わからないけど……。でも去年、いっしょに、ディアウォントの町の、冒険者ギルドに行った時、お父さんとお母さんが、たくさんの人にかこまれて、話しかけられてたな。お父さんとお母さんのことを、強いって言ってる人たちもいたし。まあ、お父さんが、ディアウォントの町の、孤児院にいたから、知り合いが多いのかなって、その時は思ったんだけど……」
「……ラナのお父さん、孤児院にいたのね。ディアウォントの町なら、ココ村にくる時に、乗合馬車で通ったわ。聞いた話では、太陽の女神の神殿は、あの町まで行かないと、ないらしいわね」
「神殿に行きたいの?」
「行きたいわ。神殿が好きなの。ベリルも好きなのよ。いろいろあって、しばらく行ってないけど……。王都では、神殿のしきち内に、孤児院があって、いらないぬいぐるみや、着られなくなった服なんかを、持って行ってたの」
「そうなんだー。ディアウォントの町の、神殿のしきち内にも、孤児院があるよ。光の曜日に、孤児院の前で、孤児院の子どもたちが、手作りの焼き菓子を売ってるんだ。神殿で、おいのりをした人たちが、買ったりしてるよ」
「あらっ、そうなのね。私も買いたいわ。お父さんとお母さんがね、ディアウォントの町なら、仕事があるかもって話してたのだけど、ディアウォントの町は遠いから、仕事をするならユニの町がいいって、村長さんが、お父さんたちに言ってたの。村長さんが、仕事を紹介してくれるらしいわ」
「そうなんだ。この村には宿屋がないし、乗合馬車もこないし、外から人がくることがあんまりないの。手紙や荷物なんかは、たくさんの大きな犬に守られた馬車で、強そうな人たちが持ってきてくれるけど。野菜や果物や、鳥のタマゴや牛のミルク、それから、日用品なんかを売ってる、小さなお店ぐらいなら、あるけどね。村の多くの人たちは、ユニの町ではたらいてるんだ。近いからね」
「ユニの町から歩いてきたけど、近かったわね」
「ねえ、鳥のヒナさがして、見たら帰ろうよ。そうだっ! 花を生ける花びんある?」
「あるわよ。新しい家に行ったら、たくさん花びんがあったの。びっくりしちゃった! 花まで、かざってある花びんもあったのよっ!」
「それはすごいねぇ」
「鳥のヒナ、見れるといいなぁ」
ニコニコと笑うソフィア。
そうして。
わたしたちは、低い場所にある鳥の巣を見つけることができた。
元気にピィピィ鳴く、かわいらしいヒナたちを見ることができたのだった。
♢
ソフィアとベリル君を連れて家に帰る。庭がしずかだ。妖精も小人も、出てこない。
「家のうらから入るとね、薬を作る部屋があるんだ」
なんて言いながら庭を歩き、わたしは家のうらにあるドアをあける。
土間には、クレハおばあちゃんがいた。
「ラナ、おかえり。おや、お客さんのようだね。いらっしゃい」
ニコリと笑うクレハおばあちゃん。
わたしはカゴを土間においてから、「ソフィアがね、ナコリスの花、好きみたいなんだ。だからあげたいんだけど、いい?」と、クレハおばあちゃんにたずねる。
「いいよ。花壇にある花なら、どれを切ってもいいから、好きなだけ持っておいき」
クレハおばあちゃんは、やさしい顔でそう言うと、木のタンスから、切り花用のハサミを出してくれた。
わたしとソフィアは笑顔でお礼を言う。ベリル君はうつむいていた。
ソフィアとベリル君といっしょに、花壇に咲いている花をながめて楽しんだ。
そして、ソフィアとベリル君が、好きな花をえらんだので、わたしが花の茎を切ってから、2人にわたした。
「――ラナ、ありがとう。こんなにたくさん、すてきなお花を持って帰ったら、お父さんもお母さんも、びっくりすると思う」
「そうだね。姉さん」
うれしそうな顔の2人を見て、よかったなぁって、わたしは思った。
「じゃあ、帰るね。今日はいっしょに森に行ったり、いろいろ楽しかったわ。ラナのおかげよ」
うれしそうに笑うソフィアに、「またきてね」と言ってから、わたしはベリル君に視線を向ける。
「ベリル君もまた、おいでね」
「……はい。ありがとうございます」
ちょっとだけ、きんちょうした顔のベリル君に、わたしはやさしく、ほほ笑みかけた。
♢
ソフィアとベリル君が帰ったあと、わたしとクレハおばあちゃんは、ルネルネ
クレハおばあちゃんは、植物を編んで作ったカゴを背負い、出かけて行く。
昨日森で、薬の材料になるキノコが、いっぱい生えているのを見たのだそうだ。
キノコって、雷が鳴ると、ニョキニョキ、ニョキニョキ、生えるらしいから、雷のおかげだね。
わたしは水色のマントをぬいで、茶色いブーツから、青いクツにはきかえた。
それから自分の部屋にもどり、ペンダントを首から外して、片づける。
しばらく部屋ですごしたあと、クレハおばあちゃんが帰ってきたので、キノコを見せてもらったんだけど、はじめて見るキノコがあったので、心がウキウキ、ワクワクした。
「このキノコ、なんて名前?」
「本を持ってきて、自分でさがしてみなさい」
「はーい」
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