第16話 キュルルン草、馬の魔獣の親子、ミーア草

 つぎの日も、朝から、小雨がふっていた。今日も水やりはお休みだ。

 クレハおばあちゃんといっしょに、朝ごはんを食べたあと、わたしは紫色の魔石がついたペンダントを首にかけて、水色のマントをはおる。

 それから、水色のフードをかぶり、植物を編んで作ったカゴを背中に背負う。


「行ってきまーすっ!」

「――ラナ、いつもの森だからって、ゆだんせずに、気をつけて行くんだよ」

「はーい!」


 クレハおばあちゃんに、元気よく返事をしたわたしは、家を出て、森に向かう。

 ポポノンの森に入ろうとした時、うしろから、足音が聞こえてきた。

 だれかが走っているみたいだ。だれだろう?


 ふしぎに思って、ふり返る。


 すると、マントをはおり、フードをかぶったソフィアとベリル君が、こっちに向かってくるのが見えた。

 ソフィアはあわいピンク色のマントで、ベリル君は群青色のマント。

 昨日と同じだ。

 よく考えたら、その前も、同じ色だったけど。


 2人がきてくれたことがうれしくて、わたしはニコニコしながら、「おはよう」とあいさつをする。

 すると、2人も笑顔であいさつを返してくれた。


「ラナ、あのね。どうくつの精霊石せいれいせきと、毒ガエルのこと、お父さんとお母さんに話したの。そうしたらね、おどろいてたけど、行くなとは言われなかったよ。言いつたえがあるということは、なにかあるのだろうし、気をつけなさいねとは言われたけどね」


 そう、ソフィアに言われて、安心したわたしはほほ笑んだ。


「そっかー。よかった」


 そのあと3人でポポノンの森に入り、わたしたちは薬草つみをした。


 今日、たのまれた薬草は、キュルルンソウだ。


 青い色の――水の精霊たちと、緑色の――大地の精霊たち、それから、空色の――風の精霊たちが、いつものように、ふわふわと浮かんでる。

 妖精たちと小人たちも、なんどか見かけた。

 話しかけてはこなかったけど、わたしたちを気にしているみたいだった。


 ソフィアとベリル君に見つかると、すぐに、かくれてたけどね。


 それでも、ソフィアとベリル君は、むじゃきによろこんでいたので、よかったなぁって、そう思った。


 3人で、楽しくキュルルン草をつんだあと、森を出ようとした時に、ベリル君が、「あっ」って、小さな声を出したので、わたしとソフィアはふり向いた。

 おどろいた顔のベリル君の視線の向こうに、青い毛並みの馬がいた。


 水の魔力を持った馬の魔獣だ。

 しかも、2頭いる。


 大きな馬の魔獣と、小さな馬の魔獣。親子だろう。


 2頭の馬の魔獣は、しばらくすると、どこかに行った。


 あっ、もちろん、わたしは薬草をつむ前と、つんだあと、クワクワゲココさまへの言葉をつたえたよ。

 感謝をしたあと、光の精霊たちが集まっても、ベリル君は落ちこむことなく、「キレイ」って、感動しているようだったから、よかったなぁって思ったんだ。


 ソフィアは精霊が見えなくても、ニコニコしながら、感動するベリル君を見ていたよ。



 つぎの日も、朝から、小雨がふっていた。水やりはお休みだ。

 いつものように、クレハおばあちゃんといっしょに、朝ごはんを食べる。


 今日の朝ごはんは、クレハおばあちゃんが買ってくれたパンと、家の庭でとれた果物。それから、クレハおばあちゃんが作ってくれた薬草スープと、目玉焼きだ。


 タマゴは、真っ白な羽を持つ、大きな鳥をたくさん育てている女の人――アドリーヌさんが、朝、クレハおばあちゃんに会いにきてたんだけど、その人がくれたものだ。


 おいしそうな朝ごはんに向かって、手を組み、感謝のおいのりをささげてから、ゆっくり食べる。

 食事に、感謝のおいのりをささげると、今日もどこからか、金色の――光の精霊がやってきて、ふわふわと浮かんでた。


 今日も、クレハおばあちゃんにたのまれたので、朝ごはんを食べたあと、紫色の魔石がついたペンダントを首にかける。

 それからわたしは、水色のマントをはおり、フードをかぶり、植物を編んで作ったカゴを背負い、家を出て、ポポノンの森に向かった。


 そんなわたしに気づき、今日も、昨日と同じ色のマント姿で、追いかけてきてくれたソフィアとベリル君といっしょに、わたしは楽しく森を歩く。


 歩きながら、わたしはあることに気づいた。


「ねえ、ソフィアとベリル君と、毎日会えるのはうれしいんだ。だけどね、ムリはしてほしくないの。小雨だけど、森は村よりも、ひんやりしてるし。それに2人とも、王都からここまで、長い旅をしてきたんでしょう? もし、ムリをしてるなら言ってね。ガマンしてほしくないから」


 そう言うと、ソフィアとベリル君が、笑ってこたえた。


「私はだいじょうぶ。ここまでの旅はね、嫌なこともあったけど、知らないことをたくさん知ることができたし、とても勉強になったわ。王都にいた時よりも、今が一番元気で、気楽に生きてるというか、毎日を楽しんでるわよ!」


「……僕もです。王都でも、今回の旅でも、とても、嫌なことがありました。だけど、王都から、ここまでの旅の間、姉さんと、父さんと、母さんが、そばにいてくれましたし、楽しい思い出もできました。それに、こんなすてきな場所に、くることができたのですから、僕はとても恵まれていて、しあわせだと思うんです。急に、不安になることもありますし、はじめて会う人や、年上の人が、こわいなって思う気持ちもあります。旅の間も、今でも、夜に、こわい夢を見ますし。でも、ラナさんはなんか、ふんいきが好きですし、そばにいると安心できます。それに、この森も好きなので」


「そう? なら、いいんだけど……」


 王都の子って、なんか、しっかりしてるなぁ。

 ベリル君はおとなしい、あまりしゃべらない子だけど、なんか、すごい。


 今日も、森には、いつもと同じ精霊たちが浮かんでる。

 妖精たちと小人たちとも、目が合った。

 ソフィアとベリル君が、妖精と小人の存在に気づくと、すぐにどこかへ、にげちゃうけれど。


 それでも、ソフィアとベリル君は楽しそうだ。



 大きな道を元気に進み、ナコリスの花をすぎたところで、わたしはピタリと、足をとめる。そして、細い道を指さした。


「今日は、こっちの道に行くよー!」

「なにをつむの?」


 ソフィアにたずねられて、わたしは、「ミーアソウだよ」と、明るい声でこたえた。


「ミーア草?」

 ふしぎそうな顔のソフィアに向かって、わたしは「うん」と、うなずいた。


「ミーア草はね、1年中ある薬草なんだ。花の月(5月)から雷の月(7月)まで、白い、小さな花が咲くんだよ。根をのこすとね、勝手に成長して、花が咲く時期なら、また花が咲くんだー」

「じゃあ、根をのこして、つめばいいのね」

「うんっ!」


 わたしが1番前を歩いて、つぎはソフィアが歩く。そのつぎはベリル君だ。

 なんか、楽しい。ワクワクする。


 しばらく進むと、白い小さな花――ミーア草が見えた。


「あれだよっ! あの、白い花が咲いてるのが、ミーア草っ!」


 よろこびの感情があふれ出し、わたしは大声を上げた。

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