第2話 お祭りに行こう

 いつものように、クレハおばあちゃんといっしょに、朝ごはんを食べる。

 今日の朝ごはんは、クレハおばあちゃんが買ってくれたパンと、家の庭でとれた果物。それから、クレハおばあちゃんが作ってくれた薬草スープだ。


 おいしそうな朝ごはんに向かって、手を組み、感謝のおいのりをささげてから、ゆっくり食べる。

 すると、いつものように、どこからか、金色の――光の精霊が現れた。

 今日もふわふわ、浮かんでる。


 光の精霊って、いつもは、空が晴れている時に、高い場所にいるんだ。だから、あまり、はっきりとは、見えないんだよね。


 空の高いところで、キラキラしてるなぁって。

 たまに、のんびりと、空を見上げた時に、思うんだ。


 わたしは、朝ごはんを食べたあと、今日のために、クレハおばあちゃんが買ってくれた真っ白なドレスに着がえた。


 こういう時じゃないと、白なんて着ない。

 白は、よごれると、そのよごれが、ものすごく目立つからだ。


 群青色の石がついたペンダントを首にかけてから、花の髪かざりを頭につける。


 この日は、男の人も、女の人も、頭に、花の髪かざりをつけて、とってもおしゃれな服を着る。そういう、決まりだからだ。



 あっ! 


 お店で、お金をはらってくれたのは、クレハおばあちゃんなんだけど、ドレスを買ったお金は、クレハおばあちゃんのものだけじゃないんだっ!


 冒険者をしているわたしのお父さんと、お母さんが、かせいだお金も、使ってるんだよっ!


 群青色の石がついたペンダントは、お母さんが、今日のために、買って、送ってくれたものなの。


 あの人たちは、いろんな土地に行って、冒険をすることが好きなんだけど、冬は、魔獣が少なくなるので、毎年、冬になると、ココ村にもどってくる。


 ここは、お母さんの実家なので、もどってくるのはよいことだ。


 お母さんが、お父さんと、冒険の旅を楽しんでいた時に、わたしが、お母さんのお腹の中にいると気づいたんだって。

 それで、大きなお腹になったころに、ものすごくひさしぶりに、ココ村に帰ってきたらしいんだ。


 それから、お父さんとお母さんは、わたしの3才の誕生日まで、この村に住みながら、ちょこちょこと、冒険者ギルドに行って、依頼を受けていたんだって。


 冒険者ギルドというのは、このキノコや、薬草、魔石が、これぐらいひつようだとか、この魔獣が、この場所で、人をこまらせているから、やっつけてほしいとか、いろんな依頼が集まる場所だ。


 それを受けて、達成できれば、お金をもらうことができる。



 シュシュ王国では、10才から、登録することができるんだけど、子どもは、薬草つみとか、キノコとりとか、木の実集めとか、庭や、家のそうじとか、料理のお手伝いなどをすすめられることが多いらしい。


 あっ、大人になるのは、18才だよ。


 だから、孤児院の子たちは、18才まで、孤児院に住みながら、お金をかせいだり、お金をためることができるんだ。


 子どもだけで、魔獣とたたかうのは、あぶないので、子どもだけで、そういうことをしようとすると、ギルドの人がとめるんだって。


 お父さんと、お母さんは、たたかえる強い子になってほしくて、3才のわたしを冒険の旅に、連れて行こうとしたらしいの。

 だけど、わたしが嫌がったって、クレハおばあちゃんが言ってた。


 3才の時のことは、おぼえてないんだ。

 でも、4才からのことは、おぼえてる。


 冬に、お父さんと、お母さんが、ココ村に、もどってきた時。


 毎年、お父さんが、目をかがやかせながら、楽しそうに、『ラナッ! いっしょに、冒険の旅に出よう!』って、言ってくるの。


 毎回、わたしに、ことわられるんだから、あきらめたらいいのにって、いつも思うんだけど、お父さんは、あきらめない。


 わたしは、クレハおばあちゃんが好きだし、この村での暮らしが好きだ。



 去年の秋、音の月(11月)に、わたしは10才になった。


 10才の誕生日のつぎの日に、いつもより早く、村にきた両親といっしょに、大きな町――ディアウォントの町にある冒険者ギルドに行ったんだ。


 そして、登録をしたのだけれど、それは、10才になったら、みんながしていることだからだし、登録しておいた方がいいだろうなって、そう思ったからだ。


 たたかいたくて、登録したわけじゃない。


 魔石や、薬草を見つけるのは、楽しいから、好きだけど。


 相手が、人間をこまらせる動物や、魔獣だとしても、コウゲキしたいとは思わない。

 できるだけ、そういうことは、やりたくないって思うんだ。


 お父さんとか、お母さんとか、たたかうことが好きな人が、この世界には、たくさんいるみたいだし、その人たちのおかげで、わたしや、多くの人たちが、安全に、暮らすことができているんだろうなって思う。


 だから、その人たちを悪く思ったりはしないし、きっと、この世界の中で、ひつようとされていることなんだろうなとは、思ってる。


 お父さんと、お母さんが依頼を受けて、冒険者ギルドの人からもらったお金で、いろんなものを買ってもらってるし、お父さんと、お母さんには、感謝してるんだ。


 だけど、わたしは、たたかわない。



「じゃあ、そろそろ行こうかねぇ」

「うん!」


 クレハおばあちゃんも、おしゃれをしている。


 赤い髪と、空色の目。

 クレハおばあちゃんは、炎の魔力と、風の魔力を持っていて、炎の魔法と、風の魔法を使うことができるんだ。


 頭に、花の髪かざりをつけていて、大きな、深緑色の石がついたペンダントをしているの。耳には、うすい、紫色の石がついたピアスをつけているんだ。


 そんな、クレハおばあちゃんを見ているだけで、ニヤニヤする。


 今日は、お昼前に、村中の人たちが、広場に集まって、太陽の女神さまに、感謝をささげるおいのりをするんだ。


 そのあとは、おどりたい人たちは、おどったり、おいしい料理や、果物や、お菓子を食べたり、おいしいジュースを飲んだりするの。


 詩を書く人もいれば、物語を書く人もいるし、絵を描く人もいたりするんだ。楽器をえんそうする人もいるよ。


 わたしはドキドキしながら、クレハおばあちゃんといっしょに、広場に向かった。

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