第20話 嵐と、ガルリカ、そして妖精
しばらくして、ロイたちは帰って行った。ロイの家に。
ソフィアとベリル君の両親がもどってくるまで、ロイの家ですごすらしい。
わたしはもう、さびしくないので、元気に、ロイたちとさよならをした。
部屋にもどったわたしはソファーに座り、家の書庫から借りた植物の本や、魔石の本を読んでいた。
すると、風の音が聞こえてきた。
ビュービュー、ガタガタ、音がする。
窓の外を見ると、木の枝が、大きくゆれていた。ピカッと空が光り、少しして、ゴロゴロと音が鳴る。雷だ。
ザーと、大雨がふる。
さっきまで、小雨だったのに、どうしたんだろう?
いつの間にか、灰色だった雲が、真っ黒になっている。
黒い雲のそばには、たくさんの黒い――闇の精霊たち。それから、青い――水の精霊たちと、空色の――風の精霊たち。黄色い――雷の精霊たちもいる。
ベリル君に、なにかあったのかな?
もう、ベリル君とソフィアのお父さんとお母さん、村に帰ってきたのかな?
まだだったら……ロイもいるし、ロイのお母さんも、家にいるみたいだから、だいじょうぶだと思うんだけど。
心配な気持ちがふくらんで、とても、とても、不安になる。
昨日の夜も、雷が鳴って、大雨がふったけど、すぐにやんでた。
今回も、すぐにやむよね? だいじょうぶだよね?
聞いても、だれも、こたえてくれない。
心の中で、思っているからだけど。
クレハおばあちゃんに聞いても、わからないもんね。
ロイの家に、行くのはなぁ。
村長さんの家でもあるから、大きな家だし、きんちょうする。
走って行けば、短い時間で、行けるけど、この家からは、離れてるし。
すごい雨だなぁ。どうしよう。
♢
「――あっ! そうだっ! おいのりっ!」
思い出したわたしは、クワクワゲココさまに、この土地の、みんなのしあわせをおいのりした。
すると、どこからか、金色の――光の精霊たちが現れた。たくさんいる。
わたしの気持ちがとどいた気がした。
だけど、すごい嵐だ。
まだ雨は、やみそうにない。
窓の外を見たあと、不安な気持ちで、部屋の中を歩き回っていた時だった。
ヌッと、銀色の目を持つ、黒いオオカミ――ガルリカが現れた。
「――ガルリカッ!」
「不安そうだな」
「うんっ! あのねっ!」
わたしは、今日あったできごとを話したあと、「今、ロイの家にいるのか、自分の家に帰ったのか、わからないんだけど……。ベリル君が、どこで、どうしているのか、気になるんだ」と、自分の気持ちをつたえた。
「それなら、妖精に言って、見てきてもらえばいい。アイツらなら、どこでも入ることができるからな」
「あっ、そうかっ! こっそりなら、見てきてくれるかも。ちょっと、庭に出てくるね」
「気をつけてな」
「うん、ありがとう」
わたしは玄関で、水色のマントをはおり、フードをかぶってから、庭に出た。
ものすごい風と、雨だからか、妖精も。小人もいない。
「妖精さんっ! おねがいが、あるんだけどっ!」
わたしは大きな声でさけんだ。すると、「なーに?」と、声がして、ピンク色の髪と、青色の目を持つ妖精が、飛んできた。
「あのね、ベリル君の心がね、不安定になってる、気がするの。だから、どうしてるのか、気になってるんだ。ベリル君がね、ベリル君の家にいるか、村長さんの家にいるか、わからないんだけど、今、ベリル君がどうしてるか、見てきてくれないかな?」
「いいよー」
「ありがとう」
「ラナは、へやにいてね」
「うん、ありがとうっ!」
♢
部屋にもどったわたしは、床で、寝そべっていたガルリカに、話しかけた。
「おねがいしてきた。部屋にいてねって、言ってくれたから、もどってきたんだ」
「そうか。外は、嵐だからな」
「うん」
返事をしたあと、ソワソワしながら、しばらく待った。
妖精はなかなか、もどってこない。どうしたんだろう?
不安な気持ちが、ふくらんだので、気になる絵本を読んでみたり、ガルリカをもふもふしたりした。
しばらくして、さっきの妖精が、もどってきた。
「ラナー! ただいまー!」
「おかえりっ! どうだった?」
「ベリル、いたよー。かぞくよにんで、いえにむかって、あるいてたー。だからね、こっこり、いえまで、ついていったんだー!」
「家まで、ついて行ったんだね。それで、なにかわかった?」
「うんっ! あのねっ、あした、ユニのまちに、いくんだってー! ギルドいくの、たのしみだけど、こわいんだって。そう、ベリルがソフィアに、いってたのっ! こころのじゅんびをしてたつもりだったんだけど、あしたいくっておもったら、ものすごく、こわくなったんだってっ! ふあんで、こわくて、あらしになって、じぶんのせいだから、どうにかしなきゃって、そう、おもうんだけど、どうすることもできないって、ないてた」
「そっか……」
「ソフィアはね、やみのまりょくのことで、だれかに、なにかをいわれるのが、こわいのねって、いってた。いいたいひとには、いわせておけばいいのよって、いってたの。あなたは、ひとりじゃない。わたしもいるし、おとうさんと、おかあさんだって、いるし、ロイと、ロイのおとうさんと、リュアムくんも、いっしょにいくのだから、だいじょうぶよって、いって、ベリルのことを、だきしめてあげてたの。それで、ベリルが、ウワーンって、ないてたのー」
「そっか。心のじゅんびをしてたつもりでも、明日行くって、決まったら、ものすごく、こわくなることだって、あるもんね。でも、いっぱい、気持ちと、涙を出したら、スッキリすることもあるし。寝て、起きたら、元気になることもあるし。ベリル君は、冒険とか、ギルドの話は、きょうみがあるみたいだったし。闇の魔力のことで、だれかに悪く言われるのがこわいだけで、行きたくないわけじゃないと思うし……。わたしにできることは、ベリル君が少しでも、元気になって、この嵐が落ちつくのを信じて、待つことぐらいかな」
「――あっ! おもいだしたっ! ないてるなーって、おもいながらみてたらね、ベリルが、こっちをみたのっ! それで、みてるのがバレちゃって、ラナがしんぱいしてるよーって、つたえておいたのー」
「――えっ? そうなんだ……。バレちゃったのか……。うん、わかった」
「じゃあ、かえるねー!」
「うん、ありがとう」
わたしはニコリと笑って、妖精を見送った。
「俺も帰るぞ」
「……うん。ガルリカもありがとう」
さびしい気持ちもあるけれど、ガルリカには、ガルリカの生活がある。
ケイヤクはしてるけど、いっしょに住んでるわけじゃないしね。
そっと、ガルリカの黒い毛並みをなでたあと、わたしは玄関まで。ガルリカといっしょに行った。
それから、玄関のドアをあけて、嵐の中を駆けていくガルリカを見送った。
♢
クレハおばあちゃんといっしょに、夜ごはんを食べる前に、食事においのりをささげたら、光の精霊がきてくれた。
そして。
クレハおばあちゃんといっしょに、夜ごはんを食べていた時だった。
わたしは、雨の音が小さくなったことに気がついた。
それから、風の音がしないことにも、気づく。
もうだいじょうぶだ。そう思った。
♢
つぎの日は、朝から、小雨がふっていた。
水やりと、薬草つみは、お休みだ。
ココ村の大人たちが家にきて、クレハおばあちゃんといっしょに、ポポノンの森を見に行った。
クレハおばあちゃんは、魔石をいくつか、持って帰ってきた。
魔石を見せてもらったあと、クレハおばあちゃんといっしょに、朝ごはんを食べる。
今日の朝ごはんは、クレハおばあちゃんが買ってくれたパンと、家の庭でとれた果物。それから、クレハおばあちゃんと、いっしょに作った薬草スープだ。
薬草スープには、昨日とれたキノコがたくさん入ってる。薬の材料ではない、キノコだ。
朝ごはんに向かって、手を組み、感謝のおいのりをささげてから、ゆっくり食べる。
今日も、金色の――光の精霊がきて、ふわふわと浮かんでた。
わたしは部屋にもどって、ソファーに座る。
それから、家の書庫から借りた魔獣の本を読んだり、ソフィアとベリル君、どうしてるかなー、もう、ギルドに着いたかなー、だいじょうぶかなーって、思ったりしていたら、あっという間に、お昼の鐘の音がした。
クレハおばあちゃんが、わたしの部屋まで、呼びにきてくれたので、いっしょに、お昼ごはんを食べた。食事においのりをささげたら、朝と同じく、光の精霊がきてくれたよ。
台所で、窓の外を見た時に、気づいたんだけど、いつの間にか、雨がやんでいたんだ。
お昼ごはんのあとは、部屋でのんびり、絵本を読んだり、窓の外をながめながら、ぼんやりしてた。
すると、銀色の羽をパタパタさせながら、妖精が飛んできた。ピンク色の髪と、青色の目を持つ妖精だ。
「ラナー! ソフィアと、ベリルがきたー!」
「ソフィアと、ベリル君が? 2人で?」
「うん! ふたりでー!」
冒険者ギルドから、帰ってきたのかな?
ロイと、リュアム君はいないのか。
なにか、あったのかな?
「おしえてくれて、ありがとう」
「うんっ!」
わたしがお礼を言うと、妖精はニパッと笑って、飛んで行った。
ああ、なんか、ドキドキするよー。
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