第19話 リールティティーのお茶と、レモレモットのパイ

 玄関に行くと、マントをぬいだ4人がいた。ロイと、リュアム君と、ソフィアと、ベリル君だ。

 フードをかぶってないベリル君を見て、ドキドキする。


 さらさらとした黒髪に、青と黒のオッドアイ。ベリル君は、黄緑色のチェック柄の服を着て、群青色のズボンをはいている。


 ベリル君のとなりで、うれしそうな顔をしているソフィア。

 ソフィアは、あわい青紫色のチェック柄ワンピース姿だ。

 胸元には、黄緑色の石がついたペンダント。茶色の髪は、みつあみにしてる。


「かわいい」

 つい、気持ちが声に出てしまった。


 そうしたら、「えっ? どうしたの?」って、ソフィアが、ふしぎそうな顔で言ったので、「ソフィアがかわいくて」と、わたしはこたえた。なんか、はずかしい。


 クスクス笑ったソフィアが、「ありがとう」と言ってくれたので、安心した。


 ロイとリュアム君は、森に行く時より、おしゃれしてる。ソフィアたちが、家にきたからだろう。


「今日はね、お父さんとお母さんといっしょに、村長さんのお家に行ったの。そのあと、お父さんとお母さんがね、村長さんといっしょに、ユニの町に行ったんだ。それで、森には行けなかったの。ごめんね」


 ソフィアがへにょりとまゆを下げて、あやまった。


「気にしなくていいよ。約束してたわけじゃないし」

 さびしかったけどね。とは言わずに、ほほ笑む。さびしいなんて言ったら、ソフィアとベリル君が、気にするもんね。ムリはしてほしくないし。


 そう思っていると、ソフィアが口をひらく。


「あのね、ラナといっしょに、ポポノンの森で、薬草つみをしたり、花や魔獣を見たり、それから、ラナの家に行って、ラナのおばあちゃんから、庭の花をもらったって、ロイのお母さんに言ったの。そうしたらね、ロイのお母さんが、レモレモットのパイを焼いたから、クレハさまのところに持って行って、みんなで食べたらいいわって、そう言ったの」


「だから、持ってきてくれたんだね。ありがとう。クレハおばあちゃんが、リールティティーのお茶を用意してくれてるから、いっしょに行こうか」


「ありがとう。楽しみ」


 笑顔でこたえるソフィアを見て、わたしは笑い、歩き出す。

 みんな、ちゃんとついてきてくれた。



 台所に行くと、お皿に、レモレモットのパイがのっていた。フォークもある。それと、リールティティーのお茶の用意もしてあった。

 みんなでおいのりをすると、どこからか、金色の――光の精霊がやってきて、ふわふわ、ふわふわ、浮かんでた。


 みんなで楽しく、リールティティーのお茶を飲み、レモレモットパイを食べる。

 ひさしぶりのレモレモットのパイは、甘酸っぱくて、とってもおいしい。


 ん? なんか、窓の方から、視線を感じるような……。

 窓を見ると、妖精たちと、目が合った。


「ラナ? どうしたの? あっ! 妖精っ!」

 となりに座っていたソフィアが、おどろきの声を上げる。すると妖精たちが、ピュッ、ピュッとにげ出した。


「いなくなっちゃった……」

 悲しそうなソフィアを見て、わたしは、あることを思い出す。


「そうだっ! 妖精がね、ソフィアたちが、おいしそうな匂いがする箱を持ってるって、そう言ってたのっ! これが食べたいのかもっ!」


 わたしはニコニコしながら、お皿の上にあるレモレモットのパイを見た。


「まだあるからね、それをあげるといいよ」


 クレハおばあちゃんがそう言ったので、お皿にのってない、レモレモットのパイを妖精たちにあげることにした。小人たちにもあげるけど。

 外に持って行くのはあとにして、わたしたちは、レモレモットのパイを食べたり、リールティティーのお茶を飲んだり、しゃべったりした。


 クレハおばあちゃんは、食べたり飲んだりしたあと、仕事があると言って、部屋を出た。なので、今は子どもだけだ。



 ソフィアとベリル君は、ロイの家で、ロイが持っている本物の剣を見せてもらったのだそうだ。ソフィアとベリル君が、うれしそうに話してくれた。


「ロイって、すごいのよっ! ロイのお父さんや、お父さんの弟さんといっしょに、本物の剣を持って、ギルドに行って、依頼を受けてるのっ! 登録してることとか、依頼を受けたことがあるのは、前にもおしえてくれたけど、くわしく話してくれたのっ! ワクワクしちゃったっ!」


 茶色い目をかがやかせるソフィアが、とってもかわいい。

 ベリル君も、青と黒のオッドアイをキラキラさせてる。

 2人は、冒険にあこがれているのかもしれないな。


 そんな2人をごきげんな顔で見ていたロイが、「剣はあぶないからな。大人がいる時じゃないと、さわっちゃダメなんだ。ラナと森に行く時は、練習用の木の剣を持って行ってるんだぜ!」と、おしえている。


 その流れで、晴れたらみんなで、ほこらと、どうくつに行こうという話になった。

 ロイが言い出して、みんなが、笑顔でうなずいたんだけどね。楽しみだ。


 楽しい時間をすごしたあと、わたしたちはマントをはおり、フードをかぶって、庭に出た。そして、雨が当たらない場所をさがして、箱をおく。

 箱の中には、レモレモットのパイがある。匂いで、ここにあるのはわかるだろう。だけど、妖精たちも、小人たちも、出てこない。


「おいっ! 妖精っ! それと、小人っ! オマエらのために、うまいもん、持ってきたぞっ! レモレモットのパイだっ! オレの母さんが、作ったんだぜ! うまいぞー!」


 ロイがさけぶ。だけど、出てこない。


「なぁ、ラナ、オマエが呼んでくれないか?」

「――えっ? うん」


 わたしはうなずき、口をひらく。


「みんな、だいじょうぶだから、出ておいで。おいしいパイを持ってきたよ。みんなで、仲よく食べてね」


 小雨がふる中。わたしが気持ちをつたえると、妖精たちと、小人たちが、ゆっくり出てきた。その顔は、少しだけ、きんちょうしているように見えるけど、出てきてくれたことがうれしくて、わたしはニコリとほほ笑んだ。


 見ると、ソフィアとベリル君も笑ってる。うれしそうだ。


「あのっ、パイッ、ありがとうっ!」

「ありがとうっ!」

「おいしそうだねっ!」

「おいしそうなにおいだから、たべたかったのっ!」


 妖精たちが話し出す。小人たちも、うんうんと、うなずいている。

 妖精たちと、小人たちが、レモレモットのパイを食べはじめたので、わたしたちはニコニコしながら、その場を離れたのだった。


 ずっと見てたら、食べにくいだろうからね。

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