第18話 さびしい

 寝て、起きたら小雨だったので、わたしは安心した。

 今日も、水やりはお休みだ。


 今日の朝ごはんは、クレハおばあちゃんが買ってくれたパンと、家の庭でとれた果物。それから、クレハおばあちゃんが作ってくれた薬草スープ。


 朝ごはんに向かって、手を組み、感謝のおいのりをささげてから、ゆっくり食べる。

 すると、どこからか、金色の――光の精霊が現れたので、ホッとした。


 朝ごはんをクレハおばあちゃんといっしょに食べたあと、今日も、薬草をたのまれたので、紫色の魔石のペンダントを首にかけてから、クレハおばあちゃんにあいさつをして、植物を編んで作ったカゴを背負い、家を出た。


 雨なので、今日も水色のマントをはおり、フードをかぶってる。

 うしろが気になって、なんどかふり返ったけど、ソフィアとベリル君は、こなかった。

 荷物の片づけで、いそがしいのかな?

 胸の辺りが、モヤモヤしたあと、さびしいのだと気がついた。


 ポポノンの森の妖精たちと、小人たちは、ふつうにあいさつをしてくれた。

 だからわたしも、あいさつを返す。


 でもなんか、こどくを感じた。

 ソフィアとベリル君は、元気かな? って、そう思ったりもした。


 そんな気持ちでいたせいか、薬草をつんだあと、クワクワゲココさまに、感謝の気持ちをつたえても、光の精霊たちが現れなかった。


 さびしさと、こどくをかかえながら、家に帰る。


 すると、庭にいた――ピンク色の髪と、緑色の目を持つ妖精が、「ラナ! ベリルとソフィア、ロイのいえにいるよー!」って、おしえてくれた。

 くわしい話を聞いてみると、わたしが、ポポノンの森に行っている間に、ソフィアとベリル君が、両親といっしょに家を出たのだそうだ。


 家族で、ロイの家に行ったあと、少しして、村長さんと、ソフィアたちの両親が、いっしょに村を出たらしい。

 なので今は、ロイの家に、ソフィアとベリル君がいるということになる。

 どうしたんだろう? なにかあったのかな? 


 なんか、さびしい。胸がくるしい。

 泣きそうだ。どうしてだろう?

 おいていかれたような気がして、悲しいのかな?


 ロイは明るいし、村長のまごだから、みんなにやさしい。

 だれとでも仲よくしようとするから、たくさんの人に好かれてる。

 わたしといるよりも、ロイといっしょにいた方が、楽しいだろうな。


 今ごろ、ロイの家で、なにをしてるんだろう?


 悲しい気持ちと、さびしい気持ちで、いっぱいになったけど、今、泣くわけにはいかない。

 クレハおばあちゃんに、薬草をわたさなきゃ、いけないからだ。


 わたしは、小雨がふる中、庭の花をながめて、深呼吸をしてから、家のうらにあるドアに向かった。

 ドアをあけて、クレハおばあちゃんに、薬草をカゴごとわたす。


 つぎは、クレハおばあちゃんが、ポポノンの森に行く番だ。

 夜、雷が鳴ってたから、キノコをさがしに。



 水色のマントをぬいで、茶色いブーツから、青いクツにはきかえる。

 そして、自分の部屋にもどったわたしは、ペンダントを首から外して、片づけた。


 ソファーに座って、ぼんやりしたあと、ネネンの花が出てくる絵本が読みたくなったので、ひさしぶりに、ネネンの花が出てくる絵本を読みはじめる。

 気がつくと、涙を流していた。


 ――わたし、ずっと、女の子の友達がほしかった。絵本を読んで、女の子の友達に、あこがれていたから。

 だから、ソフィアと仲よくなれて、うれしかった。

 ソフィアに会えて、しあわせだった。


 同い年だからなのか、安心して、話すことができてるし。

 友達と呼べる関係になれたのかは、わからないけど。


 ソフィアが大切にしているベリル君も、かわいいし、やさしいし、いい子だと思う。

 これからも、ソフィアとベリル君と、仲よくしたいなって、そう思うんだ。


 ロイのことも好きだけど、ロイは、村長のまごだから、わたしとも、仲よくしてくれている。

 わたしがココ村のラナだから、仲よくしようとしてくれているだけなんだ。


 ロイにとっては、ココ村がとても大事で、村の人たちは、みんな仲間で。

 だから、わたしのことも大切にしてくれているのだと思う。村長のまごとして。

 そのことが、時々、悲しい。そして、さびしい。


 わたしという人間を見ているのではなくて、ココ村の住人としてのわたしを見ている気がするから。

 それでも、ロイに話しかけられたら、うれしい。

 ロイ以外の子どもは、リュアム君がたまにちょっとだけ、話しかけてくるぐらいだったから。


 ロイみたいに、いろんな人に、自分から話しかけるなんて、わたしにはむずかしいことだし……。


 ロイは、太陽みたいに明るいし、とても心の強い子だ。

 みんな、ロイのことが好きになる。


 ソフィアとベリル君だって、わたしといっしょにいるよりも、ロイといっしょにいた方が楽しいって気づくだろう。

 こどくは嫌だ。だけど、こどくだ。一人ぼっち。


 さびしいなぁ。さびしい。さびしいよ……。

 涙がとまらない。手の甲で、ゴシゴシふいた。


 それからわたしは、クツをぬいで、濃いピンク色のワンピースを着たまま、ベッドに上がった。そして眠って、こわい夢を見た。

 森の中で、なにかからにげる夢だ。



 お昼の鐘が鳴り、目が覚めた。ぼんやりとしていたら、クレハおばあちゃんが呼びにきた。


「――ラナ、ごはんができたよ」


「うん……」


「帰ってきた時もだけど、元気がないね。また、体調が悪いのかい?」


「今日、ソフィアと、ベリル君がこなかったの。昨日とどいた荷物の片づけをしてるのかなって、思ってたんだけど、妖精の話では、ロイの家にいるみたいなんだ。ソフィアとベリル君のお父さんと、お母さんは、村長さんと村を出て、どこかに行ったみたいだけど……」


「そうかい。アタシが聞いた話では、トトが、仕事を紹介するらしいから、そのために、村を出たんじゃないのかい?」


 トトというのは、村長さんの名前だ。


「――あっ! そういえば、ソフィアが話してたっ! ディアウォントの町は遠いから、仕事をするなら、ユニの町がいいって、そう、村長さんが、お父さんたちに言ってたって。仕事を紹介してくれるらしいって……。だからか……。でも、さびしかったんだ。2人がいなくて」


 わたしが、泣きそうになりながら言うと、クレハおばあちゃんがうなずいた。

 そして、「さびしかったんだね」と言って、わたしの頭をやさしくなでてくれた。


 ソフィアと、ベリル君に、会いたいな。そんな気持ちでいたせいか。

 食べる前に、手を組み、感謝のおいのりをささげたけれど、光の精霊はこなかった。


 お昼ごはんを食べても、おいしいとは感じなかった。



 部屋にもどったわたしが、ぼんやりとしていると、銀色の羽をパタパタさせながら、妖精が飛んできた。ピンク色の髪と、赤い目の妖精だ。


「ラナー! おそとに、ロイたちがいるよー!」

「ロイたちが?」

「うん! ロイと、リュアムと、ソフィアと、ベリルがいるのっ! とってもおいしそうな、においがするはこをもってたよっ! なんか、かぶせてあって、ぬれないようにしてたのっ!」

「……そうなんだ。おいしそうな、匂いがするものか……。なんか、持ってきたのかな?」

「わかんない」

「そうだね。わたしも、わからないや。おしえてくれて、ありがとね」

「うんっ!」


 ニパッと笑って、飛んで行く妖精。

 わたしは、どうしたらいいんだろう?


 部屋で1人、なやんでいたわたしを呼びに、クレハおばあちゃんがやってきた。

 手には、マントみたいな布をかぶせたなにかを持っている。


「――ラナ、お客さんだよ」

「ロイたち?」

「ああ。妖精にでも、聞いたのかい?」

「……うん」

「マリエッタがね、レモレモットのパイを焼いたそうなんだよ。それで、ラナの家に行って、みんなで食べたらいいって、子どもらに言ったらしくてね。わざわざ雨の中、持ってきてくれたんだよ。今、マントをぬいで、マントかけにかけるよう、言ってきたから。ラナは、玄関にむかえに行っておあげ。アタシは、リールティティーのお茶を用意するからね」

「……うん」


 返事をしたわたしは、ドキドキしながら、玄関に向かった。


 レモレモットというのは、花の月(5月)から、雷の月(7月)まで実る果物のことだ。甘酸っぱくて、色は黄色。

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