第11話 ふしぎな夢
わたしはゆっくり、口をひらく。
「今の時期はね、動物たちが、子育てをする時期なんだ。鳥たちが巣で、子育てをしてるんだよ。だから巣に、ヒナがいるんだ。かわいいけど、親鳥は、ヒナを守ろうとするから、ちょっと離れた場所から、そっと、見守るぐらいがいいんだ」
「ヒナかぁ。見たいなぁ。あっ! 外、すごい雨だけど、だいじょうぶかな?」
「うーん、だいじょうぶとは言えないけど……。さっき、ポポノンの森の守り神さまに、おいのりはしておいたよ」
「守り神さまがいるの?」
「うん。クワクワゲココさまっていう名前の、神さまなんだ」
「クワクワゲココさまかぁ。あっ、ココ村は、クワクワゲココさまから、ココをもらったのかな?」
「えっ? どうだろ?」
わからないので、わたしは、クレハおばあちゃんを見た。それから、ハッと気づく。
2人で話しすぎちゃったかも。
そんなわたしの気持ちを知ってか、知らずか、クレハおばあちゃんは、おだやかな表情のまま、口をひらいた。
「言いつたえだけどね。ココ村のココは、クワクワゲココさまのココらしいよ」
「そうなんだー。知らなかった」
「――ラナ。同い年の女の子がきて、うれしいのはわかるけど、お客さまは長旅で、おつかれなんだ。長話は、またにしなさい」
「はーい!」
明るい声で、返事をしたわたしは、ソフィアにニコッと、笑いかける。
ソフィアも笑っていて、うれしかった。
♢
村長さんたちが、玄関から出て行ったあと。
わたしの影からヌッと、ガルリカが出てきた。
すると、クレハおばあちゃんが、ニヤリと笑う。
「やっぱりいたね。いるような気がしてたけど」
クレハおばあちゃんって、とってもふしぎなんだよね。
気配にびんかんというか。
妖精とか、小人をすぐ見つけるし、見えるはずがない、精霊のことも、いる場所が、わかっているように見える時もあるんだ。
「ふつうの人間は、気づかないんだがな」
ガルリカが低い声で、ボソリとつぶやく。
すると、クレハおばあちゃんがクツクツ笑って、口をひらいた。
「ふつうの人間なんて、どこにもいないのさ。みんな、こういうのがふつうだって、自分で決めて、ふつうのフリをしているだけなんだよ。ふつうじゃないと目立つし、目立つといろいろ言われて、つらい気持ちになる人だっているし、いちいちなやむのが、めんどうだと思う人もいるからね」
ガルリカが、「人間ってのは、よくわからんな」とつぶやくと、クレハおばあちゃんが、ニヤニヤ笑う。
「相手のことをわかろうなんて、ムリな話さ。人間の気持ちなんて、天気のように変わっちまうし。アイツがあの時、こう言ったとか、過去の相手の幻にとらわれて、いつまでも心の中で争う者もいるが、それでしあわせになれると思うかい? ゆるせないなら、ゆるせない自分をゆるせばいいのさ。相手なんか気にせずに、自分を愛せば、それでいいんだ。だって相手は、過去のことなんて、忘れてるかもしれないんだから。人ってのはね、新しい出会いで、考えが変わることもあるんだ。過去なんて、気にしなくてもいいのさ。自分も相手も、今を生きているんだからね」
「雨の音が小さくなったな」
ガルリカに言われて、わたしはそのことに気づいた。
「あっ、ほんとだっ! よかった」
安心したわたしに向かって、クレハおばあちゃんが口をひらく。
「アタシはちょっと、畑を見てこようかねぇ。焼き菓子をいただいたから、そのあとお茶にしましょう。ラナ、お湯をわかしておいてくれるかい?」
「あっ、うん。いいよ。気をつけてね」
「ふふっ。だいじょうぶだよ」
クレハおばあちゃんが笑う。
そのあと、ガルリカが、「俺は帰る」と言った。
1人と1匹は、玄関から外に出て行く。
精霊と妖精は、窓や、ドアがしまっていても、家の中に入ることができる。
だけどガルリカは、魔獣だからなのか、そういうことはできないんだ。
ケイヤクをしているわたしのそばになら、瞬間移動することができるけど、帰りは歩きだ。
クレハおばあちゃんがもどってから、リールティティーのお茶を飲み、焼き菓子を食べた。
おいしいって、しあわせだな。
窓の外を見ると、小雨がふっていた。青い色の――水の精霊たちが、ふわふわと浮かんでいる。雲の色は変わらないけど、もうだいじょうぶな気がした。
小雨は、夜になっても、ふっていた。
♢
その夜、わたしは夢を見た。
――目の前には湖があり、雨がふっていた。
それをながめながら、ここはポポノンの森で、これは夢だとわかってた。
雨がやんで、とても大きな虹が出る。
おどろき、感動するわたしは、なにかが近づいてくるのに気づいた。
ドキドキしながらふり向くと、そこには、背の高い、深緑色のカエルみたいなのがいた。
顔とかが、カエルに似ているのだけれど、2本足で立っている。手と足には、水かきがあり、口には紺色のクチバシがある。
黒色と金色のオッドアイが、ジィッと、わたしを見つめてる。
クワクワゲココさまだ。
村で、つたえられてる姿に似ているけれど、闇の魔力と、光の魔力を持っているなんて、聞いてない。
『それはヒミツだケロ』
『ヒミツ?』
わたしはふいに思い出す。
妖精たちも、小人たちも、ガルリカも、わたしがクワクワゲココさまのことをたずねた時、くわしいことはおしえてくれなかった。ヒミツだと話してた。
『クレハとか、知っている人間もいるゲコ。みんな、ワタスが闇と光の魔力を持っていることをヒミツにしてくれてるゲコ。神殿の者たちも、知ってるゲコよ』
『知ってるんだ。そっか。この辺りの町や村では、ココ村のことをこわがって、村に近づかない人が多いのに、神官さまは毎年きてくれるから、すごいなぁって思ってたんだ』
『昔、いろいろあったゲコ』
『
『そうゲコ。ワタスは平和に暮らしたいゲコ』
『そっか。うん、わかった。魔力のことはヒミツにするね』
わたしがそう言うと、クワクワゲココさまが、ゲコゲコゲコと大きな声で笑った。
そして、わたしは目を覚ます。まだ夜だったので、目をとじた。
♢
つぎの日の朝。
空には、灰色の雲が広がっていた。雨はふってない。
庭の土がぬれているので、今日の水やりはしない。
ポポノンの森の植物も、大雨と強い風で、弱っているだろうから、薬草つみもお休みだ。
ココ村の大人たちが家にきて、クレハおばあちゃんといっしょに、ポポノンの森を見に行った。
木がたおれているかとか、あぶないことになってないかとか、そういうのを見に行ったのだ。
わたしも森が気になるけど、大雨のあと、子どもは行ってはダメだと言われてるんだ。
だから、クレハおばあちゃんに、「気をつけてね」と、つたえることしかできなかった。
ロイのお父さんとか、筋肉ムキムキな人がたくさんいるので、なにがあってもだいじょうぶ――とは思うのけど、魔法や、筋肉の力では、どうすることもできないなにかが、あるもしれない。
それは、わからないので、心配してしまう自分がいるんだ
しばらくして、クレハおばあちゃんは、魔石をいくつか、持って帰ってきた。
大雨のあとに、土の中から、出てくることがあるんだ。
魔石を見せてもらったあと、クレハおばあちゃんといっしょに、朝ごはんを食べる。
今日の朝ごはんは、クレハおばあちゃんが買ってくれたパンと、家の庭でとれた果物。それから、クレハおばあちゃんといっしょに作った薬草スープ。
おいしそうな朝ごはんに向かって、手を組み、感謝のおいのりをささげてから、ゆっくり食べる。金色の――光の精霊がきて、ふわふわと浮かんでた。
♢
部屋にもどったわたしはソファーに座り、のんびりと、家の書庫から借りてきた本を読む。
毒のある植物の本と、魔石について書いてある本だ。
この世界には、たくさんの植物や、魔石がある。
毒のある植物は、自分を守るためにも、知っておかないといけないし、だれかを守るためにも、知るひつようがあることだ。
魔石は、ポポノンの森でたまに見る。
見つけたからって、わたしには、とることのできない場所にあるのもあるんだけど。
大雨のあと、土の中から出てくることもあるから、知っておいてソンはない。
とてもキレイなものだから、見ているだけでも、しあわせな気持ちになったりするし、売ることもできる。
昼から、また雨がふり出した。小雨だ。
まあ、雨季だしね。小雨ぐらいなら、森も村も平和だ。
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