第8話 黒い雲と、精霊たち
家の前で、ロイとリュアム君と別れたわたしは、家の庭に入る。
キャーキャー! ワーワー! さわいでいるのは、妖精たちと、小人たち。
「どうしようー! きんちょうしちゃう!」
「どんなこかなぁ。ドキドキするね!」
「やさしいこだと、いいね!」
なんて、話しているのを聞きながら、わたしはテクテク、庭を歩く。
♢
家のうらには、井戸がある。
この井戸のお水は、飲むことができるんだ。
野菜や、果物などの、食べるもの、それから、お皿や、おなべなんかも、洗ったりするの。
わたしは水の魔力を持っているから、お水を出すことができるけど、土がぬれてない朝は、庭と、畑の水やりをする。
魔力があって、魔法を使うことができても、使いすぎれば、身体がだるくなったり、動けなくなったり、熱を出すこともあるんだ。
だから、ムリをしないようにと、クレハおばあちゃんから、言われてるんだ。
家のうらにあるドアをあけると、土間に、クレハおばあちゃんがいた。
ここは、クレハおばあちゃんがいつも、薬を作る部屋だ。
ここには、薬を作る時用の、石のかまどが2台ある。
クレハおばあちゃんは、右のかまどに、おなべをおいて、グツグツ、グツグツ、わかしてる。
「クレハおばあちゃん、ただいまっ!」
「おかえり、ラナ。キュルルン
「うん! あったよ!」
わたしはニコニコ笑いながら、カゴを土間におく。
すると、クレハおばあちゃんが、カゴの中をのぞきこんだあと、わたしに向かって、ほほ笑んだ。
「ありがとね」
その顔を見て、うれしくなったわたしは、大きな声で、「うん!」と、返事をしたのだった。
♢
わたしは、茶色いブーツから、青いクツに、はきかえた。
そして、自分の部屋にもどり、ペンダントを首から外して、片づける。
ソファーに座って、読書をはじめる。
家の書庫から、借りてきた植物の本なので、勉強でもあるのだけど、この本は好きなので、なんども読んでるんだ。
絵が、たくさんあって、おもしろいの。
絵が上手に描ける人って、すごいなぁ。
お昼の鐘が鳴り、わたしは、クレハおばあちゃんといっしょに、パンケーキを作った。
朝、家にきた人が、鳥のタマゴと、牛のミルクをくれたんだって。
その人は、アドリーヌさんっていう、名前なんだー。
ココ村に住んでいる女の人で、真っ白な羽を持つ、大きな鳥をたくさん育てているの。
ミルクは、ココ村にある小さなお店で買って、持ってきてくれたみたい。
そのお店は、この家から、だいぶ、離れた場所にある。
なかなか、ミルクを買うためだけに、行かないもんね。
手を組んで、感謝のおいのりをささげると、どこからか、金色の――光の精霊がやってきて、ふわふわと浮かんでた。
うれしい気持ちを感じながら、パンケーキを食べると、おいしかった。
この前、クレハおばあちゃんといっしょに作った果物のジュースも飲んだ。果物のジュースもおいしかった。
おいしかったなぁって、ニコニコしていた時だった。
急に、ビュービューという、音がした。
♢
おどろいて、窓の外に視線を向ける。
木の枝が、バッサバッサと、動いてた。
びっくりした。生きてるみたいだ。
風が、動かしているんだよね?
なんか、ブキミというか、嫌な感じがする。
急に、天気が変わったからだろうか。でもなぁ。いつもとちがうような……。
雲が黒いなぁ。今にも、落ちてきそうだ。
ものすごくたくさん、精霊たちがいる。
黒い――闇の精霊たちと、青い――水の精霊たち。それから、空色の――風の精霊たちと、黄色い――雷の精霊たち。
「――ねえ、なんか、黒い雲のそばに、闇と、水と、風と、雷の精霊たちが、ものすごくたくさん、集まってるんだけど……。ふつうの嵐の時より多いし、なんか変……」
って、クレハおばあちゃんに言った時。
ガタガタガタと、大きな音がした。
わたしはビクッとしたんだけれど、クレハおばあちゃんは、のほほんとした顔で、「そうかい。すごいねぇ」と、つぶやいた。
のほほんとしてる場合じゃない!
イラッとしたあと、不安な気持ちがふくらんだ。
そして、すごい、イライラしてきた。
だけど、そのイライラをぶつけたところで、クレハおばあちゃんは変わらない。
変えられるのは自分だけ。そんなことはわかってる。
クレハおばあちゃんに、怒りの感情をぶつけても、1人になった時に、ものすごいザイアク感を感じて、自分をせめたあと、落ちこむだけだ。
それがわかっていたので、わたしは1人、部屋にもどった。
モヤモヤした気持ちをかかえたまま。
♢
部屋の窓からでも、黒い雲と、精霊たちが見えた。
ピカッと、空が光り、少しして、ゴロゴロと音が鳴る。雷だ。
まあ、雷の精霊がいるから、鳴るのはわかるけど……。
なんども光ったり、ゴロゴロ鳴るのは、こわいなぁ。
ザー! と、雨がふり出して、「キャー! あめだぁ!」とか、「ワー! にげろぉ!」とか、大きな声で、さわぐ声がする。
妖精たちと、小人たちだろう。
あの子たちなら、だいじょうぶだ。
ギャーギャー、さわいでても、雨が好きだというのは、知っているから。
水の魔力を持つからか、わたしも、雨は好きなんだけど、今日の天気は、なんだか不安だ。いつもとちがう。
闇の魔法についての正しいジョウホウというのは、影に入るぐらいしか、知らないのだけれど、1つだけ、気になるジョウホウがあるんだ。
魔力や魔法について、書いてある本(家の書庫から借りた本)で、読んだことがあるのだけど、魔力が多い子って、不安になったり、イライラしやすい、らしいんだよね。
心が不安定になると、そのえいきょうが、むいしきのコウゲキ魔法とか、天気とかで、出ることがあるらしくて。
自分のことも、周りにいる人たちのことも、傷つけちゃったりするんだって。
大人になると、身体が大きくなるから、自分の魔力をコントロールしやすくなるらしいんだけどね。
あと、心が荒れてる時は、自然の中で、のんびりして、心を楽にしてあげるといいって、書いてあったな。
心を楽にか……。
いじめられて、人間が嫌いになってたら、新しい土地にきても、安心できない気がするな……。
心をとざしてしまったら、だれも信じることができないだろうし……。
家族といっしょにくるんだから、信頼できる家族がいるのかな?
いるといいけど……。
ハァー。
わたしがなやんでも、しょうがないよね。
わたしに今できることは、自分の心を楽にしてあげることだ。
少しでも、明るい気分になりたいなぁ。
なにかないかな? あっ、そうだっ! 絵本を読もうっ!
♢
絵本が読みたくなったわたしは、本だなをながめた。
どの絵本に、しようかな?
ネネンの花が出てくる絵本も好きだけど、これは、トクベツな絵本だ。
今は、明るくて楽しい気持ちになりたいから、ちょっとちがう。
しばらくなやんだあと、わたしは1冊の絵本を手にとり、ソファーに座って、その絵本を読みはじめた。
これは昔、お母さんが本屋さんで見つけて、買って、送ってくれた絵本だ。
かわいい動物がたくさん出てくるので、楽しい気持ちになれるし、いやされる。
お父さんとお母さんは、いろんな町や村で、めずらしいものや、かわいいものを見つけると、長持ちするお菓子や、干した果物なんかといっしょに、送ってくれるんだ。
雨の音がすごいなぁ。
絵本を読むことに集中できなくて、わたしはなんども、窓の外を見てしまった。
黒い雲、精霊たちと、はげしい雨。
雷はやんだけど、雨がすごい。
見ても、不安になるだけなのに……。
ハァーと、大きくため息をついたあと、わたしは絵本をおいて、立ち上がり、部屋を出た。
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