第7話 キュルルン草

 ポポノンの森の入口から、森に入る。すると、空気が変わった。

 なんか、すずしい。森の香りがのうこうだ。

 鳥たちが、かわいい声で鳴いている。


 空がくもっていたって、ポポノンの森は暗くない。


 青い色の――水の精霊たちと、緑色の――大地の精霊たち、それから、空色の――風の精霊たちが、いるからなのもあるけれど、それだけじゃないんだ。


 木がたくさんあると、森に光が入らなくなる。

 すると、背の高い木しか、育たなくなるんだ。


 そうならないように、木をふやさないようにしている人たちがいる。

 太陽の光というのは、植物が成長するために、とてもひつようなものなのだ。

 動物たちや、人間たちにも、ひつようだけど。


 湖までつづく、大きな道があるんだけど、それ以外にも、細い道がいっぱいある。

 でもそれは、人間が入るところまでだ。その先のことは知らない。


 ポポノンの森は、とても広いのだそうだ。

 行ったことがない場所が、たくさんある。


 それでも、ロイが行きたがるので、自分の中では、遠いところまで、行ったように思うのだけど、もっと遠くまで、森があるらしい。

 それをおしえてくれたのは、ガルリカだ。


「あっ! キュルルンソウっ!」


 クレハおばあちゃんにたのまれた薬草――キュルルン草は、ポポノンの森に入って、すぐのところにある。

 1年中ある薬草だ。

 かわいらしい形で、ちょっとだけ、おいしそうな匂いがする。


 クレハおばあちゃんがよく使うので、わたしもなんども、つんでいるんだ。

 それでも見つけると、うれしくなる。

 たくさんあるし、この薬草はなぜか、根をぬいても、すぐに生えるんだよね。

 薬を作るには、たくさんの薬草がひつようだから、ありがたい。


 これは全部使うから、根も使うんだ。

 薬草は、元気なものがいいので、なんでもいいわけではない。

 今日、たのまれたのは、キュルルン草という薬草だけど、薬草師があつかうのは、草だけではない。

 植物のタネだったり、キノコだったり、木の葉だったりもする。

 木の実や、木の皮、植物の根をとることもある。


 それが、薬になるからだ。

 薬にする以外は、お茶にしたり、料理に入れたり、身体にぬるクリームを作ったりする。

 クレハおばあちゃんが売るのは、薬だけ。

 それだけでも、クレハおばあちゃんが作る薬は、薬屋さんが高く買ってくれるので、もんだいはないようだ。



 わたしはカゴを地面におく。

 それから、大地に向かって、「クワクワゲココさま。薬を作るためにひつようなので、キュルルン草をください」とつたえる。

 そして、キュルルン草をつみはじめた。


 クワクワゲココさまというのは、この森の守り神だ。

 ココ村の人たちは、太陽の女神さまだけではなく、クワクワゲココさまのことも、とても大切にしている。


 わたしは、キュルルン草を1本ずつ、ていねいにつみ、カゴに入れる。

 すると、妖精たちと小人たちが、やってきた。


「おはよう!」


 わたしが笑顔であいさつをすると、妖精たちと、小人たちが、ニコニコ笑って、「ラナ、おはよう!」って、返してくれた。うれしいな。


「おみずちょうだいっ!」

「いいよ」


 わたしは笑って、うなずくと、魔法のお水をまいてあげた。


 妖精たちと、小人たちが、キャーキャー! ワーワー! よろこんで、わたしが出したお水をおいしそうに飲んでくれた。


 楽しい気分で。だけどていねいに、キュルルン草をつむ。

 しばらくして、カゴの中のキュルルン草が、もういいかなと思うぐらいになったので、わたしはやさしく地面にふれた。


「クワクワゲココさま。今日も、たくさん薬草をつむことができました。ありがとうございます」


 感謝の気持ちをつたえて、ゆっくりと立ち上がる。


 すると、金色の――光の精霊たちが、集まってきた。

 うれしくて、ニコニコしながら、わたしはキュルルン草入りのカゴを背中に背負う。


 そうして、歩こうとしたら、足音がみたいな音が聞こえて、ふり向いた。

 茶色い髪の男の子だ。

 走って、こっちに向かってくるのは、村長さんのまご――ロイ。

 服が、森であそぶには、おしゃれすぎる気がするんだけど……、どうしたんだろう?



 ロイは、わたしのところまで走ってくると、立ちどまった。それから、くるしそうな顔で、胸をおさえて、息をする。


「ロイ兄ちゃん、待ってよぉ!」


 と言いながら、追いかけてきたのは、ロイの弟――空色の髪と目の――リュアム君だ。リュアム君も、今日はすごい、おしゃれをしてる。

 リュアム君も、こっちにくると、立ちどまり、くるしそうな顔で、胸をおさえて、息をした。


「2人とも、なんで、おしゃれな服を着てるの? 森にきたのに、ロイは木の剣、持ってないし、おしゃれして、どこかに行くの?」


 ふしぎに思って、たずねると、落ちついた様子のロイが、こたえてくれた。


「あのさっ、ひっこしてくる人たちっ、今日の昼すぎに、くるんだって! 予定通りならだけどっ! 手紙が、昨日の夕方、しんせきの家にとどいたらしくてさっ! それでっ、昨日の夜、うちに手紙を持ってきて、じいちゃんとかと、話してたんだっ!」


「そうなんだ」


「村にきたら、しんせきの家に行ったあと、しんせきの人といっしょに、うちにあいさつにくるらしくって、その人たちといっしょに、お茶したあとっ、あの家に、じいちゃんがあんないして、それからっ、ラナのばあちゃん家に、行くらしいんだっ! じいちゃんが言ってたから、おしえにきたっ! ラナのばあちゃんにも、言っといたからっ!」


「わかった。わざわざここまでおしえにきてくれて、ありがとね」


「おうっ!」

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