第6話 花の月(5月)、ポポノンの森へ
お祭りのあとから、しばらくの間。
わたしの家の近くにある空き家に、いろんな大人の人たちが、入ったり、出たりしていて、なんか、バタバタしてた。
ちょこちょこと、人間の大人たちに、バレないように、家をのぞきに行っていた妖精たちが、いろんなウワサをわたしの元に、とどけてくれた。
わたしは、10才の女の子、ソフィアちゃんのことが、気になったんだけど、くわしいことは、わからないままだった。
ソフィアちゃんの弟のベリル君のことも、くわしいことはわからなかった。
バタバタしている村の大人たちと、ソワソワしている妖精たちと、小人たち。
みんなに、えいきょうされたのか、それとも、春だからなのか、ソフィアちゃんと、ベリル君がくるのが、楽しみだなぁと、思ったり、急に、ソワソワ、ドキドキしたり、だいじょうぶかなぁと、不安になったりした。
心が、不安定だったからなのか、食事の前のおいのりの時や、薬草つみのあとに、感謝をした時、いつもはくる光の精霊が、こなかったりした。
それで、よけいに、不安になったり、悲しくなったり、涙が出たり、なんだか落ちこむ、自分がいたりした。
♢
クレハおばあちゃんが、いつの間にか、ココ村に、ひっこしてくる家族がいることを知っていたので。それを知った時はおどろいた。
お祭りの前に、村長さんが言いにきたらしい。
そんな話は聞いてないんだけど、クレハおばあちゃんは、なんでも話してくれるわけじゃないし、いつものことなのだ。
だけど、不安定になっていたわたしは、クレハおばあちゃんの前で、泣いてしまった。
わたしが不安定でも、クレハおばあちゃんは、いつも通りだったので、強いなぁと、そう思った。
そして、わたしは弱い。
♢
夜中、こわい夢を見たので、クレハおばあちゃんの部屋に行くと、クレハおばあちゃんがわたしのために、心がおだやかになる薬草のお茶を用意してくれた。
そのお茶は、ちょっと苦いんだけど、こわい夢を見ないで、よく寝られた。
光の月(4月)がおわって、花の月(5月)になっても、空き家に人の気配がした。
カラッと晴れる日もあるんだけど、雨季だから、空が、灰色の雲でおおわれる日も、たくさんある。
雨がふる日も、嵐になる日も。
♢
そんな、ころころ変わる天気だったんだけど、クレハおばあちゃんは元気だった。
わたしが熱を出している時は、朝から、ポポノンの森に、薬草つみに行っていた。
帰ってからは、わたしの様子を見にきて、食べたいものや、飲みたいものはあるかと、聞いてくれたり、いろいろ、持ってきてくれたりした。
土間のある部屋で、薬作りをしながら、わたしのお世話もしてくれて、ありがたいなと、そう思った。
わたしが熱を出して、ぐったりしてた時に、ちょこちょこ、ガルリカも、様子を見にきてくれた。つながってるらしいけど、わたしにはよくわからない。
ガルリカを見ると、安心するんだよね。
ぐったりしてたから、もふもふできなかったのは、ザンネンだけど。
1人じゃないって、しあわせだなぁって、そう思うんだ。
ふだんは、1人ですごしたい時も、あるけれど、さびしくて、だれかに会いたい時もある。
♢
クレハおばあちゃんは、近くの小さな町――ユニの町の薬屋さんにたのまれて、薬を作ったり、たのまれた薬草をさがして、とどけたりする。
薬屋さんから、たのまれる薬草は、毒のある植物と似ていたり、子どもでは、あぶない場所に生えてたりするので、クレハおばあちゃんが、1人でつんでいた。
ユニの町まで、いっしょに行くこともあるんだけど、なんか、身体がだるかったので、クレハおばあちゃんだけ、行ってもらった。
1人で家にいるのはさびしかったけど、お仕事だしね。
あと、月に一度、1回目の大地の曜日に、クレハおばあちゃんは、大きな町――ディアウォントの町の、薬屋さんに行く。
薬屋さんから、たのまれた薬を持って行くんだ。
その日も、身体がだるかったけど、1人で家にいるのは、嫌だった。
朝、わたしは、クレハおばあちゃんといっしょに、家を出て、近くにあるユニの町まで歩き、そこから、乗合馬車で、ディアウォントの町に向かう。
薬をクレハおばあちゃんが、お店の人にわたして、お店の人から、お金をもらい、海の近くにある食堂で、お昼ごはんを食べてから、村に帰った。
ユニの町や、ディアウォントの町で、買い物をしたり、クレハおばあちゃんの薬草師仲間に会って、ジョウホウのこうかんをしたり、お茶をしてから、帰ることもあるのだけど、わたしがあまり元気ではなかったからか、そういうことはしなかった。
♢
今日は、朝からくもり空。
王都から、ひっこしてくる人たちが、もうすぐくるという、ウワサがあるんだけど、いつなんだろう?
いろんなウワサが広がってるから、妖精たちも、小人たちも、わからないみたいだ。
ロイに聞いてみたら、はっきりとはわからないって、言っていた。
本当に、くるのだろうか?
王都って、行ったことがないから、よくわからないんだけど、遠いんだろうな。
ポポノンの森の薬草を、クレハおばあちゃんに、たのまれたので、今日は、濃いピンク色のワンピースを着た。
緑色の服だと、森の中で、かくれてしまう。
なにかあった時に、見つけてもらいやすい色の方がいいと、クレハおばあちゃんに言われてるんだ。
赤だと、赤色に、コウフンする魔獣に出会った時、あぶない。
ピンク色は、だいじょうぶだけど。
まあ、今回は、ポポノンの森の近い場所に、行くだけだ。
ポポノンの森には、妖精たちと小人たちが、いっぱいいるし、なにがあっても、だいじょうぶだと思うんだけどね。
それにわたし、ガルリカとケイヤクしてるし。
ガルリカは、わたしが赤ちゃんのころから、知っている相手だ。
ケイヤクをする前から、やさしかった。
本当にあぶない時は、ちゃんときてくれるって、そう思ってる。
ガルリカがいると、追いかけたりしなくても、森の動物や魔獣は、すぐに、にげちゃうんだ。
声を聞くだけでも、相手の強さがわかるから、強い相手がいると気づけば、すぐに、にげる動物や、魔獣が多いらしいんだ。
だから、ガルリカがいてくれるだけで、お守りになる。
――あっ、森に行く時は、草で、足を切らないように、ブーツをはくようにしてるんだっ!
ズボンはなんか、好きじゃないから、持ってないんだよねー。
まあ、ちょっとしたケガなら、傷口に、水で洗って、手でもんだヨモギィ
ヨモギィ草は、1年中ある薬草だし、どこにでもある薬草なんだ。
雨はふってないので、庭に出て、魔法で、庭の木や花や、畑にある野菜や薬草に、お水をあげる。
どれぐらい、あげたらいいのかは、幼いころから、水やりをしているので、なんとなくわかるんだ。
妖精たちと、小人たちが集まってきたので、みんなとお話した。
♢
クレハおばあちゃんといっしょに、朝ごはんを食べる。
今日の朝ごはんは、クレハおばあちゃんが買ってくれたパンと、家の庭でとれた果物。それから、クレハおばあちゃんが作ってくれた薬草スープだ。
おいしそうな朝ごはんに向かって、手を組んで、感謝のおいのりをささげてから、ゆっくり食べはじめる。
食事に、感謝のおいのりをささげた時、どこからか、金色の――光の精霊がやってきて、ふわふわと浮かんでた。きてくれたことが、うれしかった。
そのあと、わたしは、紫色の石がついたペンダントを首にかけた。
このペンダントの石は、魔石だ。
魔石とは、魔力をやどした石のこと。
これを身につけていると、毒のえいきょうを受けにくくなるんだけど、まったく毒のえいきょうを受けないわけじゃない。
だから、本当にあぶない植物には、近づかないように、さわらないように、気をつけてるんだ。
そのために、本を読んで、勉強もしてるし、幼いころは、クレハおばあちゃんといっしょに、森に入って、いろいろなことをおしえてもらった。
さわるとあぶないような、薬草やキノコは、クレハおばあちゃんがつんだり、とったりするので、わたしがたのまれることはないんだけどね。
そういうのも、薬作りに使うらしいから、心配なんだけど。
クレハおばあちゃんは、長い間、たくさん薬作りのことを学んでいるし、失敗も、成功もして、今があるって、前に、話してたから、心配よりも、だいじょうぶだって、信頼するようにしてるんだ。
心配のしすぎは、自分がつらくなるだけだし、クレハおばあちゃんは、わたしが心配のしすぎで、しんどくなっても、よろこばないからね。
とか言いながら、つい、心配しちゃったりするけどね。
「ラナ、いつもの森だからって、ゆだんせずに、気をつけて行くんだよ」
「はーい! 行ってきまーすっ!」
わたしは、植物を編んで作ったカゴを背中に背負い、元気よく家を出て、ポポノンの森に向かった。すぐそこだけど。
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