第5話 ロイとの会話

「よおっ! ラナ、楽しんでるか?」


 ニカッと笑うのは、村長さんのまご――ロイ。

 茶色い髪と目の男の子だ。

 わたしと同じ、10才で、ロイには魔力がない。


 ロイのとなりにいる小さな男の子は、ロイの弟のリュアム君、8才だ。

 今年、9才になる。

 リュアム君の髪と目は、空色。

 リュアム君は、風の魔力を持っていて、風の魔法を使うことができるんだ。


「どうした? なにかあったか?」


 しゃべらないわたしを見て、ロイが、ふしぎそうな顔で聞く。


 わたしはふと、周りから、見られているような気がしたので、キョロキョロした。

 すると、こっちを見ていた大人や、子どもが、パッと、別の方向を見る。


「人がいないところに行くか?」

 ロイが小声で聞いてくれたので、わたしはコクリとうなずいた。


「リュアムはどうする?」

「いてもいいよ」


 ロイに聞かれて、わたしがそう、返事をすると、ロイが、トコトコ歩き出した。

 なので、わたしとリュアム君は、ついて行く。



 そうして、わたしたちは、人がいない場所に移動した。

 ここも広場なので、こっちを気にしている人がいるのは見えるけど、わたしたちの声は、とどかないはずだ。

 安心したわたしは、ロイに向かって、話し出す。


「あのね、なんか、王都から、この村に、ひっこしてくる子がいるみたいなんだ……」


「知ってる。オレたちと同じ、10才で、今年、11才になる女――。えっと、名前はたしか、ソフィアだ。その女と、リュアムと同じ、8才で、今年、9才になる男……えっと、名前は、ベリルだったな。ベリルには、闇の魔力があるとかで、いじめられてたらしいんだ。水の魔力も、あるらしいけどな」


「10才の、女の子がいるのか……。それは知らなかった。同い年って、ロイだけだし。女の子の友達がほしかったから、うれしいな。仲よくなれたらいいんだけど……」


 そう言ったあと、わたしは、気になっていたことを思い出した。


「……なんかね、さっき、気になる話が聞こえたんだけど……。クレハおばあちゃんと、わたしのことを知って、この村にくるって、決めたらしいんだ……。なんでだろ?」


「うーん、ラナも、ラナのばあちゃんも、相手が、闇の魔力を持ってるからって、気にしないだろ?」


「闇の魔力を持つ人間は、見たことないから……、見たら、おどろくかもしれないよ。黒い髪と目だなって、ジロジロ、見ちゃうかもしれないし。青と黒のオッドアイなんて、見たことないから、見てみたいなって思うけど……」


「それぐらい、ふつうだろ? オレが言いたいのは、闇だからって、いじめて、村から、追い出そうとしたりしないってこと。ほらっ、ガルリカも闇だろっ?」


「そうだけど……。ガルリカは魔獣だよ?」


 わたしとガルリカは、ケイヤクをしてる。だけど、わたしが、ガルリカの名前を心の中で言ったり、声に出して言ったぐらいじゃ、こない。


 ケイヤクをしたことで、わたしとガルリカは、つながっているらしい。

 だから、わたしがガルリカの話をしてるのは、バレてるんだろうけど、ガルリカに会話を聞かれて、こまることはない。


 ここにきたいなら、くるだろうし。きたくないなら、こない。ガルリカは自由だ。

 わたしの方が弱いので、ガルリカのことをコントロールすることはできない。



 ガルリカとケイヤクをしたのは、わたしが7才の時。

 ガルリカは、わたしよりも長生きだし、強くて、やさしい。

 それに、とっても頭がいいし、自分でしっかりと考えて、動いていると思うので、コントロールしようとは、思わない。



「人と、魔獣は、ちがうと思うけど……。まあ、いじめて、村から、追い出そうとしたりはしないよ。そんなこと、だれもしないと思うけど。ロイも、しないでしょう?」


「ああ。……オレは、村長のまごだからな。オレのことが嫌いで、オレに嫌なことをしてくる人が、この村に住むことになったとしても、それだけで、嫌ったりはしないぜ」


 ロイはそう言って、ニカッと笑ったあと、話をつづける。


「村長のまごであるオレが嫌えば、村の空気が悪くなるし、争いが生まれる元だからな。こちらが心をとざせば、相手もとざすし。それに、えいきょう力のある人間は、とくに、言葉や行動に気をつけるよう、じいちゃんから、言われてるしな。だれか1人を嫌ったり、いじめたりなんかしないぞ。闇ってだけで、おびえるような、弱虫じゃないしな。それに、村の若者がふえるのはよいことだって、村の大人たちが言ってるんだ。ひっこしてくる人たちを、悪く言う人は、今のところいないから、オレたち家族は安心してるんだ」


「そうなんだ。それで、この村にひっこしてくる人たちは、わたしと、クレハおばあちゃんのなにを知って、この村にくるって決めたんだろうね?」


「……それは、なんというか……。オマエんとこの家族は、スゲェんだよ。スゲェから、今度くる人たちも、王都からわざわざ、きたくなるんだと思うぜ。村のみんなも、薬草師さまがいらっしゃるから、だいじょうぶだと話してたし。オマエが強い、闇の魔獣と、ケイヤクしてるから、なにか起きても、どうにかしてくれるだろうって、そう言ってたしな。冬になれば、オマエの両親も帰ってくるし。あとオマエ、森の守り神さまに、気に入られてるだろ?」


「そうかな?」


 わたしが首をかしげると、「オマエのこと話したら、みんな、そう言ってたぜ」と、ロイが言う。


「なに、話したの?」

 わたしがたずねると、ロイは笑った。


「ほこらやどうくつに行くと、さっきまでなかった魔石が現れるとか、およいでる守り神さまみたいなのを見たとかだよ」


「……魔石は、クレハおばあちゃんとか、クレハおばあちゃん以外にも、ポポノンの森のほこら近くで、気づいたらすぐそばに、魔石があったと話す人はいるらしいよ。わたしといっしょに森に行く時は、ロイとリュアム君の魔石もいっしょに現れるし、わたしだけってことはないと思うんだけど……」


「オレのじいちゃんも、父さんも、森を大事にしてるのに、魔石が現れないって、落ちこんでるんだぜ。ばあちゃんと母さんも、魔石が現れたことがないらしいけど、魔石がほしいなら、自分でさがすわって、明るく楽しく生きてるけどなっ。それから、オレとリュアムが、ラナ以外の人と、森に行った時も、ラナと行った時みたいに、さっきまでなかった場所に、魔石が現れることはないしな」


「そう言われても……。深緑色のなにかは、クレハおばあちゃんと、湖にいた時に、見たんだし……、あれが、クワクワゲココさまかは、わからないし。それに、深緑色のなにかが、およいでいるのを見た人は、たくさんいるって聞いてるよ。わたしのお母さんもだし、ロイのお父さんと、村長さんも見たって、聞いてるよ」


「ああ、そうだったな。オレのじいちゃんと、父さんは、子どものころに見たって、言ってた。オレとリュアムは、見てないけどな」


「……それと、どうにかしてくれるだろうって……。なんかみんな、のんきだよね。おばあちゃんは強いし、みんなにやさしいけど、やさしいだけの人じゃないよ。植物や、薬作りは好きみたいだけど、人が好きなのかは、わからないし……。どんな人がきても、気にしないっていうか、トクベツあつかいはしないと思うな……」


「それで、いいんじゃないか?」


「……いいの?」


「ああ。ひっこしてくる人たちが勝手に、王都に居場所がないとかで、この村に、希望を感じて、ここに向かってくるんだし、村の大人たちも、受け入れてる。そういう場所があることが大事だと、オレは思うぜ。精霊が、見えるってだけでも、都会にいれば、ヒマなヤツらが、さわぐだろうし、闇でも光でも、オッドアイでもだけど、めずらしい色の髪や、目は、目立つだろ? 田舎の方が人が少なくて、いいんじゃないか?」


「そうかなぁ。まあ、ひっこしてきたいなら、きたらいいんだけど……。どんな子たちだろう? 仲よくなれたら、いいんだけど……」


「そうだな」


 ニッと、ロイが笑った。太陽みたいだ。

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