第4話 ココ村に、ひっこしてくる人たち

 しばらくして、クレハおばあちゃんが、「薬を作りたいし、そろそろ帰ろうかねぇ」と、言い出した。

 周りにいた大人たちは、ザンネンそうな顔をしている。だけどみんな、クレハおばあちゃんをひきとめることはない。


「――ラナは、好きなだけ、楽しんでおいで」


 そう言ったあと、クレハおばあちゃんは、1人で帰って行く。


 クレハおばあちゃんをかこんでいた大人たちは、クレハおばあちゃんのことを楽しそうに話しながら、村長さんがいる方に向かって、歩いて行った。


 村長さんは背が高いから、よく見えるなぁ。


 村長さんの息子さん――ロイのお父さんも、背が高いから、よく見えるんだけどね。

 あの辺りは、ものすごくたくさんの人がいるから、ロイとリュアム君、大変だろうなぁ。


 まあ、ロイは、人と話すのが好きだから、楽しんでいるかもしれないけどね。



 わたしは、どうしようかなぁ。

 パンも、シチューも、ほかの料理も、果物も、お菓子も、とっても、とっても、おいしいけれど、長くいるのはつかれちゃう。


 イスもあるし、座って、食べたり飲んだり、話してる人もいるけれど、ほとんどの人は、立って食べたり、飲んだりしてるんだ。


 みんなの笑顔を見ているのは好きだし、おどったり、歌ったりする人たちを見るのも、楽しいんだけど、長くいるのはねぇ……。


 なんて、思っていると、妖精たちが、ピュピュッと飛んできて、ささっと、テーブルの上や、地面から、なにかをひろい、また、どこかへ飛んで行った。


 持ちやすい、小さなお菓子や、お菓子のかけらでも、あったのかな?

 それとも、小さく切られた果物とか。


 妖精たちは、すばしっこいので、本気を出している時は、よく見えないんだよね。


 毎年、妖精たちが、こんな感じで現れて、自分たちで、お菓子や、果物を食べたり、小人たちに、あげたりしてるんだ。


 妖精の存在に、気づいた子どもたちは、「あっ!」って、さけんだり、「妖精?」って、首をかしげたりしてるけど、大人たちは笑って、「どうかしらねぇ」って、こたえている。

 大人は、あまり気にしてないようだ。



 前に、ロイから聞いたんだけど、妖精や、小人好きな子どもたちは、わざと、お菓子を花のあるところにおいて、妖精と小人が現れるのを、待っていたりするみたいだ。


 でも、妖精も小人も、人間の子どもをケイカイしてか、姿を見せてはくれないらしい。


『ラナが呼べば、くるのにな』

 って、前に、ロイが笑いながら、言ってたのを思い出した。


 昔、クレハおばあちゃんが、おしえてくれたんだけど、妖精は、あまり人前に、姿を見せない――と、いわれているのだそうだ。


 なんで? って、ふしぎに思ってたずねると、妖精を見つけると、飼おうとする人間や、売ろうとする人間が、いるからだと話していた。


 小人も、妖精と同じ理由で、あまり、人に姿を見せないといわれているようだ。


 たしかに、村の多くの人たちの前には、あまり姿を見せてないような気がする。


 だけど、わたしがいる時や、わたしになにかあった時は、クレハおばあちゃんや、ロイや、リュアム君にも、ふつうに、話しかけてるんだよね。


 あと、ポポノンの森で、ココ村の人たちが、道に迷うと、どっちに行けばいいか、妖精が、おしえることもあると聞く。

 とくにロイは、わたしの家の庭にいる妖精たちや、ポポノンの森の妖精たちに、わたしがどこにいるか聞いて、おしえてもらっているみたいだ。


 ケイカイする心があっても、妖精は人が好きで、やさしいのだと、わたしは思う。

 ふいに、視線を感じて、足元を見ると、小人がいた。


 わたしはニコッと笑って、クッキーを小さくしてから、地面におく。


「ありがとう!」 

「どういたしまして」



 クレハおばあちゃんみたいに、さっさと帰った人も、いるかもしれないけど、今も、たくさんの人がいて、ワイワイ、ガヤガヤ、にぎやかだ。


 ここにいるだけで、いろんなウワサ話が聞こえてくる。


 今度、王都から、ひっこしてくる家族がいるみたいだ。

 わたしの家の近くにある空き家に住むんだって。

 その人たちがくる前に、その家をそうじするみたいだ。


 家のタンスや、クローゼットや、ベッドや、本だなや、テーブルやイスなんかは、家にあるのをキレイにしてから、使うんだって。

 カーテンとかの布は、ココ村の人たちが、いらないのを持って行くらしい。


 お皿やコップや、料理で使う道具なんかも、そのほかのいろいろ、いらないものがあれば、持ってきてって、話してる人がいる。


 なんか、すごいなー。大人って、すごい。


 今度くる家族の中に、わたしと同じで、精霊が見える子が、いるみたいだ。

 男の子かー。どんな子、なんだろう?

 闇の魔力を持ってるのかぁ。


 髪と目が黒いから、闇の魔力を持ってるって、周りの人たちに知られてて、それで、悪口を言われたり、いじめられていた?


 そうか……。悲しいな。


 ん? 黒髪に、青と黒のオッドアイ?

 オッドアイって、たしか、右と左の目の色が、ちがうんだよね。

 青っていうことは、水の魔力も持っているんだな。



 シュシュ王国の人たちは、太陽の女神さまを、とても大切にしてるんだ。

 冬は、太陽の女神さまが眠り、夜の神さまが、目を覚ますといわれている。

 だから、悲しい気持ちになる人がいるのはわかる。


 その人は、とっても太陽の女神さまのことが、好きなのだろう。

 冬は、雪がたくさんふるし、野菜なんかが、少なくなる。

 動物や魔獣も、少なくなるから、こまる人がいるのもわかる。


 だけど、畑だって、たまには、休ませてあげた方が、いいらしいし、大地だって、休む時間が、ひつようだと思うんだ。


 あと、夜おそくまで起きていると、闇の妖精が現れて、闇の世界に、連れて行かれるという、言いつたえがある。

 絵本にもなっているし、シュシュ王国では、よく知られているみたいだ。


 わたしも、幼かったころは、その話を信じてた。

 だけど、そんな妖精はいないって、妖精たちに言われたから、そんなのはいないんだって、思ってる。


 精霊が、見えない人にとっては、月のない夜は、とてもおそろしいものに、感じられるのかもしれない。

 だからって、闇の魔力を持っている子どもをいじめるのは、ちがうと思う。


 もちろん、大人でもだけど。


 まあ、この世界には、いろんな考えを持っている人が、いるらしいから、その人たちと、争うつもりはないんだけどね。ケンカは嫌いだし。


 あれっ? 


 しんせきが、この村にいるのもあるけれど、クレハおばあちゃんと、わたしのことを知って、ココ村にくることに決めたとか、そんな話をしている人がいるんだけど……。


 えっ? なんで、わたし?

 ふしぎに思っていたら、足音のような音が聞こえた。

 なので、わたしはふり向いた。

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