第七話 伝吉さん、喰われてますよね?

 えーと、まずは伝吉でんきちさんのお話について検証してみたいんですが、その前に思い出したことを話したいんですけど、いいですか。


 私はベッドの中で眠っていました。一度、話しましたよね。アクリルのような透明なケースで覆われたベッドのことです。

 このベッドはとても寝心地がいいのです。私はうとうとしながらも、なぜだか外の様子も見渡していました。微睡んでいたという表現がいいんでしょうか。


 そんな微睡みの中で、一つのベッドが開くのを目撃します。ケースが開くのと同時に、中にいた者が起き上がりました。

 その人物がどんな姿だったのか、私のように覚醒と眠りを行き来する者にも、はっきりわかります。老人でした。

 ここまで言ったら、もうわかってしまうでしょうね。その老人の顔はあなたにそっくりでしたよ、伝吉さん。


 仮に、その老人のことを伝吉コピーとでも命名しましょうか。

 伝吉コピーは起き上がり、周囲を見渡すと、絶望を感じたかのように叫びました。


「なんで……。なんで、また、お前がここにいるんだ……!」


 伝吉コピーは何者かを凝視し、恐怖で引きつった顔を見せています。しかし、残念なことに、伝吉コピーは倒れ込み、見えなくなりました。私はその様子をケースの内側に映った反射で見ることしかできないのです。正直、聞こえてきたのは声だけで、何が行われているかはわかりません。

 悲鳴が幾度となく響きます。そして、咀嚼音も。誰かが何かを食べているようでした。そして、垂れ流れてくる流血……。伝吉コピーは敢え無く死んでしまったのです。


 しかし、それだけでは終わりませんでした。また、別のベッドのケースが開いたのです。

 そのベッドから起き上がった人のことも、私から見えました。その顔は……、やはり伝吉さんでした。この新しい伝吉さんのことは仮に伝吉コピー(2)と呼ぶことにしましょう。


 伝吉コピー(2)もまた恐怖で引きつったように顔を歪ませ、悲鳴を上げます。伝吉コピーを喰い漁った犯人を目撃したのでしょう。伝吉コピー(2)もまた喰われてしまったのでしょう。悲愴な嗚咽とともに、生物を生きたまま喰い漁る音が聞こえてきます。


 まだまだ終わりません。その後もベッドのケースが何度も開き、そのたびに惨劇は繰り返されました。

 顔を見ることができた人もいましたし、声を聞いただけの人もいます。その誰も伝吉さんの顔をし、伝吉さんと同じ声でした。伝吉コピー(3)も伝吉コピー(4)も、みんな生きたまま食べられてしまいました。


 そして、ついに私のベッドのケースが開きます。光が差し込み、アクリル板が私の顔を反射させました。その顔は……伝吉さんでした。私もまた、伝吉コピー(12)くらいのものだったのです。

 ケースが開き切ると、私の前に何者かが立ちふさがります。青紫の髪をし、ボディコンを着た中年の女性。この時はただ恐怖しかありませんでしたが、今ならそれが誰かわかります。辺見瑠璃へんみるりですよね。今回の被害者……と思われる人でもあります。


 その辺見が私の顔を見て、にたりと笑っているのです。歯茎を剥き出しにして笑うと、そのまま私の頭にかぶりつきました。

 ゴリッという嫌な音が頭の中に直接響きます。テレパシーじゃないですよ。本当に直接響いているだけです。実際に頭を齧られてるんですから。

 頭蓋骨が折れ、弾け、砕けます。あの痛みをどう形容したらいいでしょう。骨が脳味噌を抉り、目を、鼻を貫通していきます。血が耳と口から溢れてきました。

 さらにもう一噛み。ゴリゴリゴリ。脳味噌が噛み砕かれている。吸い尽くされている。それを感じながら、私の意識は遠のきました。


 伝吉さん、あなた喰われたんですよ。何度も。それを覚えていたんですねえ。

 私も同じことを思い出しました。


 えっ? クローンはあくまで双子を生み出すようなテクノロジーだから、記憶の継承はされないはずですって?

 確かに、それも一理あるのかもしれません。でも、できたとしたら?

 ここがどこかわからないでしょ。もしかしたら、超技術を持った未来人だとか宇宙人だかが背後にいて、そんなスーパーテクノロジーを実現しているのかもしれませんよ。


 でも、そんなすごい存在がいたとして、私たちにしている仕打ちを考えると、より事態は絶望に近いということになりますけどね。


 そんな話は置いておくとして、伝吉さん、あなたは何度も辺見に殺されたと言いましたね。それは、こういうことだったんです。

 未来人か宇宙人の超テクノロジーかもしれません。霊界で見た不思議な出来事なのかもしれません。でも、あなたの言うデスゲームはこの無限に殺されるさなかに見た幻だったんじゃないですか。


 ん? 伝吉さん、何か言いたげですね。

 でも、今は私の話す番ですよ。疑問や意見は少し待ってください。


 もちろん、それだけの話で終わらせるつもりはありません。

 次は降屋ふれやさん、あなたの話についてです。

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