第八話 降屋さん、ごまかしてるでしょ?
思うのですけど、やっぱり
いやいや、そんなに苛立たないでください。何も降屋さんがおばあちゃんだなんて言っているわけじゃないですから。
AI技術の進化、というか暴走については社会問題になっていました。
それにね、「アーマゲドンオンライン」なるオンラインゲームの存在も私は知っていますよ。一時期、話題になりましたからね。私の時間感覚ですと、数年前のゲームだという印象です。
それなので、降屋さんのお話は古いお話だなと思うのです。
え? 私の学歴詐称や職歴詐称の話を知っているですって? まあ、それはあまり言わないでください。冤罪ですので。
あなただって、あまり言われたくないのでしょう。トレース……というか、パクリの件ですか。あ、えと、すみません。ですので、あなたもあまり責めないでください。私も二度と口に出しませんから。
反対に、伝吉さんの話は比較的若いのかなと思います。私の記憶する時代はヤクザの稼業は縮小しきっていました。ですけど、世界の情勢が不安定になり、それに乗じてヤクザが盛り返す気配は感じていたんですよねぇ。
伝吉さんの生きた時代はその後の世界だとするとどうでしょう。
ふふ、くだらない妄想だと思いますか。そうかもしれません。でも、心に留めておいていただければと思います。
それでですね、考えるんですけど、降屋さんのお話、バランスが良すぎるんですよ。
ゲーム開発というと、プログラマーやデザイナーが多く、企画の人もまあいますか。でも、サウンドコンポジッターなんて、だいたい別会社なんじゃないですか。サウンドの部署を持っている開発会社なんて少ないと思いますよ。まあ、皆無とまでは言わないのでしょうが。
それがきっちり別々の役職。それぞれの役割も、バランス型のオールラウンダー、攻撃役もできるタンク、回復とサポートをこなす魔法職、遠距離からのアタッカーと理想的な構成です。
即席のパーティでそんなことありますか? バランスを考えてチームを組んだならまだしも、役職まできっちり分けてですよ。
こんなことを思い出します。子供時代の記憶です。
私たちは四人で組を作り、遠足に出かけることになりました。山に行くことになったのだという記憶がおぼろげにあります。
私は灰色の肌をしていました。もう一人は黒くて、もう一人は白みがかかっています。ピンク色の子もいました。そんな中、もう一人、灰色の子が参加したいと言ってきました。
みんなは快諾しましたが、私は不安でした。灰色と灰色が被ってしまう。そのことでよくないことが起きると感じていました。
山へと五人で向かいました。太陽の光も差しており、爽やかな息吹を感じます。心が躍るような旅路でした。
ですが、やはり不幸に見舞われたのです。青紫の髪をしたおばさんが山道に立っていました。そして、私たちを見つけると、急に走り始めます。
憐れ、もう一人の灰色の子が食べられてしまいました。私たちは一目散に逃げて、どうにか助かります。
ただ、このことを思い出す時、思うことがあります。食べられたのは、もう一人の灰色の子だったのでしょうか。私が食べられたのに、それを信じられず、もう一人の子だと思い込んでいるだけなのではないでしょうか。
そして、そんなことを思い出す私は誰なのでしょう。
ふふ、話がズレてしまいましたね。
私が言いたいのはバランスの良さなんて、簡単に崩れてしまうということです。
降屋さん、あなたたちのチームはどうやってバランスの良さを担保していたのでしょう。何か、ごまかしていることはありませんか。
私の予想を話しましょう。
あなたのいた会社は社員総出でバグ取りに向かったのでしょう。あなたも社外の人間だったのでしょうが、同様に社外の人もいたのかもしれませんね。
そして、ほとんどが死んだ。私が読んだ記事やニュースではそうなっていました。あなたは生き残ったんですよね。
真実がどうだったのか、想像することしかできませんが、降屋さん、あなたは罪悪感を抱いているのでは。だから、記憶をごまかし、ヒロイックなパーティバトルの物語に変換しているのではないですか。
いやいや、責めているのではないのです。そのことは理解してください。
私がもう一人の灰色の子と自分が区別できなくなったのと、似たようなことかもしれません。私も罪悪感からその区別ができないのかもしれませんから。
ただ、そのことが真実につながるものではないか。そう思えてならないのです。
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