馬坂熊猪知狼の語り その二

第六話 時間軸がズレている?

 では、そろそろ、この状況、それに皆さんのお話についての問題点を整理しましょうか。

 こういうのは、文字にすることが大事です。可視化というやつですね。私の持っているノートに書き込んでいくので、随時見てください。


 まずは皆さんがお話しした舞台について上げてみましょうか。

 伝吉でんきちさんは霊界でしたね。降屋ふれやさんはゲームの世界。透瓏とおるさんとフリードはどこかの無人島でしたか。それで、露木つゆきさんは、伝吉さんと同じく霊界になるかもしれませんね。


 ここで、第一の問題点です。皆さんのお話がバラバラすぎて、まったく、まとまりがありません。

 ですが、こうも考えられます。このデタラメさこそが最大のヒントなのだと。


 伝吉さんと露木さんは霊界にいました。つまり、すでに死んでいる。

 透瓏さんとフリードは核戦争に立ち会い、死んでしまった。

 そして、降屋さんはまだ生きている。


 そう考えると、時系列のズレのようなものを少し感じますね。核戦争が起きて、みんな死んでしまった、そんな流れなのかも。つまり、降屋さんの時間軸が最も古い時間……なのかもしれません。

 あれ? なんですか、降屋さん、機嫌悪そうですね。あはははは、みんなの中で自分が一番年上だと思ったんですか? 仮定の話ですから、そんなこと気にしないでください。

 それに、これが事実だとしたら、我々はタイムスリップしてこの場所に来たことになる。まさか、まさか。そんなことは考えすぎでしょう。


 あとは、そうですね。目的も違いますよね。

 伝吉さんは生き残りを賭けた潰し合い。まあ、明確な逃げ道があったようですが、それは事前情報があったからですしね。

 降屋さんと露木さんはそのものズバリ、辺見瑠璃へんみるりさんの殺害ですよね。まあ、降屋さんとしてはバグの除去のつもりだったようですけど。今までのお話を事実だとすると、辺見さんには自我のようなものが見受けられますよね。


 透瓏さんは生き残りが目的のように思えますが、要するに、それこそがほかのプレイヤーの勝利条件になっています。つまり、あなたを殺すことが全員の目的だったわけです。降屋さんや露木さんのお話の辺見さんと同じ立場です。

 フリードは核兵器の除去ということになりますね。仲間の全滅も提示されていましたが、それはブラフだったようですし。


 これは、デスゲームの舞台以上にバラバラです。これはどう考えたら、いいのでしょう。

 つまり、これはそれぞれのゲーム自体に目的がないということです。さまざまなゲームに観客がいて、戸惑うプレイヤーを眺めていると考えているとしたら、どうでしょう。

 それぞれのデスゲームに、辺見や寄見よりみ以上の権限を持つ者、上位存在がいることになるのではないでしょうか。そうすると、辺見や寄見はその存在から使われる駒に過ぎないのかもしれません。


 それと、参加者ですね。それぞれのデスゲームに参加する者には特色があります。

 伝吉さんは霊界に導かれたもの、あるいは死者であると言っていましたね。

 降屋さんは会社で働く、同僚たちです。不思議なことにその役割が見事にバラけていました。これには正直、作為的なものを感じています。うん? 気のせいだとおっしゃりたいのですか。私にはそうは思えませんけど。

 透瓏さんは自身の関わった犯罪者でしたね。フリードも少し近いですが、軍の秩序を破ったものだったようです。

 露木さんは妖怪たち……ですか。これはプレイヤーなんでしょうか。フリードのミュータントに相当する外部勢力のようにも感じられます。


 透瓏さんとフリードは対象が近いですね。これは二回目のことです。ただ、フリードにはミュータントという敵もいたわけですから、完全に一緒とは言いづらいところがあります。

 伝吉さんと露木さんの対象も近いところはありますが、霊界に呼ばれたものと妖怪とでは大きな隔たりがあります。


 何らかの罪を犯したものと、偶然巻き込まれたもの、それに元々そこに存在しているもの。

 ふむふむ、わかりました。これは何の脈絡もありません。ふふ、わかってますよ。そんな結論じゃ意味がないと言いたいのでしょう。


 逆です。これは脈絡がないという結論にこそ意味があると思っています。これは何かしらの認知バイアスがかかっているものと考えたら、どうでしょうか。

 同じ存在、あるいは似たような存在を相手しているにも関わらず、それぞれのシチュエーションや心情によって、相手に対する見方が変わってしまうこともあるでしょう。


 それがどういうことなのか、先ほど話した私の話を最後のピースとして、これから解き明かしたいと思います。

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