語りを終えて
第十話 必要以上に死を恐れることはない(When I died, I was surprised.)
うん? 俺が死んでしまった。
どういうことだ。そんなつもりで話していたっけ。
そんな俺に対し、
「なにそれ。結局、私が話したことをフォローしただけじゃないの」
俺は返事に詰まってしまった。確かにそうだ。
露木は核戦争で世界中の人々が死に絶えた話をして、俺は実際に核ミサイルが放たれる場面に遭遇したと語った。確かに、互いを補完する内容だと言われても仕方がない。
この会話に意気揚々と参加してきたのは茶髪の弁護士、
「ほら見たことか。神宮さん、あなたも話し始める前は忘れていたんですよ。自分が死んだことをね。どうもね、そういうことあるみたいなんですよ。
私が話したことは正しいんです。私たちは核戦争に巻き込まれて死んでしまった。ここは死後の世界です。
あなたもそれを認めたということでしょ。それでいいんだよ、それで」
なぜか勝った気になっている。どうやら、この男は自分が言い負かされたり、自分の言い分をないがしろにされることが我慢ならないらしい。つまらないプライドだ。
そんなチンケな自尊心のためにいちいち死んだことにされても堪らない。私は困惑していた。
だというのに、さらに話に加わってくるものがいた。伝吉なるじいさんだ。
「いや、俺もわかるぜ。ここはそういう霊的な場所なんだ。霊魂となったあんたらがここに来ていて不思議じゃない。
とはいっても、俺は死んだわけじゃないがね」
何を言っているのか、わからなかった。それっぽいことを言って、発言した気になろうとしているようにしか思えない。このじいさんの言うことはどれもそうだ。ふわふわした物言いで自分を正当化しようとする。
これに異を唱えるのは、もはやイラストレーターだという
「皆さん、何を言っているんですか? 頭、おかしくなっちゃいました?
ちゃんと思い出してください。戦争が起きたことも、核ミサイルが落ちたことも、私にはまったく覚えが……。あ、あれ? え、えと……。い、いや、ないですよ!」
しかし、なぜか歯切れが悪い。力強く否定できないものを感じているというのだろうか。
彼女の語りのラストは破滅ではなかったが、同じような記憶が蘇ったとでもいうのだろうか。とはいえ、それはそれで、彼女自身もどうやら納得できないものを感じているように見受けられる。
「We're dead. Do you really think so? The sensation now, the showing off of the whole body, the pain, everything has a raw feeling. I disagree with that claim.
(私たちが死んでいるだって? バカバカしいことだ。見てください、この筋肉のみなぎり、肌のつや、触っているという実感。そんな幻想を抱くのは疑心暗鬼になっているからにほかならないでしょう)」
そう、それは本当に疑問だった。なぜ、自分たちが死んだなんて思えるのだろう。ここが死後の世界だって? そんな風にはまるで思えないのだ。
そんな思考を巡らしていると、
「んー、皆さんのお話、とても参考になりました。それでは私に話をさせてもらっていいですか?
ただ、残念ながら、私は皆さんと違って、デスゲームに参加したのは初めてのことです。ただ、気づいたことがありますので、そのことを話します。
皆さんも疑問に思ってますよね。ここが一体、どこなのか。なぜ殺し合いをしなくてはならないのか。それに、
その前に、ここの施設を見て感じたことと、皆さんのお話から腑に落ちるものがありましたので、まずはそのことを語らせてもらいましょう」
相変わらず、その言葉には奇妙な説得力があった。詐欺師や教祖なんてやったら天職だろう。
けれど、こんな雑多な語りの寄せ集めに本当に意味なんてあるのだろうか。皆目、見当がつかない。
そんなことを考えていると、馬坂は話し始めた。
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