第二話 憎むべきは罪、人に非ず(Hate Sin and Don't Hate Others.)

 私たちはオスプレイから落とされ、落下した。ここは一体、上空何メートルだろうか。すでに背中にはパラシュートが積まれている。しかし、手足は相変わらず縛られたままだった。


「おいおい、ここでゲームオーバーじゃないだろうな。ガッカリさせないでくれよ」


 耳元から、ヨライム・グワント軍曹の声が響く。ヘッドホンを付けられているらしい。

 私は必死で手元の縄をほどきにかかる。それは周囲の連中も同じようだった。必死で縄を解こうとしているのがわかる。


「まあ、この時間は退屈かもな。今のうちに、ルールを説明しておこうか。

 まず、勝利条件だが、これは簡単だ。さっきも話したが、島の最奥にある軍の機密物資を回収すること。だが、勝利条件はこれだけじゃあない。もう一つ、お前たちは6人の部隊だ。だが、それが最後の1人になった時、その1人が自動的に勝者となる。

 ははは、面白くなってきたと思わないか。協力して使命を果たしてもいいし、裏切って最後の1人になってもいい。この駆け引き、この葛藤こそが、罪を贖うってことなのさ」


 グワント軍曹の言葉は続いていた。

 私は指を必死に動かしていたが、ようやく爪の中に仕込んでいた小型のブレードを起動することができる。そのブレードで縄を切り、両腕が自由になった。

 パラシュートを開こうかと思ったが、まだ高度があることに気づく。


「それと朗報だ。我々はお前らに武器の支給を行う。

 島にいるのは変異体ミュータントどもだ。奴らを殺せよ。殺せば、その戦果に応じて、新たな武器を支給する。

 もう一つ。俺たちも鬼じゃない。島に上陸すれば、それだけで武器を手にするだろう。これは新兵器の実験も兼ねている。十分に活用しろ」


 余った時間で、足の拘束もブレードで切り裂いた。口元の猿ぐつわも外す。あとはタイミングを見計らい、パラシュートを開くだけだ。

 だが、グワント軍曹は妙なことを口走った。ミュータント? そんなものが私たちの向かう島にいるというのだろうか。バカバカしい物言いにも思えるが、ひどく危険なものも感じる。


「それと、当たり前のことだが、戦地から逃げようとするなよ。そんなことをしようとしたクズはその瞬間に死ぬ。生きる価値なんてない奴だからだ。

 作戦期間は2日間だ。それを超える場合はやはり、全員死ぬ。覚悟しておけよ」


 高度は十分だ。ハッチのキーを引いた。小型のパラシュートであるパイロットシュートが開き、それに作用してブライダルコードが伸び、パラシュートの蓋をしているピンが外れる。ピンが外れることで、バックが引っ張り出され、パラシュートは空気抵抗を受けて膨らんだ。

 ふわっとした感覚とともに、落下速度が落ちる。周囲の軍人たちも同じだった。落下速度が緩み、目的地に向かい、徐々に落下していった。


 だが、それが叶わなかったものもいた。パラシュートは開かず、そのまま落下し、海に叩きつけられる。

 縄をほどく手段がなかったのだろうか。それとも、パラシュートの整備が行き届いていなかったのかもしれない。

 哀れだが、助からない。


 海面に降りると、その死体を見る。見知った顔だった。ビリーだ。

 ビリーはつまみ食いの癖があり、何度か捕まったことがあると聞いている。その許容量が過ぎたのだろうか。だが、たかがつまみ食いの代償としては、哀れというほかない。

 神に彼の魂の安息を祈ると、私はその場を後にする。私に続いて、ビリーに駆け寄るものがあった。同じように安息を祈るのだろう。


 島に上陸すると、頭上から箱が落ちてきた。頭上にオスプレイが降りてきているのがわかる。この箱に武器があるというわけか。

 私は自分に降りてきた箱を開けた。そして、それを瞬時に、ポケットにしまい込む。あまり他人に見られない方がいい。そんな直感があった。だが、それだけでもない。


 何者かが私たちの前に現れていた。それに気づいた瞬間、私の近くにいた一人の軍人が頭から血をほとばしらせ、倒れ込んだ。

 なんだ? 何が起きた? 全く理解できなかった。


 私たちの前にいたのは、色白の肌をし、全身を覆うローブをまとった者たち。この者たちがミュータントだというのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る