第九話 まさか、勝ったと思ったの? なら、あなたの勝ちでいいけど

「うん、まあ、そうかもね。露木つゆきさん、あなたの勝ちなんじゃない。辺見瑠璃へんみるりはあなたに殺された。私からはそれがわかる」


 四谷さんはその甲高い声を響かせて、そう言った。私はそれを聞いて、にんまりとした笑みを浮かべる。


「じゃあ、戻れるよね。こんな、おかしな場所から。妖怪とか、気持ち悪いから無理なのよ」


 そう口に出したが、それを肯定はされなかった。


「確かに、あなたは死者たちによる遊戯デスゲームに勝ったよ。おめでとう。嬉しいよね」


 目玉の四谷さんはそう言うと、息を飲み込んだ。


「でもさあ、ねえ、聞きたいんだけどさ。ゲームをやって、勝つじゃん。クリアするじゃん。それで何かいいことがあったことある? 賞品もらえるとかさ。賞金が出るみたいな。ないよね?」


 その言葉から記憶を呼び覚ました。


「いや、そんなのあるけど。

 小学校の時のお楽しみ会では勝ったチームにドロップがもらえたよ。先生が秘密だって言いながら。

 ハッカが出た時は、せっかく勝ったのにって、悔しかったけど」


 私が話す言葉を四谷さんが冷ややかに聞いているのがわかる。動揺しながらも話を続けた。


「それに、子ども会の時は勝ったら、ジュースもらえたり、アイスクリームもらえたりしたかな。私が作戦考えて勝ったこともあるし、クイズに答えたら負けの時があるの、知ってたし」


 言葉に動揺が出ていたかもしれない。なぜか、声が震えていた。


「そうよね。もらえたとして、そのくらいよね。

 ビデオゲームで勝ったって、なんだか嬉しいってくらいじゃない。達成感は否定しないけどさ。

 何十人と対戦して、その中で一番になったって、結局はアバターとか壁紙とか、そういうのがもらえるくらいでしょ」


 そう言いながら、目玉の四谷さんは笑う。私には、そういうもんだよなあ、という気持ちしかなかった。


「ゲームに勝って、本当に欲しいものがもらえることなんてないのよ。どうして、そういう考えに到らないかな。所詮、遊戯なんだから」


 私はハッとする。勝てば、元の世界に帰れるなんて、私が勝手に思っていたことだ。契約して確約させたことでなければ、ルールとして提示されたことでさえなかった。

 ようやく、事の重要性に気づいたのかもしれない。


「私、言わなかったかな。あなたたちはもう死んでるって。死者が甦ることなんて、あるわけないじゃない。元の世界に戻るっていうのはそういうこと。

 核戦争が起きたの。日本人はほとんど一斉に死んでしまった。だからかな、死んだ後も社会を営んでいるのよ。死者たち、全員でね。それで、生き残った人間を会社に来ないとか、アポイントメントを守らないとか、そんな風に思っちゃってるの」


 私はすでに死んでいると言いたいのだろうか。寄見よりみさんも同じなのだろう。私たちは欠勤している四谷さんの様子を見に来たんだ。ということは、四谷さんは……。


「私は生きてるよ。かろうじて、まだね。貯水槽に水がまだ残ってるし、災害用のカンパンがあるから、それで食い繋いでる。

 まあ、片目は潰れてるんだけど。だから、こっちの世界も覗けるんだけどさ」


 四谷さんの話で絶望的な気持ちになる。そうか、私はもう死んでいる。

 でも、それなら、こういうこともあるんじゃない。


「じゃあさ、せっかく勝ったんだし、アバターくらいくれてもいいんじゃないかな。ここの背景も変えてほしい。そのくらい、叶えてくれてもいいよね」


 自棄になったような気分でそんなことを喚いた。だが、それを四谷さんは否定しない。


「それなら、いんじゃない」


 その言葉を受けて、私は呟く。


「アバターを変更チェンジ

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