語りを終えて

第十話 受け入れられたようね、良かったんじゃない

「そういうわけで、私はこの見た目になって、この場所に来たってわけ。ちゃんちゃん」


 私は話を終えた。きっちりオチをつけられたように思う。あれ、このオチ、自分で考えたんだっけ?

 自分がウソを話したのか、そんなことはないのか、私にはわからなくなっていた。でも、確かに現実にあったことだと思える。このことは実際にあったことなのだろう。


「なんですか、それ? オカシイじゃないですか? それだと、私たちはもう死んでいることになりますよ」


 えと、誰だっけ? あ、麗子れいこさんだ。綺麗だし、いい人だと思ったのに、なんで私を否定するようなことを言ってくるんだろう。

 カチンとスイッチが入り、怒りが燃え上がり始めた。私ががんばって話したことなのに、なんでそんなこと言うのよ。

 そう思った矢先、助けが入った。


「いや、この話は正しいことだ。俺も言ったろ? この場所は死後の世界だってよ。

 生きてるうちから来ることもあんだけどよ、死者が迷い込むってこともあるんだ」


 伝吉でんきちさんだっけ。おじいさんが私のお話を肯定してくれる。

 そうだ、言ってやれ。麗子の無識を思い知らせてやるんだ。

 そう思ってると、別の声が上がった。


「いやいや、彼女の言ってることは正しいんだ。戦争は起きた。俺はそれを間近で見たんだからな。俺はそれで死んだことをよく覚えている。

 あんたらもそうだよ。核戦争で死んだんだ。思い出してくれないか。

 うん? それだと俺は死んだことになるか? 俺は生きているが」


 弁護士の透瓏とおるさんだっけ。

 でしょ、でしょ。私の話は信じたほうがいいよ。真実なんだから。


「んー、どうなんでしょう。彼女のお話、手放しで信用するのは難しいとは思いました。もちろん、有意義なお話だとも思うんですけどねえ。

 それにこの施設に来てからの話も聞きたいんですが……」


 コンサルタントの馬坂ばさかさんだ。なんか、どっちつかずのコメントだった。

 あんたは私と麗子、どっちに着くのよ。イライラとした感情が募っていく。


「もちろん、話すつもりよ。私、ここでも辺見瑠璃へんみるりと会ったんだし。いきなり襲いかかられたんだけどね」


 私が再び話を始めようとすると、それを制止する人がいた。コスプレマニアの……神宮じんぐうさんだったかな。


「アーハン、露木つゆきさんのお話をこれ以上聞いても、煙に巻かれるだけじゃないデスカー。

 後で聞いてみるのもいいですが、まずは私に話させてクダサーイ」


 なにそれ? イライラすること言ってくれるじゃない?

 でも、確かに話し疲れた。それに喉が渇いている。カバンを漁った。水の入ったペットボトルを取り出す。けれど、いつの間に飲んだんだったかな。空っぽになっている。

 水を持っていないことを自覚すると、喉が渇いて仕方なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る