第九話 逃げ道なんかない? ケケッ、気づかねぇよなあ
森の中を当てもなくさまよっていた。もはや方向感覚なんてものは存在しない。
「一体、ここはどこなんだ……」
思わず、ぼやいてしまう。
そんな時、妙な音が聞こえた。ピチャピチャ、ピチャピチャ。水の垂れるような音だ。背後から聞こえる。
俺は恐る恐る振り返った。木の上に
まさか、こいつ人間を食べているのか。
恐ろしかったよ。まさに、本能が直接命令を下すような感覚だった。
全身に電撃が走ったように、俺は全身全霊で駆け始める。
どれだけ走っただろう。永遠のようにも、一瞬のようにも思えた。
必死で走っていた俺は何かに足を取られ、思いっきり転んでしまった。思い切り顔から着地してしまい、額と頬から血が流れる。左目も傷つき瞼を開けることもできない。膝や肘も擦りむいている。痛い。痛すぎる。
足元にあるのはパイプ管のようなものを組み立てたトラップのようだ。いや、これは水道管か?
「カァーッカッカッカ、俺のトラップにまんまと引っかかったな。ククク、このまま俺の水道管にお前の血を流してくれるわ!」
俺はどうにか上体を起き上がらせると、座った姿勢のまま、水道橋から逃れるべく、じりじりと後ろへ下がる。
水道橋が水道管を振り上げた。俺の頭に振り下ろすつもりだろう。
だが、遅い。水道橋の背後には辺見が現れていた。俺がじりじり移動していたのは辺見との間に水道橋が入るようにするためだ。
思惑は当たり、辺見は水道橋に襲い掛かった。
バキバキバキバキバキ
辺見が水道橋の頭に噛みついていた。硬いものをへし折るような巨大な音が響く。水道橋の頭蓋骨がちょっと堅い煎餅ででもあるかのように、バリバリと音を立てて、瞬く間に砕けているのがわかった。
その間に、俺は立ち上がると、もう一度全速力で走り始めた。
行先はわかっている。水道橋は池からずぶ濡れで出てきて、そのままここに来たんだ。水でびっしょりと濡れて、道しるべになっている。
ぜーはーぜーはー
必死で走っていたが、さすがに息が切れてきた。ついに立ち止まり、息を整える。
コツン
何かが俺の後頭部にぶつかってきた。
なんだぁ? 目線を後ろにやると、骨のようなものが落ちている。
どこだ? どこから来たんだ?
考えるまでもなかった。辺見が来ている。辺見は水道橋の死体を引きずりながら、時折、その死肉にかぶりつき、邪魔な骨を口から飛ばしているのだ。
「うわあああああ」
俺はみっともなくも悲鳴を駄々漏らし、体力が尽きかけているのも忘れて、再び走る。
意識が朦朧としながらも、森を抜け出し、どうにか道らしい道に辿り着いた。そして、その先には落とし穴がある。
だが、違和感があった。穴には落ちた形跡はあるが、這い出た形跡がない。前に見た時には、目黒が頭から突っ込んでいたはずだ。
考えをよぎらせ、走るスピードが落ちたせいか、また、コツンと頭に骨がぶつかる。辺見が目前まで来ているんだ。
ええい! ままよ!
俺は穴の中に飛び込んだ。想像以上に深い穴だった。
だが、中はすべり台のようになっており、スムーズに先に落ちることができる。
思った通り、この穴は目黒の作った逃走経路だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます