第八話 敵の敵はやっぱり敵だ、震えているな、ガッハッハッハ

 説教等妨害罪せっきょうとうぼうがいざいというのは、要するに宗教儀式を邪魔する行為のことを指す。それは、宗教指導者の説教だったり、礼拝だったりするわけだが、この中に葬式も入るんだ。

 辺見瑠璃へんみるりがやったのはその葬式の妨害さ。


 そうそう、じいさん、伝吉さんだよな。あんただったよ。

 辺見が暴れたのは伝吉さんの葬式だった。だからだよな、あんたは辺見に何回も殺されたって言ってたよな。辺見がやったのはそれに似た行為なんだな。あいつのせいであんたの葬儀は遅れに遅れたんだから。

 だからだよな。辺見を殺すとしたら、じいさん、あんたに動機があるんだ。


 うん? 俺、何か変なことを言ったか?

 確かに矛盾したことを言っている気がする。ちょっと待て、整理するか。

 ……ダメだな。無理だ。深く考えることができない。

 あ、あああ! あ、頭が悪い。なんなんだよ、思考力が落ちているぞ。


 まあ、いい。話を進めよう。

 辺見は吉野の体の中から湧いて出てきた。意味がわからんよな。俺もわからん。

 だけど、好都合なことに、道の脇でへたり込んでいる俺には目を向けなかった。テロ等準備罪とうじゅんびざい寄見頑人よりみがんとに目を向けたようだ。

 辺見の来た方向には吉野の死体が転がっている。さすがの寄見も怯んだのだろう。背中を見せて逃げ出した。


「くっ、なんだかよくわからんが、こっちに来い。俺の準備はお前なんかに負けない。

 この一帯には地雷を仕掛けているんだ。一発でも踏めば、それでサヨウナラだ」


 アホなのか、あいつは。俺にも聞こえるような大声でそんなことを宣っている。

 そんなことを言ってちゃあ、追いかけてくるようなバカもが……。


 ドゴーン


 派手な爆発がした。轟音が響く。

 まさか、ウソだろ……。俺は唖然としたね。

 その爆発に巻き込まれ、寄見が吹き飛んでいた。自分で踏むとか、即落ち二コマかよ。


 しかし、そのダメージは深刻なようで、寄見の腰から下は見事に吹き飛んでいた。とても笑えるような状況ではない。

 幸か不幸か、息はあるようで、「あ、あ、あ」という唸りとも喘ぎともつかない、声が漏れ聞こえてくる。


 その爆発を見届けた辺見は、くるりとこちらを向いた。俺の目と辺見の目が合ったのがわかる。その長方形のような瞳孔が歪んだ。

 そして、ニタァーという嫌な笑顔を見せて、直線的にこちらに向かって走りだした。


「う、うわああああああ」


 恐ろしかったよ。

 辺見は一言もしゃべらず、犠牲者が出ると、気持ちの悪い笑顔だけ浮かべて、ターゲットを切り替えたんだ。

 寄見は自爆のようなものだったとはいえ、それも辺見に追い詰められた故だろう。


 俺は走る。辺見から逃れるために、無我夢中で。

 いつしか、俺は道を外れ、森の中を突き進んでいた。草木や蔦が俺の身体に巻き付いてくる。

 死の危険を振り払うように、植物を撥ね除けながら進んでいたが、やがて、はたと気づいた。どこに進んでいるというのだろう。


 完全に道に迷っていた。

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