舞手井透瓏の語り その二

第七話 ルールがわからなきゃお手上げか、どうすんだ、オイ!

 これはゲームだと声は言った。

 確かに、俺の耳につながれたイヤホンから流れる声はデスゲームだと言ったのだ。

 ゲームであるからにはルールがあるはずだ。まあ、それは伏せられており、実に卑怯なゲームだというべきだろうが。


 それでも勝者には恩恵があるはずで、だからこそ、この島の犯罪者たちは躍起になって襲ってきている。そのはずだ。

 一番あり得るのは、勝者しかこの島を出ることができない、というところではないだろうか。

 こんな殺し合いを肯定する島の存在を主催者は社会の中で公にしたくはないだろう。相当の金を持っていなければ、こんな狂気の沙汰を実行に移すことはできない。だが、こんなことを行っているとバレては社会的地位も何もなくなり、金を稼ぐこともできなくなるだろう。

 つまり、この島から出れるのは少数。おそらくは勝者のみだ。


 その脱出手段だが、今もこの島にあるはず。

 俺を殺して勝者になる奴がいるとして、そうなった時点で島に混乱が起きる。敗者が決定するわけだからな。だから、勝者をすぐにこの島から逃がしたいはずだ。

 脱出手段がほかの島に待機しているなら、どうやったってタイムロスが起きる。主催者はそれを厭うはず。ならば、この島の中に脱出手段は必ず用意されているだろう。


 その場所とは、ずばり俺が目を覚ました小屋だ。

 そこならば、俺をむやみに移動させなくて済むし、俺が逃げれば逃げるほど逃げ道を失うという、その愚かしさが俺に対する溜飲を下げさせることだろう。

 ここは戻るのが正解だ。


 とりあえずの推理ではあるものの目的を定め、俺は戻ることにした。俺を殺そうとした奴に鉢合わせるのも避けたいが、迂回しては道に迷うだけだ。

 まっすぐに戻ることにしたが、俺を狙う相手に会うことはなかった。相手の盲点を突いたのかもしれない。


 だが、林の出口に差し掛かったところで、ダダァンッと銃声が鳴る。俺は思わず、のけぞった。

 ゾッとしたよ。俺の鼻先が銃弾で打ち抜かれていたんだから。鼻の頭から、たらりと血が垂れる。むしろ、この程度で済んだのは幸運だった。


「私は私戦予備陰謀罪しせんよびいんぼうざいのボーイング吉野よしの、懲役半年。

 お前にはわからんか、この私の崇高なる理念が。この国は金を送るばかりで、命を張って世界平和を守ろうとしない。その忸怩じくじたる思いがわからないか?

 私は違う。私は自分の命を張って戦うぞ。だれにも文句は言わせん。それが私だ。

 だというのに、お前は私が実弾と実銃で戦う機会を奪った。許せぬことだ!」


 まただ。こいつも俺のおかげで減刑されたのに、それを理解せず逆恨みしている。

 しかし、ごちゃごちゃ考えているような時間はない。相手は突撃銃アサルトライフルを撃ってきているのだ。

 逃げるしかない。


 ダダダダダダダ


 銃撃音を背にしながらも、ひたすら走る。幸いというか、吉野は銃刀法違反でもなければ、拳銃等発射罪でもない。私戦予備陰謀罪は他国との戦争状態に勝手に入ろうと準備や予告などを行う犯罪だ。決して、実際に戦闘慣れしてるとか、銃の扱いが得意だとかということはない。

 吉野の発射した銃弾は私には当たらない。要するに、下手っぴいなのだ。


 走っていると、人影が見える。あれはテロ等準備罪とうじゅんびざい寄見頑人よりみがんとだ。

 こうなったら、寄見に吉野をぶつけて、潰し合わせるしかない。

 俺は寄見の死角を選んで、彼に近づいていく。だが、吉野はそんなことはお構いなしに突撃銃をぶっ放していた。


 ダダダダダダダ


 寄見がこちらに振り替える。すると怒りの形相を見せ、胸元から火炎瓶を取り出して火をつけると、俺に向かって投げつけた。

 俺はとっさに道の脇に入り、火炎瓶を避ける。火炎瓶は吉野にぶち当たり、吉野の全身が燃え上がった。


「あがががががが」


 吉野は悲鳴を上げながらも、突撃銃を構え、辺り構わずぶっ放す。


 ダダダダダダダ

 カスッカスッ


 突撃銃の銃弾が尽きたのだろう。銃声が止まった。


「うっ、げぼぼぼ」


 だが、それ以上に異常なことが起こっていたのだ。吉野の口の中から手が出てきていた。銃弾が喉から手が出るほど欲しかったのだろうか。


「あばばばばば」


 吉野は呼吸困難に陥り、嘔吐するような嗚咽を鳴らす。口からは唾液が駄々洩れていた。

 しかし、口の中からの手はやがて吉野の顔を掴み、吉野の口の中からその手の持ち主が顔を覗かせる。

 まさか、吉野の体内に人間がいたということなのか。俺は困惑しながらも、突如現れたその者の様子を窺う。


 青紫の髪を垂らした中年女。辺見瑠璃へんみるりだった。

 説教等妨害罪せっきょうとうぼうがいざい、懲役半年。

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