第六話 そんな戯れ言にいちいち耳を貸してんのか、アァン?

 ジジイの話はめちゃくちゃだった。

 自分がヤクザの大親分だの、霊魂によってデスゲームに誘われるだの、カエルの玩具で戦っただの、聞くに値するものではない。

 しかし、辺見瑠璃へんみるりという女に関しての説明にはドキリとする。まさに、俺に襲い掛かってきたあの女のことじゃないかと思えたのだ。そう、俺は襲われた側だ。あくまで正当防衛だった。それは間違いない。


 そして、最後にジジイが見た死体の話をする。

 ろくに争った形跡もなく、拳銃の一撃で殺されたという。


 間違いない。このジジイは俺が辺見を殺した跡を見ている。いや、もしかすると、俺が殺したところも見ていたのじゃないだろうか。

 争った形跡がないだと? あいつは襲いかかってきたんだぞ。よく知りもしないで、適当なこと言いやがって。

 これは何が何でもジジイを犯人に仕立て上げてやるしかない。


「それで終わりなんですか? そんなんじゃ、結局、伝吉でんきちさん、あなた以外に目撃者はいないじゃないですか。ということは、あなた以外に容疑者もいないんですよ。

 第一、俺は銃声なんて聞いてない。この中で銃声を聞いた人はいますか?」


 これは賭けだ。満場一致で銃声を聞いたとなると、分が悪くなるだろう。

 だが、それでも、自分は犯行現場と離れ場所にいたか、犯行時間にはその場所にいなかったと言い張ることもできる。


 幸いなことに、銃声を聞いた者は誰もいなかった。

 よし、俺の犯行だとはこれでバレないだろう。


 しかし、ジジイをさらに追求しようとした俺を馬坂が止める。

 馬坂には妙な圧力と説得力があり、気づいたら納得させられてしまった。


 続いて、地味女の降屋ふれやが話し始める。

 これもまた荒唐無稽な話だった。


 なんでもゲーム開発中に偶発的に生まれたAI、それが辺見なのだという。

 バカバカしい。そんなはずがない。現に俺はさっき出くわしたんだ。あれがゲームであるはずないし、今もゲームや夢の中にいるような実感はまるでない。

 しかし、辺見が人の下半身をバリバリと食い漁るという話を聞き、何かぞわっとしたものを感じた。俺は知っている、そんな場面を。


 地味女の語りが終わると、ジジイが彼女に文句を言い始める。まあ、自分の語りを否定されていたし、食って掛かりたくなるのもわからなくはない。

 だが、くだらないことだ。どちらの語りもかたりに過ぎない。


「もう、喧嘩はやめましょう。無意味なことです。俺に話をさせてもらいますね。

 みんな思ってることだと思うけど、霊魂だとかVRだとか、ちゃんちゃらおかしいです。俺が真実を明らかにさせましょう」


 俺は二人の言葉を遮り、話し始めた。

 この茶番劇はここで終わる。犯人はジジイ、お前だ。

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