第五話 話し合いなんかで解決できんのか、ゴルァッ
広間に入ってきたのは、どうにも一癖も二癖もありそうな曲者ばかりだった。
まず、俺の隣にいる大男。こいつのことは知っている。自称実業家で自称コンサルタントの
物腰柔らかにもっともらしい口ぶりで中身のないコメントをする男だが、世間では知的なタレントとして一世を風靡したらしい。もっとも、そんなことが長続きするはずもなく、経歴詐称をすっぱ抜かれて一気にその地位を失っている。
とはいえ、ここの連中が本気で殺し合いをするつもりだとすると、ガタイのいいこいつが一番の難敵かもしれない。
そして、向かいの扉から出てきたジジイ。まあ、こいつはものの数に入らないだろう。痙攣したような歩き方をしてるし、もう、耄碌しているのが丸わかりだ。
で、女の子が二人。一人は小綺麗にしているが、どうにも地味な女だ。華はないが、中の中か中の上といったところか。
もう一人の女は随分派手で化粧が濃い。白いワンピースのような服装だが、ピッチリと体型の出るもので、スカートの丈も短い。キャバ嬢か何かか。化粧が濃すぎるが、ちゃんと化粧すれば、これも中の上くらいかもな。
あとは……。俺は最後の一人を見て、ビクッと衝撃を受けた。
あれは軍服だな。色褪せたグリーンの制服を着ており、胸元にいくつもの勲章が並ぶ。
まさか、本物なのか。いや、そんなはずないよな。見たところ、完全に日本人だ。イカれたコスプレ野郎だろう。そうだ、そのはずだ。
まず、気をつけるべきは俺がすでに殺人を犯していると気づかれないことだ。ここがどういう場所であろうと、デスゲームなんてイカれた行為に巻き込まれてはいけないし、すでに巻き込まれていると知られてもいけない。
俺は頭を回転させてどう振る舞うべきかシミュレーションする。そんな中、口を開くものがあった。ジジイだ。
「俺は
実は、俺、死体を見たのよ。30~40代くらいの女の人だった。本当に殺し合いをしようなんて奴がここにいるってことだよな。みんなで状況を話し合って、犯人を見つないとまずいぜ」
ギクリ。
俺の頭の中でそんな音が響いたように感じた。まずい。このジジイは俺を見つけようとしている。
額から冷や汗が流れてくるが、そんなことを感づかれてはいけない。
「デスゲームなんて本当のことなんですか!?」
地味女が悲鳴のような言葉を発した。声が上ずって震えている。怯え切っているのが見て取れる。急にこんな状況に陥ったのでは無理もない。
だが、そんなことは俺の気にすることじゃない。そうするべきだろうか。何かを言わなくては疑われるかもしれない。気持ちが焦るままに声を上げた。
「バ、バカバカしいですよ。日本という国は法律によって守られているんですっ。殺し合いだとかデスゲームだとか、そんなことが許されるわけなぁい。そんなことを始めようものなら、すぐに関係者各位が明るみに出て、法の裁きを受けるはずです。
って、じいさん、あんた……!!」
俺は自分で発言しながらもビクビクと恐怖を感じていた。そうだ、俺の殺人も明るみに出てしまうのだろうか。
そんなことを考えながら、ジジイの足元に目が行く。血がびっしり付いていた。俺自身の恐怖とともに、血を見た驚きが合わさり、変な声を上げてしまった。
「おじいさん、死体の血が着いてるよ。そのまんまで来たの?」
派手女が怯えながらも発言している。
よし、こうなったら、このジジイを犯人に仕立てよう。そうすれば、俺が殺しことは有耶無耶になるはずだ。
「ホワッツジャパニーズ! おかしいよ! デスゲームなんて正気じゃないネー」
軍服コスプレ野郎が何かをわめいている。明らかにニセ外人の喋り方だ。こいつは放っておいていいだろう。
「んー。おじいさんの言うことに真実があるようだ。我々はこの事態を打開するべく、話し合いをすべきだね。
まずは自己紹介をしてみないかい」
馬坂が発言する。太いが安心感のある声で、妙に説得力があった。確かに、直接この男に触れたものはコロッと騙されるかもしれない。
しかし、ネタは割れている。俺が騙されることはない。
「俺は尾野寺伝吉。さっき名乗ったよな」
ジジイが馬坂に乗って声を上げる。
「
続いて、地味女が名乗った。
そろそろ俺の番かもしれない。俺は声を上げる。
「
犯人のことは絶対に許されない。協力して見つけ出しましょう」
堂々とした発言。これは犯人とは疑われないだろう。
「
これは派手な女だ。OLの化粧には見えないけどな。
「フリード・
はいはい。
「んー。私は馬坂熊猪知狼。実業家でコンサルタントをしています。
ニュースキャスターを降りた件で根も葉もない噂がありますが、当然真実ではありませんので、お気になさらずに。
ここからは、皆さん、順番に話していこうと思いますが、よろしいですか」
馬坂の名は最初から知っている。
だが、ここで馬坂が場を仕切り始めていた。どうにか主導権を握り返さなくては、ろくなことにはならないだろう。
そう思っていると、ジジイが話し始めた。
「馬坂さんの言うことも、もっともだ。
死体を見ているのは俺だし、まずは俺から話を始めようじゃないか」
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