第三章 舞手井透瓏@弁護士

舞手井透瓏の語り その一

第一話 透瓏、お前の話に価値はあるんだろうな、ケッ

 もう、みんな覚えてくれてるかな。弁護士の舞手井透瓏まいていとおるだ。

 法律関係で困ったことがあったら、俺に頼って……、いや、無理か。俺は格式の高い弁護士なんでね、あんたらに俺を雇う金があるようには見えないわ。困ったときは、法テラスにでも相談してくれ。


 まあ、そうだな、まずは順を追って説明する。ちょっと、まどろっこいいかもしれんが、落ち着いて話を聞いてくれ。

 あれはいつものように裁判が終わった時だった。


 うん? 裁判の内容か。詳しいことは言えないんだけどな。まあ、少しだけ言うと、著作権に関することさ。

 なんだ? あんた、そんな目でこっち見てきて。ああ、心当たりがあるんだな。ダメだよ、悪いことはやっちゃさ。


 そうは言ったけどね、そん時もこっちが不利な裁判だったんだ。まあ、勝ったけどな。

 黒を白と言い張るのが弁護士だ。それができない奴は向いてないとしか言えないね。がんばって司法試験を通ったんだとしても、そんなこと関係なく、才能の差ってやつは当然あるからさ。


 とはいえ、結果ってやつを受け入れられない奴もいて、そん時は困っちまったわけよ。

 裁判からの帰り道、問答無用でクロロホルムを嗅がされて、スタンガンをガガガと浴びせられ、後頭部にガンと当て身、鳩尾みぞおちにズドンと一発よ。そこまでやるか、って感じだよなあ。

 これには俺もひとたまりもない。気絶しちまったよ。後からわかるんだけど、これは裁判でやっつけた相手方の息のかかった奴だったんだ。


 ただ、なんとなくの意識はあったわけ。俺はヘリコで飛ばされてんなぁとだけ、なんとなくわかっていた。だけど、どこに飛ばされてるかなんて、わかるわけないよなあ。

 でも、少しは当たりはついたよ。飛行時間の長さや気候の変化から考えて、俺は南方の島に飛ばされていたんだ。おそらく、無人島にな。


 で、その島の小屋の中に置き去りにされたんだ。目を覚ました時にはイヤホンからギンギンに音声が流れてきたよ。


「この島にいるのは全員犯罪者だ。皆がお前を狙っている。お前を殺すつもりだ。殺られる前に殺れよ」


 録音された音声らしくて、それが何度も流れてくる。俺がイヤホンを引き剥がすまでな。

 最初のうちは薬の影響か、腕を動かす気力だってないんだ。ほんと、拷問みたいだった。あるいは洗脳かもな。

 島を歩く俺の頭の中には、さっきの音声がリフレインしていた。なんかさ、それだけで人を殺さなきゃって気分になるもんなんだ。ほんと、怖いよ。

 けど、俺はそんな感覚に負けなかった。


 だけど、俺の前にあいつが姿を現したのさ。ハアア、そいつのせいで、俺の思惑は全部裏目に出たんだ。

 そいつの名は寄見頑人よりみがんと、犯した罪はテロ等準備罪とうじゅんびざい。懲役は1年。


「俺はよ、あんたのせいでムショに1年も入れられてたんだ。恨み骨髄ってやつよ。

 お前にわかるか? 準備したテロが実行できない気持ちが」


 そうか、もう出所してやがったのか。しかし、何寝言ほざいてやがんだ。

 俺が弁護してやったから、あからさまに、ガッツリと準備してあったにも関わらず。たったの1年で出てこれたんじゃないか。


「感謝されこそすれ、恨まれる筋合いなんてないぞ」


 そうは言ったが、寄見には俺の説得に応じる気配はまるでなかった。

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