語りを終えて

第十一話 今は追及の手から逃れるのがいいんじゃないかな

「わしがアバターじゃと! そんなわけないじゃろ、わしの肉体はちゃんとあるぞい」


 話し終えた私におじいさんが激昂した様子で詰め寄ってきた。

 ちょっと無茶苦茶なことを言い過ぎてしまったかも。でも、私は精一杯話したよ。これ以上ないくらい、しっかり話したはず。


「まあまあ、伝吉さん、そんなことはいいでしょ。それより、こっちに来てから何をしてたか話してもらえない?」


 胡散臭い弁護士さんがおじいさんを止めてくれた。この人、ちょっといい人かも。

 でも、困ったな。辺見へんみさんの死体を踏んづけて砕いたなんて言わない方がいいよね。死体損壊とかで罪に問われるかもしれないし。


「そうはいってもですねー、ここに来てからずっと廊下を歩いていたんです。何も変わったものはなくて、強いて言うなら、この部屋の扉くらいです。特別なことは」


 そう、私には話すような出来事はなかったんだ。だから、何も話せない。


「しかしのぉ、さっきの話は、わしの話を否定するような内容ばかりじゃった。まさか、わしがウソをついているとでも言うのかのぉ」


 そうじゃないかな。私は全部、本当のことを話した。だから、おじいさんの話と食い違っている部分は全部おじいさんの作り話なんでしょ。

 そう思った私はそのことをそのまま伝えることにする。


「そうですね。おじいさんの作り話なんじゃないですかぁー。私の話は全部本当ですから」


 この言い合いに対して、口を挟んでくる人がいた。化粧の濃いOL、露木つゆきさんだった。


「私もゲーム会社と取引しているのよ。プログラマ集めて会社やってるの」


 どこか気だるげな口調で、淡々とそんなことを言う。

 うん? 何の話? それで何か関連した話になるのだろうか。ちょっと、見当もつかなかった。それに今の言い方だと、自分が会社を立ち上げたかのように聞こえる。えーと、さっきはOLだって言ってなかったっけ?

 おじいさんも彼女の言葉を煙たげに撥ねのける。


「今は降屋さんの話を聞いているのじゃ。あんたは黙っといてくれ」


 おじいさんが露木さんを制止する。露木さんはあからさまに不機嫌そうになり、話を続けようとした。けれど、その前に、今度は軍服を着た神宮じんぐうさんが声を上げた。


「ホワイ!? ジャパニーズ、おかしいヨ! おじいさんもフレヤさんも今日のことを話さず、昔話ばかりスルヨ! 変じゃないノ? 何かゴマカそうとしてるデショ!」


 ギクリ


 軍服オタクのおじさんにしては妙に鋭い。

 いや、そんなことはない。私は本当のことをしゃべった。そう、私はウソなんてついていない。私はトレースでイラストを描いたりしていない。私は潔白だ。


「胡麻化してなんかない!」


 私は自分を否定する言葉に怒りを持った言葉で返した。

 それに対し、ウソつきのニュースキャスターが間を取り持つように口を出してきた。


「んー。喧嘩してもしょうがないですよ。それぞれの検証は後回しにして、次の話を聞いてはどうでしょう」


 妙に説得力のある言葉だった。テレビ局の人たちもこの声が持つこの雰囲気に騙されたのだろう。

 私は騙されないぞと意識をはっきりと持つ。


「じゃあ、俺に話をさせてください。

 あのね、伝吉さんも降屋さんもね、言ってることめちゃくちゃなんですよ。みんな、思ってることだと思うけどね。

 霊魂だとかゲームの中だとか、そんなわけないでしょ。俺が現実に起きたことをはっきりさせてやろうじゃないか」


 発言したのは弁護士さんだった。

 私は自分を否定されてはらわらが煮えくり返るような思いを感じる。怒鳴りつけたい気持ちがあっが、それはどうにか理性で抑えつけた。ただ、キッと睨みつける。

 この人は一体何を話すつもりなんだろう。

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