第五話 話し合いって大事だって、そう思うんだよね
「それで実はな、わしは死体を見たのじゃ。中年の女性だったかのぉ。40代くらいに見えたのじゃ」
おじいさんは話を続けていた。けれど、私は中年の女性の死体を見たという言葉で固まってしまった。
私が頭を砕いたのと同じ女性のことだろうか。
でも、あれは私が殺したんじゃない。私が踏みつける前に、地面に倒れ伏していたんだ。そう、私が踏んでも悲鳴一つ上げなかった。ということは、すでに死んでいたんだ。ほら、私が悪いんじゃなかった。
私が必死で自己弁護をしている間におじいさんの長ったらしい話は終わっていた。
どうしよう、全然聞いていなかった。でも、何の返事もしなかったら、動揺しているのがわかってしまう。
私はびくびくしながら、声を上げた。
「そんな、本当にデスゲームなんてあるんですか?」
自分でも声が震えているのがわかる。この状況に怯えきっていると思われただろうか。
それでも、構わない。こういう状況で弱者と思われることは何も悪いことではない。私は守られるべき存在なんだ。
そんな中、怒号が響く。ガラの悪そうなサングラスの人だ。私はひぃっと縮こまる思いだった。
「おいおいおい、デスゲームだと!? そんなもの、あるわけねぇだろ! ここは日本だぞ! 日本でそんなこと、許されねぇんだ! そんなことやってる奴らがいるなら、今ごろしょっ引かれてるはずだ。
え!? いやいや、おい、じいさん、その足どうしたんだよ、おいおいおい」
サングラスの人は威勢よく喋っていたが、急にビビったような声を上げた。こうなると、この人も虚勢を張っているだけなんだと思えてくる。
けれど、サングラスの人の指すものを見て絶句した。おじいさんの靴にはべったりと血がついているのだ。
そうなると、あのおばさんを殺したのは、このおじいさんなのだろうか。
そう思っていると、隣で声がした。化粧の濃い女の子だ。
「じいさん、あんた、血がついてるよ」
気だるげな声だった。妙に落ち着いて、おじいさんの不注意を責めるような、場に似つかわしくない物言いだ。
だが、それ以上に似つかわしくない声が響いた。
「オーホワッツジャパニーズ! オカシイよ! ジャパニーズ! デスゲーム? そんなのアメリカにも祖国イタリアにもなかっタヨー! ナンデ、そんなのアーるノ!」
軍服を着た男性だ。この取り乱しようは軍人ではないということで確定だろう。「沈黙の艦隊」にこんな軍人は出てこないもの。
「んー。おじいさんの言葉、信じようじゃない。
私たちはこの状況を打破しなきゃいけないね。そのためには、まずは協力し合い、話し合おうじゃないか」
これを言ったのはウソつきの元ニュースキャスターだ。こんな人の言葉は聞きたくないけど、言っていることはそう外れているとも思えない。
「わしは名乗ったかのぉ。わしは
ウソつきの言葉におじいさんが乗っていた。こうなると、もうその流れに抗うことはできない。
「
こんなゲームで殺し合いなんてバカげてます! 皆さん、気をしっかり持って乗り越えましょう」
私はちょっと緊張しながらも、みんなの前で自己紹介した。
それに続いて、サングラスの人が話し始める。
「
意外なことに、彼は弁護士だった。こんな胡散臭い人でも弁護士になれるのかと、私はある意味で驚いていた。
続いて、化粧の濃い女の子が名乗る。
「
やっぱり外見だけで人を判断するのは良くない。露木さんもきちんと仕事をしている人なんだ。
次はコスプレ男が名乗り始める。
「フリード・
私は日本人とも深い血縁があり、でも元々はイタリアの英雄の末裔ネ」
なりきりのセリフだろうか。相当なコスプレ人と見た。私は応援するよ。
そして、最後は例の偽ニュースキャスターだ。
「んん。私ですね。
私の身辺は何の陰謀かなあ、根も葉もない噂が蔓延っているし、内通者も多いみたい。
でも、そんなことは関係ない。皆さんの環境を守ることこそ、我々の使命なのです」
なんだかわからないことを言っている。私は聞かなかったことにした。ウソつきの話になんて耳を貸すものじゃないもの。
すると、今度はおじいさんが急に喋り始めた。
「まずは、それぞれ証言をすることじゃの。その上で、この中に殺人犯がいないか、確かめるのじゃ。
死体を見たのはわしじゃし、まずは話させてもらうかの」
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