第四話 暗くて狭い通路だけど、がんばろう!

 物騒な言葉が響いていた。爽やかであり、艶やかでもある男性ディスクジョッキーの快闊かいかつな声から発せられるには不似合いなものだ。

 それに、私は一体どこを歩いているのだろう。そもそも、私はどこに向かうつもりだったのか。つい、勢いのままにラジオ局に潜入してしまったが、これからどこに行けばいいのか、まるでわからない。


 いつの間にか、通路の電灯の明かりが弱くなっている。そういえば、まだ昼間のはずなのに、窓の外は真っ暗だ。

 私は不安になり、歩幅は小さくなり、歩みは緩やかになっていた。足元もよく見えないので、慎重に、ゆっくりと歩いていく。


 ガチャン


 何か固いものをヒールで踏んだ。次の瞬間、固いものは砕け、グチャリと柔らかい感触が伝わってくる。

 私は嫌な予感がしてその場をすぐに離れた。そして、しゃがみ込んで、ヒールを脱ぐ。ヒールには血がべったりとついていた。いや、血だけじゃない。何かピンク色のもの。これはまさか……。

 スマホのライトを起動して、先ほど何かを踏んだ場所に光を当てる。そこには死体があった。頭が砕かれた死体が。


「――――っ!!」


 私が砕いたのは死体の頭だった。

 思わず悲鳴を上げそうになるが、どうにか声を抑える。こんなところを見つかったら、私が犯人だと疑われかねない。


 そうだ、パンプスは脱いでしまおう。バッグの中にスニーカーが入っているので、それに履き替える。パンプスをどうするかは迷ったが、入念にビニール袋に包み、バッグの奥へと押し込んだ。

 改めて、死体を眺める。中年女性の死体のようだった。頭が割れており、とても正視に耐えないが、肩まで伸びた髪が青紫色であることが妙に印象に残る。


 辺りを見渡す。誰もいない。

 今のうちにこの場を離れよう。

 私は小走りになって駆けだした。


 でも、どこに行けばいいのだろう。自分でも疑問に思うが、それでも死体のある場所に戻るわけにはいかない。とにかく先へと、どんどん進んでいく。

 やがて、突き当りに辿り着いた。曲がり道などはない。でも、その突き当りにはドアがあった。

 私はドアを開く。ギィと重い音が響いた。不思議なことに、この扉以外からもギィという重たい音が鳴り響いている。

 ドアの隙間から覗くと、そこは広間のようであり、私の入ったドア以外にもたくさんの扉があった。そのドアを開け、中に入ってくる人々がいるのが目に入る。


 こんな偶然あるだろうか。私が部屋に入ろうとするのと同時に、何人もの人々がドアを開ける。怪しい。あまりにも出来過ぎている。

 不審なものを感じるが、それでも先に進むという以外に選択肢はない。

 私はおっかなびっくりになりながらも、広間の中に入っていった。


 えーと、3人、4人、5人。5人が広間に入っていた。

 男の人が多いようだ。おじいさんもいる。腰が曲がっており、どこか体が悪いのだろうか。ヨレヨレとしたその歩みは全身に痛みが走っているように見える。

 それと年上の男性が二人。茶髪のガラの悪そうなサングラスの人。苦手なタイプだ。関わり合いになりたくないな、そう思う。


 もう一人は背が高く、顔の堀が深い。ダンディーなおじさん、というべきなのかもしれないけれど、この人は知っていた。

 少し前までニュースキャスターとしてテレビに出ていた人だけど、スキャンダルが明るみに出てやめている。そのスキャンダルというのは学歴から職歴まですべてがウソで、なんなら人種までウソだった。白人のハーフだという触れ込みだったけど整形しただけだし、卒業したという海外の大学もたった一日聴講しただけ。実業家やコンサルティングだという話だったけど、それも実態なんてないみたい。

 ウソつきは苦手。というか、人間的になしだと思う。この人とは関わりたくない。


 ふと、私の隣にいる人を見て、ギョッとする。

 軍服を着ている。軍人……なのかな。それとも病的なコスチュームマニアなのだろうか。


 そして、もう一人の隣の人。その人は女性だった。

 派手な化粧をしていて、とても堅気の人には見えない。いや、そうとも言い切れないか。

 私のいたデザイン会社にはバンドマンのような派手な出で立ちで出勤する人もいたし、モヒカンになって会社に来た男の子もいた。私は普通の恰好しかしてないけど。


 偶然なのか、仕込みなのかはわからないけれど、何か話さないわけにはいかないだろう。私は頭を巡らせる。しかし、何と言ったらいいかわからない。

 そんな時、おじいさんが口を開き、何事かを話し始めた。


「わしは伝吉というジジイじゃ。この場所、おかしくないかのお? 殺し合いをしろ、だとか言ってくるじゃろ。デスゲームっていうのかのぉ。こんな奇妙な場所なんてあるものじゃろうか」

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