第七話 死闘ヲ繰リ広ゲル
俺は自分が悲鳴も出さなかったことを褒めてやりたい。
だって、そうだろ。俺を何度も殺した相手と対峙したんだ。
うん? どういうことだって?
確かに意味がわからんな。あれ? なんでこんなことを口走っちまったんだ。
ちょっと待ってくれ。今のは、なしだ。忘れてくれ。
まあ、特徴を聞いていたからってのがあるさ。だけど、確かに不思議だな。直感ってやつかなあ。なんか、わかっちまったんだ。
辺見の特徴はまずは髪の毛さ。真っ青に近い紫っていうのかなあ、そんな色に染めているんだよ。
それが肩まで伸びてるんだけどよ、奇妙ことに首筋から肩までピッチリと肉体にまとわりついているんだ。整髪剤を過剰に付けているんだろうか。おかしいよなぁ。
それに、もう、若くないんだろうにさ、結構、露出のある服装をしているんだよ。ボディコンなんて、もう若い人にはわからん言葉だよな。ワンピースみたいに上下一体になった服装なんだけど、ぴったりと体にまとわりついていて、胸元も太もももはだけているんだ。
そんな奴さ。直感はあったにせよ、俺がすぐにわかったことも不思議じゃないだろ。
辺見はその手に拳銃を持っていた。それに気づいたときは恐ろしかったよ。
そいつは俺に気づくとにんまりと笑顔になった。寒気がするような不気味な笑顔だったよ。人を殺すことに喜びを感じている。そんな印象を受ける。そして、拳銃を俺に向けた。
バンッ
轟音が響いたよ。音が聞こえた瞬間、俺は死を覚悟したね。
でも、俺は生きていたんだ。銃弾は当たらなかったんだな。まあ、拳銃の命中率なんて、実際には大したことないのよ。素人が構えざまに撃ったとしても、反動で手がぶれ、あさっての方向に飛ぶのがザラさ。
そんな素人の銃撃にビビっちまったのも、事実だけどよ。
「は、ははは」
思わず、乾いた笑いが出た。命のやり取りなんて、何回やっても慣れないものだ。全身が冷えていくような感覚があったよ。
けどよ、辺見が拳銃を持ってるなら、俺も何か武器を持っているはず。これは直感だったけどさ。そう思ったんだ。
そしたらよ、奇妙な話なんだが、自分が右手にずっと何かを握っているってことに今更ながら気づいたのよ。俺は期待を抱いて、それを見たさ。でよぉ、落胆したよ。
手にあるのは柔らかい感触だった。強く握るとブフーと音が鳴った。そして、その先にチューブでつながっているカエルがぴょこんと飛び跳ねるんだ。
若い人たちは知らないよな、こんなオモチャ。俺が子供のころだって、古臭いオモチャだったんだもの。
こんなオモチャでいったいどうしろっていうのよ。どうしようもないだろ。でも、それしかないんだ。俺はこのオモチャでバチンと辺見の顔をはたくと、彼女に背を向けて逃げ出した。
その場所もさ、ここと同じように迷路になってたんだ。全力で走って、曲がり道を何度か曲がったら、もう辺見は追ってくることがなかった。
ほっと一息つく。安心したよ。当面の危機は去ったんだってさ。
けどよ、新しい問題はすでに起こっていた。
俺は道に迷っちまったんだな。
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