尾野寺伝吉の語り その二

第六話 辺見瑠璃、登場ス

 おっと、言い忘れてたかな。どうもなあ、言わなきゃいけないことを忘れちまうんだ。年齢トシのせいかな。


 俺の前にデスゲームに行ってた奴。そうそう、寄見頑人よりみがんと。よく覚えているねぇ、俺も忘れちまってたのにさ。

 その頑人がよ、下半身をなんで失ったのか。それを話しておこうと思ってたのよ。結構、大事な話なんだ。


 頑人はデスゲームで大分奮闘したらしいのよ。ヤクザとしては半人前でも、まあ、相手は素人さんだからな。十分通用したというか、無双していたらしいんだ。聞いた話だから、どれだけ信憑性があるかはわからねぇけどよ。

 頑人はよ、最初は短刀どすを手にしたんだ。あいつはもともと殺人経験もあったし、そのデスゲームの中で誰より早く人を殺し始めたらしいな。何事も思い切りってぇのが大事だってことさ。それで、次々に殺して残ったのはもう一人だけだったらしい。

 最後まで残ったもう一人、なんつったかな。辺見へんみ……だっけか? そうそう、辺見瑠璃へんみるりよ。そんな名前だった。よく覚えてたね。うん? いやいや、これ、今初めて出した名前だよな。誰よ、名前知ってた奴? え? 誰でもないのか。いやいや、確かに聞こえたぞ。

 うーん、ちょっと気になるが、まあ、いいか。話を続けよう。


 頑人はさ、その辺見と対峙したのよ。ほかの奴の武装も奪っていたから、短刀だけじゃなく、拳銃も持ってたし、散弾銃ショットガンもあった。防弾チョッキも服の中に着ている。

 それに対して、辺見は丸腰だったんだってよ。こりゃ、楽勝だ。そう思うのも無理ないわな。

 頑人は拳銃を撃ったよ。何発も。確かにいくつかの銃弾は辺見に当たった。血も出た。それを確認したはずだ。

 それにも関わらず、辺見は倒れなかった。それどころか、攻撃にひるまず、よろよろと歩いて近寄ってくるんだとよ。不気味だよなあ。


 頑人は恐怖を抱いて後ずさり、背負っていたショットガンを構える。まさに、辺見が手を広げ、頑人に触れようとしていたらしい。頑人はショットガンをぶっ放したよ。派手な音が鳴り、さすがの辺見も吹っ飛んだ。

 安堵しながら、頑人は額の汗を拭った。その時だ。「ハハハハハハハ」と笑い声が響いたのさ。気づいたら、倒れたはずの辺見はいなかった。いや、それも正確ではない。辺見は頑人の足元にいた。そして、頑人の太ももに思い切り噛みついたんだ。


「ぎえええええ」


 頑人は恐怖と痛みで思わず声を上げていた。

 噛みつくなんてよぉ、子供の喧嘩じゃあるかもしれないが、大人になってからはそんなことをしないよな。

 けどよ、殴られるより蹴られるより、噛まれるってのが一番悲惨な傷を生むんだ。顎がかけられる圧力ってやつはバカにならねぇ。正気を失った人間に噛みつかれるのは相当やばいことなのよ。


 何度も噛みつかれ、頑人は歩くことはおろか、立つことさえ、ままならなくなっていた。恐ろしいよ。自分を襲っている人間がいるのに、立てなくなるんだぜ。

 頑人は立てないまま、どうにか這って逃げようとしたんだ。その間、辺見はずっと頑人の足にまとわりついていた。

 それで何をしていたか、だって? 辺見はただ噛みついてたんじゃねぇんだ。食っていたんだよ。頑人の足はずっと辺見に食われていた。肉に喰らいつき、血を啜っていたんだ。骨まで噛み砕いてよ。頑人は自分の身体が咀嚼され続けているのを感じていた。


 それで、どうしたかっていうと……。

 いや、これはやめておくか。この先はまだ秘密だ。


 で、何の話だったっけか。

 ああ、そうだ。俺が一度目のデスゲームに参加したところだったっけか。


 俺はよ、死者によってデスゲームに運ばれたのよ。

 でもよ、最初のうちは頭がはっきりしなかった。でも、だんだん意識がはっきりしてくると、近くに誰かがいるのがわかるんだ。

 女の人だったな。かっこ悪いとこ、見せちまってんな。それが気がかりだった。


 だけどよ、はっきりとその女の顔を見た時、そんな考えはどこかに行っちまった。

 頑人によって聞かされていた辺見瑠璃の特徴、それがすべて目の前の女に当てはまったんだ。

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