尾野寺伝吉の語り その二
第六話 辺見瑠璃、登場ス
おっと、言い忘れてたかな。どうもなあ、言わなきゃいけないことを忘れちまうんだ。
俺の前にデスゲームに行ってた奴。そうそう、
その頑人がよ、下半身をなんで失ったのか。それを話しておこうと思ってたのよ。結構、大事な話なんだ。
頑人はデスゲームで大分奮闘したらしいのよ。ヤクザとしては半人前でも、まあ、相手は素人さんだからな。十分通用したというか、無双していたらしいんだ。聞いた話だから、どれだけ信憑性があるかはわからねぇけどよ。
頑人はよ、最初は
最後まで残ったもう一人、なんつったかな。
うーん、ちょっと気になるが、まあ、いいか。話を続けよう。
頑人はさ、その辺見と対峙したのよ。ほかの奴の武装も奪っていたから、短刀だけじゃなく、拳銃も持ってたし、
それに対して、辺見は丸腰だったんだってよ。こりゃ、楽勝だ。そう思うのも無理ないわな。
頑人は拳銃を撃ったよ。何発も。確かにいくつかの銃弾は辺見に当たった。血も出た。それを確認したはずだ。
それにも関わらず、辺見は倒れなかった。それどころか、攻撃にひるまず、よろよろと歩いて近寄ってくるんだとよ。不気味だよなあ。
頑人は恐怖を抱いて後ずさり、背負っていたショットガンを構える。まさに、辺見が手を広げ、頑人に触れようとしていたらしい。頑人はショットガンをぶっ放したよ。派手な音が鳴り、さすがの辺見も吹っ飛んだ。
安堵しながら、頑人は額の汗を拭った。その時だ。「ハハハハハハハ」と笑い声が響いたのさ。気づいたら、倒れたはずの辺見はいなかった。いや、それも正確ではない。辺見は頑人の足元にいた。そして、頑人の太ももに思い切り噛みついたんだ。
「ぎえええええ」
頑人は恐怖と痛みで思わず声を上げていた。
噛みつくなんてよぉ、子供の喧嘩じゃあるかもしれないが、大人になってからはそんなことをしないよな。
けどよ、殴られるより蹴られるより、噛まれるってのが一番悲惨な傷を生むんだ。顎がかけられる圧力ってやつはバカにならねぇ。正気を失った人間に噛みつかれるのは相当やばいことなのよ。
何度も噛みつかれ、頑人は歩くことはおろか、立つことさえ、ままならなくなっていた。恐ろしいよ。自分を襲っている人間がいるのに、立てなくなるんだぜ。
頑人は立てないまま、どうにか這って逃げようとしたんだ。その間、辺見はずっと頑人の足にまとわりついていた。
それで何をしていたか、だって? 辺見はただ噛みついてたんじゃねぇんだ。食っていたんだよ。頑人の足はずっと辺見に食われていた。肉に喰らいつき、血を啜っていたんだ。骨まで噛み砕いてよ。頑人は自分の身体が咀嚼され続けているのを感じていた。
それで、どうしたかっていうと……。
いや、これはやめておくか。この先はまだ秘密だ。
で、何の話だったっけか。
ああ、そうだ。俺が一度目のデスゲームに参加したところだったっけか。
俺はよ、死者によってデスゲームに運ばれたのよ。
でもよ、最初のうちは頭がはっきりしなかった。でも、だんだん意識がはっきりしてくると、近くに誰かがいるのがわかるんだ。
女の人だったな。かっこ悪いとこ、見せちまってんな。それが気がかりだった。
だけどよ、はっきりとその女の顔を見た時、そんな考えはどこかに行っちまった。
頑人によって聞かされていた辺見瑠璃の特徴、それがすべて目の前の女に当てはまったんだ。
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