第八話 カエル無双

 行けども、行けども、似たような部屋や通路ばかりなのよ。ここと同じだわな。気づいた時には、もうどこにいるのかわからなくなっていた。

 俺は焦ったよ。頑人がんとの奴に脱出方法は聞いていたけどよ、自分がどこにいるのかわからなきゃ意味がないからな。


 そうこうしているうちに、ほかの奴に出くわしたんだ。デスゲームの参加者ってやつか。

 血走った目をしていてさ、俺が持っているのがカエルのオモチャだって気づくと、ナイフを構えて襲い掛かってきたんだ。

 ほんとさ、おかしいことだよ。殺し合いをしなきゃ出れないなんて、信じ込んでるんだからな。


 勝てると思ってたんだろうよ。だけどさ、カエルのオモチャとナイフ、どちらにリーチがあると思うかい。俺は瞬時のカエルのオモチャを奴の手元に投げつけてやったよ。オモチャはナイフを絡め取って俺の手元にナイフがやって来た。そうしたら、奴はもう戦意喪失だ。そりゃそうだ、元々、武器を頼りに襲い掛かってきたような奴だからな。

 え? どれでどうしたって? まさか、俺がそいつを殺したと思ってんのかい。そんなわけないよ。デスゲームだかなんだか知らないけど、俺が犯罪を軽々と犯すように見えるか? やってないさ。無力化させただけだよ。


 だけど、収穫があったんだ。そいつは地図をつけててね、しばらく睨んでみたんだが、どうやら正確なもののようだった。俺はその地図を頼りにし、時折書き加えて、進むことにしたんだ。

 でよぉ、デスゲームに本気で参加しているような連中に何度も出会うのよ。拳銃を持ってたりさ、ライフルを持ってる奴もいる。そいつらは問答無用で撃ってくるんだが、やはりカエルが役に立ったのさ。

 カエルを構えて銃弾を撃ち返し、カエルを投げて相手の武器を奪う。ぶふぅとゴムの握りを掴むことで、カエルの軌道が少し変わるからさ、これがなかなかいいフェイントになるんだよねえ。まさに、カエルは八面六臂の大活躍をしてくれたよ。

 おかげで、誰も殺さずに先へ進むことができた。


 一つだけ言っておこうか。

 このデスゲームからの脱出方法だけどさ、順路があるのよ。決まった順番に通路を行き、部屋を通り抜け、で、まあ、それで脱出口まで行けるんだ。

 ん? そんなんでいいのか、って?

 まあ、そういうものなのよ。神社でもそうだろ? どっちの手から水で清めるとかさ、鈴を鳴らしてから賽銭を投げるとか、礼を何回して手を何回叩くとかさ。順番ってのは重要なもんよ。霊に言うことを聞かせるなら順番通りにしなきゃいけねぇ。

 神様と霊は違うもんだって? そうさな。けどよ、神様ってのは元々ご先祖様の霊魂を崇めて、それによって神様になるもんなんだ。根本的には近い存在ではあるのよ。


 それでよ、俺は頑人に聞いた通りの道順を進んだ。果たして、と言っていいかな。脱出口というべき場所があった。

 黒い球体が浮かんでいてさ、不思議な光景だったよ。球体といっても明らかに物質ではないのさ。固形物ってだけじゃない。液体でなければ、気体ともいえないんだ。虚無、とでもいうのかな。バチバチと黒い何かが電気が走るように、球体の周りに纏わりついていた。


 これで、どうにか逃げ切ることができる。俺は安堵したさ。

 逸る気持ちを抑えきれず、球体に近づこうと、歩き始めた。いや、歩き始めようとした。

 どういうことか、足が動かなかったんだ。足が固定されているようだった。


 足元を見たよ。俺が立っていたのは排水口のような場所で、格子状の床になっていた。その格子状の隙間から腕が伸びて、俺の足をがっちりと掴んでいる奴がいるんだ。

 辺見瑠璃へんみるりだった。格子状の床の奥から、辺見の目が光ったように見えたよ。そして、ウケケケケケケケと不気味な声で笑うんだ。


 俺は驚いて腰が抜けちまった。こうなると、もう立つこともままならない。どうにか這うことができるくらいなんだ。

 幸いなことに靴が脱げて、辺見の拘束から逃れていた。俺は必死になって黒い球体のある脱出口に向かおうとしたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る