指導


「トムっち、ギルマスが呼んでいるっすよ!

今日の受付うちが変わるから早く行くっす」

「わかりました、ギルドマスター室ですか?」

「そうっす」

冒険者ギルドの職員専用のロッカールームで着替えを終え、部屋からでるとマロンさんにそう言われたのでギルドマスター室に急いで向かう。





「トム、今日は別の仕事をしてもらう。


お前は経験ないだろうがFランクやEランクの依頼でよく失敗する見習い冒険者には、

上位の冒険者が依頼を達成できるように指導をする制度がある。

それをお前にやってもらう、あの件で冒険者をやりだした者が多すぎて流石に人が足らん。

お前には見習いに薬草の取り方を現地で教えろ、前にそういうことやっていたお前なら適任だろ」

ギルドマスター室でミーナさんから新たな仕事内容を説明された。

あの件とは、国が勇者として発表したライトが冒険者をやりだしたことだ。

勇者に憧れをいだいている人たちがこぞって冒険者になろうと冒険者登録をした。

そのためいまだに見習い冒険者の数が増え続けている。


「現地で指導するってことですか」

「お前なら普通に現物さえあれば指導できるだろうが、今回の奴らは物覚えが悪すぎて受付のマロンですら匙を投げるほどのアホだ。

現地で丁寧に指導してくれ。

あと安心しろ、お前の父親の許可はとってある」

「え?」

不安そうな顔をした俺にミーナさんが言った。


「ギルドマスターは父を知っているのですか?」

「あほか、あたいくらいの年代であの英雄を知らん冒険者はいねーよ。

それに、少し前までこのギルドで依頼を受けていたしな」

「英雄ですか?」

「なんだ知らないのか、まあそのへんはお前の父親に聞け。


とりあえずお前の懸念材料は消えたってことだ。

安心して仕事をしてこい」

「はい!」

「これが今回の仕事の内容と注意事項だ、必ず見習いに伝えろ」

「了解しました」

「その紙に書いてある時間に集まることになっている。

お前もしっかり準備をして向かえ。

話は以上だ、部屋から出ていけ」

「はい!」

ミーナさんに出ていけと言われたので部屋から出て行こうとしたら呼び止められた。


「トム!

紙には書いでいないが個人的な注意事項だ!

お前はバッテスを知っているな、今回の仕事にその弟が参加してる。

噂では兄にそっくりな性格をしているそうだ、注意しろ」

それを聞いて俺は今回の仕事がとても不安になったそしてテンちゃんは言った。

【あらあの冒険者の弟さんがいるのね、どんなアクシデントを起こして我を楽しませてくれるのかしら】


不安しかない。







「今日君たちを指導することになったギルド職員のトムです。

前に冒険者やっていましたので皆さんの苦労は理解しているつもりです。


今回の指導中は原則、私の指示に従っていただきます。

もし勝手に行動した場合には見習い冒険者の登録が抹消され、3年間新たに登録することができません。

なので、絶対に単独行動はやめてください」

冒険者ギルドの会議室に集まった14人の見習い冒険者達に伝えた。


「なあ職員さんよ、冒険者やってたって言うけど職員になってるってことはたいしたことないんだろ?

冒険者辞めたときのランクはなんなんだよ?」

「Eランクですよ。

安心してください、薬草採取は住んでた村で何度もやっていますから指導することは可能です」

「ちっEランクかよ、しかも依頼じゃなくて村でやってただけかよ!

おいおい大丈夫か?

これから行く場所は魔物の森の前だぜ、魔物がたまにでるんだろ?

村で採取するのとはぜんぜん違うんだぜ?」

見習い冒険者の1人が不安なのか俺が指導することに不満を訴える。


「バックス様、不安なのはわかりますが大丈夫です。

大丈夫だからギルドマスターからこの仕事を任されています。


指定討伐ランクCまでなら対応できます」

「本当かよ?」

「はい、すでに何度も討伐しています」

事実を淡々と言った。


俺はCランクの討伐依頼を達成している、職員として。

もちろん父に許可を取っている、Aランク冒険者のセリーさんが同行するのが絶対の条件だ、だから今回は1人なので魔物の森に近寄るのは違反だけど、ギルドマスターが許可を取ってくれたから今回の仕事ができる。


「ふーん、どうだか」

信じてなさそうな顔をするバックス。


「皆さま、ご安心ください。

必ず生きて街に戻っていただきます。

それが1番重要なの私の仕事です、なので必ず私の指示に従ってください」

バックスのせいで少し不安になっている見習い冒険者を安心させるために言うと、少し安心した顔を見せてくれた。





「そうです、そのスピードで抜いてください。

根っこは傷つきやすいので、早く引っ張ると傷がつきやすいんです。


完璧です!

これなら薬草採取の依頼は達成できますよ!」

「ありがとうございます!トムさんの指導のおかげです!」

指示に従って上手く薬草を取れた見習い冒険者を褒めたら、お礼を言われた。

この見習い冒険者は、引っ張る速度が理解できなかったみたいで比較的簡単に指導を終えた。

問題はバックスだ。

指導した時はできるのに、すぐ忘れる。

俺が指導した見習い冒険者で唯一、薬草採取のやり方をマスターしていない。


「バックス様、先程言ったように優しく土を掘り起こしてください。

そのように強く掘り起こそうとすると、根っこに当たってしまい傷がつきます。

薬草採取はなるべく傷をつけないのが原則です」

「うるせーな!そんなのわかってるよ!

つかこの街の薬草採取のやり方がおかしーんだよ!

兄貴が前の街だと薬草なんて萎びてなきゃ大丈夫って言ってたぞ!」

「そういう街もありますでしょう。ですがこの街の薬草採取の原則は、傷をなるべくつけないことになっております」

文句をいうバックスにこの街の原則を伝えると他の見習い冒険者から救援要請がきた。


「トムさーん魔物がでました!

どうしたらいいですか?」

救援要請をしてきた見習い冒険者が、指差している魔物に近づき剣で倒した。


「教えてくれてありがとうございました」

「こちらこそ倒してくれてありがとうございます。

それに指示に従っただけですから」

「本当は自分が戦ってみたいと考える中、指示に従っていただきありがとうございます。

今日はあくまで薬草採取のやり方を覚えるが目的なので、戦闘させるわけにはいきませんから」

魔物を発見し、腰にある剣の柄を手で掴んだ見習い冒険者にお礼を言う。


本当は魔物を討伐したかったんだろう。

冒険者になるのはだいたいそれが目的だからね。


「くそ!なんでこんな地味な作業しなきゃなんねーんだよ!

俺は魔物を殺してーんだよ!

元Eランクの指示なんて従ってられるか!」

少し遠くにいたバックスはそう叫び、腰にある剣を抜き魔物の森に走っていき、森の中に入った。


「バックス様!ちっ。

みんなは作業をやめて急いで街に戻り、ギルドに向かってくれ。

俺はあいつを追いかけて森に行く、それを受付に報告を頼む。

最後まで指導できなくてすまん、んじゃ行ってくるよ」

一応護衛としての役目もあるのでこの場を去るわけにはいかないが、

暴走したあのバカをほおっておくわけにもいかない。

見習い冒険者を街に返すことで安全を確保し、仕事を放棄したことを報告してもらうことにした。

俺はあのバカを追って、魔物の森に入った。


【やっぱりアクシデントを起こしたわね】

【何楽しそうな声で言ってんだよ、こっちは超迷惑だっつーの】

【いいじゃない、土いじりよりよっぽどみてて楽しいわ、それよりあれじゃない?ほら右の方角に】

【右?】


テンちゃんに言われた通り右を見ると、あのバカはゴブリンとボブゴブリンに囲まれてボコボコにされていた。


「すーはー、闘気!」

深く呼吸をして闘気を発動する。

武技はまだ使えないが、闘気を纏うと身体能力が上がり、普段より速く動ける。


指定討伐ランクDのゴブリンと指定討伐ランクCのボブゴブリン、すでに何度も討伐している。

バックスを蹴っているゴブリンの背中を斬り、俺の存在に気づいたゴブリン達の首をはねた。

流石にボブゴブリンはすんなり討伐できるわけもなく、持っているボロボロの剣で応戦される。

だが、ボブゴブリンが俺の持つ剣に集中しているを見計らい、

右手で背中に装備している棍棒を抜き、ボブゴブリンの頭を殴りつけ、痛みで隙ができたところを見逃さず首をはねた。


「ふぅ。こんな近場にまさかボブゴブリンが出るなんて思わなかったよ。

これは報告が必要かな。

さてこのバカを背負いたいけど、棍棒セットが邪魔だなー。


よし引きずって帰ろう」

「ワッ」

「大丈夫だよ福ちゃん、こんなバカのために福ちゃんが頑張らなくてもいいよ。

福ちゃんは大人しく頭の上で座っていてよ」

「ワッ」

「いい子いい子」

これからこのバカを、街まで移動させる苦労を考えながら福ちゃんをモフモフした。

テンちゃんは戦闘のアンコールをしていたが、当然無視した。







「報告は聞いた。

やはりバカの兄の弟はやはりバカだったな」

「そうですね。

Fランクなのに魔物の森に突っ込むとは思いませんでした。

私の監督不足です。

申し訳ありませんでした」

ギルドマスター室でバックスが魔物森に入った件を謝った。


「気にすんな。

本来上位の冒険者がやる仕事を、無理矢理トムにやらせてるんだからな。


つーかギルドがわざわざ見習い冒険者のために無料で指導してやるっていうのに、

その指導者に従わないやつが悪い。

トムはそいつの命を救ったんだろ、生きて戻ったんだ任務達成じゃねーか」

「ですが」

「うるせーな、あたいが気にすんなって言ったら気にすんな!

いいな!」

「はい!」

すごい剣幕で言われたので反射的に返事をしてしまった。

 

「それじゃあ話は終わりださっさと帰りな」

「ギルドマスター、一つ報告があります。

バックスを発見した時、ゴブリンに混ざってボブゴブリンがいました。

本来いるはずのない近場にです」

「トム、どこらへんだ?」

ミーナさんはそう言って簡略化された魔物の森の地図を出した。


「多分ここら辺です。

討伐指定ランクCの魔物は、この川を越えないと出ないの川を越える前に出現しました」

俺はバックスを発見した場所を指さした。


「たしかにおかしいな。


だがトム以外からの報告はない、だがトムが嘘言ってるとは思えない。

討伐部位はあるか?」

「はい!すでに受付に渡してあり、ボブゴブリンと証明されました。

これです」

「そんなもんがあるなら先に出せ。


ふむ、報告はわかった。

こちらで調査をしてみよう。


それより、娘から聞いているが討伐指定ランクCを本当に倒せるとはな、もう冒険者に戻ってもいいんじゃないか?」

ボブゴブリンの討伐達成書をみてミーナさんは俺に言う。


「冒険者の仕事と職員の仕事って心構えが違うじゃないですか、職員の場合は全力で助けるって気持ちでできるので、

自分に向いているのかなーって最近は思ってきました。

でも冒険者の戻りたい気持ちもありますので、

もう少し強くなってから考えたいと思います」

「そうか、まあセリーみたいに冒険者と職員両方やるってこともできるから、戻りたくなったらあたいに言えよ。

すぐに復帰させてやる。


今日は普段と違うことをしたから疲れてるだろ、さっさと帰って寝ろよ」

「はい!では失礼します」


言われた通りさっさと帰って寝た。


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