最終日
「トム、今日で見習いの期間が終了した。
トムの評判はいいから何件か雇いたいと言っている店がある。その店で働くもよし、このまま商会で働いてもいい。
僕的には商会で働いてくれると嬉しいけど、どうするかはトムの意見を尊重するつもりだ。
とりあえず一週間以内に決めて欲しい、
ちゃんと雇うとなると手続きに時間がかかるからな。
とりあえずこれがトムを雇いたいと言っている店の名前が書いている紙だ」
「結構沢山あるんだね」
クルル兄に受け取った紙をみると、思ったより多く店の名前が書いてあった。
「さっきも言った通り評判がいいんだよトムは。
それより、もうすっかり慣れたなその姿」
クルル兄は俺の頭の上に乗っている小さな白梟を見ながら言った。
何故頭の上に乗れるのかというと福ちゃん曰く、さまざまな姿に変身できるらしい。
この小さな梟もその一つだそうだ。
「なんか頭の上が落ち着くらしいんだよね。
それに重くもないし、どんだけ頭を揺らしても何故か落ちないし。
まあいいかなって」
「仕事中は乗ってないから別にいいけどな。
トム、前にも言った通り生き物を飼うってことは大きな責任が伴う。
しっかりお世話しなさい」
「クルル兄分かってるよ、何回も聞いたし。
この子はとても賢いからお世話もそんなに苦じゃないから大丈夫だよ」
頭の上の福ちゃんをモフモフしながらクルル兄に答えた。
「分かっているならいいんだ。
じゃあ俺は支店長と仕事があるから商会に戻るよ」
「え?こんな夜に仕事やるの?」
「副支店長になったんだ、それなりに仕事があるんだよ。
トムは夜更かししないで早く寝ろよ。
それじゃあおやすみ」
「おやすみ!仕事頑張ってね!」
それを聞いたクルル兄は手をあげて「ああ」と返事をしたあと俺の部屋から出ていった。
寝る準備はもう終わったのでベッドに腰掛けると、頭の上にいた福ちゃんはレイスという名前の姿に変わり俺の前に立った。
「ご主人様、今日もお勤めお疲れ様でございました。
しかしまた今日もお役に立てず申し訳ございません」
「そんなことないって前に言ったじゃん。福ちゃんのモフモフにはすげー癒されてるからお役に立ちまくりだよ。
いつもありがとうね」
頭を下げて俺に謝る福ちゃんにお礼を言う。
「もったいないお言葉でございます。
しかしその程度では、いただいたご恩に報いることができないのです」
俺に顔を近づけて福ちゃんは言う。
正直半透明なんだけど、顔が綺麗だからすごく照れる。
俺は覚えてないんだけど、福ちゃんの命を救ったらしい。
これも覚えてないんだけど、成長する手助けもしたらしい。
野菜やお肉をあげたご恩だけは覚えてる。
「じゃあ、今から寝るからモフモフをください」
「かしこまりました」
ベッドの中には入り布団をめくってモフモフを催促すると、福ちゃんは一メートルの白梟に姿を変え布団に入ってきた。
俺は福ちゃんモフモフを堪能しながら眠った。
ちなみにレイスの姿が女性だから最初は恥ずかしかったけど、モフモフには勝てない。
翌日、部屋にいてもどうするか決められなかったので気分転換に、街の中心にある噴水の前に置いてある、
ベンチに座りながら紙を見て考える。
福ちゃんは八百屋さんが、おすすめらしい。
福ちゃんが、野菜食べたいだけじゃないの?って聞いたら腕を前にだし手を左右に振りながら焦っていた。
やっぱり無難に商会で働くのが正解かなーと考えを固めようとしていると話しかけられた。
「やぁトムくん!
難しい顔して何を考えているんだい?」
声の主を見ると水色の髪をいつもとは違い、髪を下ろしていた。
「セリーさんお久しぶりです」
「本当に久しぶりだね!
トムくんが冒険者をやめるって聞いた時はビックリしたよ!
本当にやめるの?」
「はい。というか仮登録なのでもう消されてると思いますよ」
「そう言えばそんな制度あったね。
残念だなー棍棒を使う冒険者なんて面白かったのに。
まあトムくんがそう決めたなら仕方がないね。
話を戻すけど、難しい顔して何を考えてたの?
お悩みがあるんなら、お姉さんが相談にのってあげるよ?」
セリーさんは俺の横に座り、胸張って言った。
「ではお言葉に甘えて相談にのってもらいます」
「まかせなさい!」
セリーさんに見習い期間が終わり、雇い先を決めかねていることと、冒険者への未練を語った。
「なるほどねー、確かに本当にやりたい仕事があるのにそれを選べないんじゃ悩むよねー。
そうだ!トムくんのやりたい仕事とは違うけど、おすすめの仕事がある!
トムくん着いてきて母様に頼んでみる」
そう言って俺の腕を掴み走りだした。
「ちょ、ちょっとセリーさん、そのおすすめの仕事ってなんですか?」
「ヒミツ!
大丈夫トムくんならきっと気にいるよ!」
セリーさんはその後何回も聞いたけど「ヒミツ」としか答えてくれなかった。
あとセリーさんの走るスピードが速いせいで、
腕を掴まれながら走っている俺は何回か転びそうになった。
「母様、お願いがあるんだけど!」
「セリー、ノックをして返事が返ってきたらドア開けろと何回も言ってるだろ。
来客の対応していたらどうするんだ」
「大丈夫!ちゃんと受付のマロンに確認したから!
それよりお願いあるんだけど!」
「はぁ、まったく自分勝手さが年々増しやがって。
んでお願いってなんだ?
ん?後ろにいんのはトムか?」
躊躇なく扉をあけたセリーさんが言っていた母様が、
ギルドマスターのミーナさんだったことに、内心驚いてる俺をミーナさんが見つけた。
「ギルドマスターお久しぶりです!」
ミーナさんに向かって頭を下げた。
「おう、久しぶりだな!」
「え?母様トムくんと面識あるの?」
「ああ、一度だけな。
それでセリー、トムがいるってことはトム関連のお願いか?」
「そう!
あのね」
「とりあえず部屋の中に入ってそこに座りな」
「わかった、トムくん中に入ろう」
向かい合うように置いてあるソファーにセリーさんと並んで座り、
ミーナさんは反対側のソファー座った。
「あのね母様、トムくんをギルド職員にしてあげて欲しいの!
トムくんは前に冒険者していたから、きっとその時の知識や経験は、職員の仕事の役に立つと思うんだ!
それにこれを見て!
トムくんこんなにたくさんのお店から雇いたいって言われてるんだよ!
絶対雇った方がいいよ!」
セリーさんは喋ってる途中に俺のポケットにしまってあったお店の名前が書いてある紙をぬきとり、ミーナさんに見せつけた。
「トム、娘はこう言ってるがギルド職員やりたいのか?」
「いやーずっとヒミツにされてここに連れてこられたんですよ。
冒険者ギルドに入るまで、セリーさんがヒミツって言っていたおすすめの仕事がギルド職員だとはさっきまで気がつかなかったんですよ。
なので正直わかんないです」
「はぁー本人に伝えてないのかよ。
セリーいくら自分のお気に入りだからって強引すぎるだろ」
「母様何言ってるの!
トムくん今のは母様の勘違いだから気にしないでね」
ミーナさんに変なこと言われたのでセリーさんは無駄に焦っていた。
「トム、実をいうとあたいはお前を雇いたいと商会に申し出ようとしてたんだ。
お前はお前が思っているよりギルド内の評判がいい、訓練所で必死に訓練する姿を見て刺激された冒険者が結構いることや、新人冒険者に薬草の取り方を教えてやっていることも聞いている。
それに街のみんなからの信頼度も高い。
商会の職員として丁寧な対応をしている様子は皆がちゃんと見ている。
依頼をしにきてくれた人も安心して頼めるだろうと思い申し出もしようと思ったんだが、
冒険者をやめると聞いて流石に遠慮したんだ。
だが良い機会だ、
トム、お前が選ぶ雇い先にこの冒険者ギルドも追加してくれないか、
セリーほどではないが、お前をギルド職員として雇いたい」
「そうだよトムくん!
一緒に働こうよ!きっと楽しいよ」
「えーと考えておきます」
「えー即決しようよトムくん!」
「セリー、トムの人生がかかった選択だ。
無理じいはやめろ。
トム、セリーのことは気にせず後悔しない選択しな」
強引に決定させようとするセリーをミーナさんが止める。
「いつも強引な母様がトムくんに遠慮するなんてなんか変じゃない?」
「こいつはゲールのお気に入りだからな」
「えっ領主様の!
トムくん領主様と知り合いなの!」
「はい、何故が気に入られてます」
領主と知り合いなのをセリーさんは驚いた。
「じゃあ、はなしは終わったな。
あたいはまだ仕事がある。
さっさと部屋から出ていきな」
そう言われた俺たちは2階にあるギルドマスター室からでて、1階に下りていった。
「トムくんちょっと強引に連れてきちゃってごめんね。
でも、一緒に働きたくてさ!」
「そう言ってくれるのは嬉しいです。
ただやっぱり説明くらいは欲しかったです」
「それは本当にごめん、反省します。
トムくん、反省しているさいちゅうに言いづらいんだけど、お願いがあるんだ」
「何ですか?」
「頭の上にいるその子触らせてくれない?」
セリーさんは俺の頭の上にいる福ちゃんを指さした。
「福ちゃんですか?
福ちゃん、触りたいって言ってるんだけど、どう?」
「ワッ」
「大丈夫みたいです」
俺は頭の上をセリーさんに向けた。
「福ちゃんって名前なんだ。
福ちゃーん、すごいふわふわ!」
セリーさんは福ちゃんの名前をいいながらモフモフしていた。
この後、セリーさんの反応を聞いた女性冒険者と受付嬢に頭の上にいる福ちゃんはモフモフされていた。
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