ゴブリン


壁にもたれて寝ている人やゴミ捨て場のゴミの中に体を突っ込ませている人、千鳥足のおじさん。


俺は今、飲み屋通りにいる。


なぜ成人もしてない俺がここにいるかというと。

今日は棚卸しなので職員のみんなはそっちに集中し、空いてる人間が俺と同期で同い年のカリンちゃんだけだったからだ。


飲み屋通りは酔っ払いも多いせいか少しだけ治安が悪い、それに時間帯が夕方なので尚更だ。

そんな場所にカリンちゃんを行かせるわけにも連れて行くわけにもいかないと考えたクルル兄は、冒険者ギルドで訓練している俺ならば多少の荒事なら対処できると判断し指名した。


なので俺は防具を身にまとい棍棒を背負って商品を乗せた台車を押している。


目的のお店に向かっていると路地から女性と聞いたことのある男性の声が聞こえ、その会話の内容に足を止めた。


「や、やめてください」

「いいじゃねーか?

今日、店でたんまり貢いでやっただろ?

それにあんたもその気で着いてきたんだろ?」

「ち、違います。

お客様が飲みすぎて今にも倒れそうだったので、心配でこの通りから出られるまで着いて行こうと思っただけです。

何かあればお店の評判に影響でますから」

「ん?前の街にいたときに聞いたツンデレってやつか?

安心しろ!娼館に何度も通っているからテクニックはそれなりだ!

ではいただくとしよう」

「い、いや誰か助けて」

流石にこの状況で助けに行かないわけには行かないので台車から手を離し、棍棒を握ろうとしたら男性の声と何かが壁に当たる音がした。


「があっ!

なんだてめぇ!俺はCランク冒険者だぞ!

ぐふっ」

その声を最後に男性の声は聞こえなくなった。


「お嬢さん大丈夫かい?」

「はっはい」

「それは良かった、お嬢さんのことは知っているよ。

人気店『白鳥の眼差し』で接客をしているステファニーさんだろ?

君のような美しい女性が穢れなくて安心したよ、さあこんな薄暗いところからまずは出よう」

助けを求めた女性の声とおそらく助けた女性の声が聞こえ、路地から2人が出てきた。


「ステファニーさん。

いいかい冒険者の男って言うのはクズの塊なんだ、少しの油断もしてはならない。

あいつらは常に女性を狙い、隙を見つけたらすぐに蹂躙しようとする。


あの男の子を見て。

今は純粋に冒険者をやっているだろう、だがいずれさっきの男のようになる。

悲しいことにね」

「はぁ」

声を聞く限り俺を指差しながら話している金髪のお姉さんが助けた女性で、困惑している顔をしているのが助けを求めた女性だろう


「そう奴らはまさにゴブリン!

決して近づいてはいけないよ。

ステファニーさん疲れただろう、少し休憩できる場所にいこう」

「あっあのうもしかしてレイラさんですか?」

「俺の名前を知っているのかい!

まさに運命の出会いだね!

さあ早く行こう!」

「レイラさん、助けてくださったのはとても感謝していますが、まだ仕事が残っているのでお店に帰らないといけないんです」

助けを求めた女性は金髪のお姉さんのお誘いを断った。


「ステファニーさん大丈夫だよ。

今日の出来事をお店に話せば許してくれる

よ。

それにあんな目にあったステファニーさんをこのままお店に帰すなんて俺にはできない。


安心してくれ。

女性のことを熟知した俺に任せれば、君の身も心も癒やしてあげられる。


ステファニーさん!さあ行こう!」

「ちょっちょっと」

そう言って無理矢理ステファニーさんという女性を金髪のお姉さんは連れて行った。


「いや、やってることさっきの男と変わらなくね?」

会話の内容から金髪のお姉さんの目的に気づき、俺は独り言を言った。




俺は頭を切り替えてお店に向かい到着した。


「すいませーん!カラム商会の者です!

注文された商品をお届けにまいりましたー」

渡された道案内の通りに店の裏口を開け店内に呼びかけた。


「おお、待ってたよ!ん?随分と物騒な格好をしてるね」

「酔っ払った人に絡まれる可能性がありましたので、大事な商品を守るために念には念をと思いまして」

「たしかに君くらいの子がこの辺を歩いていたら絡まれる可能性はあるな。

無事に届けてくれてありがとう」

「いえ!これが私の仕事ですので。

商品をはどこに運びますか?」

「着いてきてくれ」

裏口を閉め、俺は台車にある商品に気を遣いながらお店の人について行くと個室のような場所に案内された。


「ここら辺に置いてくれ」

部屋の脇を指差しながらお店の人から指示をもらった。


商品指定された場所に置きお店の人に挨拶した後、さっき来た道を戻ってお店の裏口を開けると、顔を見せないようにローブを深く被った人がいた。


「トム?トムじゃないか!

久しいな!」

「えーとどちら様ですか?」

「私だよ私!」

そう言って頭に被ってるローブを取った。

そこにいたのはこの街の領主様だった。


俺が跪こうとすると。

「跪かんでいい、今日は領主としてではなく個人的な用事でここに来ている。

それよりトムはどうしてここにいるんだ?」

「お店から注文された商品を届けに来ました」

「商品?

ああ、君は商会で見習いをやっているんだったな。

仕事は順調にできているのかね?」

「はい!先輩や上司の皆様から一年間しっかり指導を受けましたので、今のところ順調です!」

「それは良かったよ!

ところでトム、商品を届けるという仕事は終わったのかね?」

「さっき終わりましたので、今から帰るところです」

「そうかそうか、それは丁度いいちょっと私につき合いなさい」

領主は右手を俺の左肩に乗せてにっこりと笑った。





「トム酒を注いでくれるかな」

「はい、このお酒でいいですか?」

「ああ」

俺は机に置いてある領主のコップにお酒を注いだ。

俺はお酒を運び込んだ個室に領主といる。


「ありがとうトム、


さてもう少しで来る頃だな」

領主は懐中時計を見ながら言った通り部屋の扉が開き、女性が入ってきた。


「おいゲール!いい酒揃ってんだろーな!」

「もちろんだよ。それより相変わらず時間ピッタリだね。

少しは余裕を持ってこれないのかい?」

「うるせーな!あたいが特別に時間を作ってきてやったんだ、文句をいうな。

ん?何だそのガキ?」

紅い髪をした女性は俺に気づいた。


「この子はトム、私のお気に入りだ。

トム、彼女は冒険者ギルドのギルドマスターをやっているミーナだ」

「ギルドマスター!」

「勝手に紹介してんじゃねーよ。

トム?どっかで聞いたな?」

ミーナさんは、ギルドマスターの登場に驚いている俺と俺の荷物を見た。


「なるほど、棍棒を使う変わった冒険者がいることは娘から聞いている。


でも何でここにいるんだ?」

「二年前から君は私といるとイライラしてすぐに帰ってしまうだろ、冒険者がこの場にいればギルドマスターとして短気は起こさないと思ってな」

「ふん、浅知恵だな。原因はあんたがあたいに隠し事しているからだろ!


まあいいトムとかいったか?あたいにもそいつと同じ酒を注ぎな」

「はっはい」

ミーナさん用に机に置いてあるコップにお酒を注いだ。


「それでゲール要件はなんだ?」

「これは友人に聞いた話なんだが、

来年、冒険者になる人たちが爆増する。

理由は言えないが、これは確実だ。

対応できるよう冒険者ギルドの職員を増やした方がいい」

「ちっまた隠し事かよ。

まあ一応覚えておく。

それだけか?」

「本題はこっち。

君の愚痴を聞こうと思ってな。

そろそろ溜まっているころだろ」

「このガキの前でか?」

「大丈夫。トムは信用できる子だ。

私が保証しよう」

ミーナさんと領主はお互いを見つめ合ったまましばらく動かなかった。


「じゃあ聞いてもらおーじゃないか!

根をあげんじゃねーぞ!」

「のぞむところだよ」

「あとトム今から聞く話は聞かなかっことにしろ」

「はい!わかりました」


そこからはミーナさんからの愚痴が止まらず、

領主はミーナさんの意見に肯定するような返事を、

時たましながら時間は過ぎていった。

もちろん俺は空になったコップにお酒を注ぎ続けた。


「すっきりした!ゲールありがとな!

よし!帰るとするか、トム!

酒を注いでくれたお礼に送ってやるよ」

領主が頷いたので送ってもらうことにした。

帰り道ふと思ったのでミーナさんに聞いてみた。

「ギルドマスターと領主様はどんな関係なんですか?」

個人的な用事で会うとは普通じゃない気がする。


「こ、恋人というやつだ。

いいから黙ってついてこい」

酔っ払って口が軽くなったミーナさんは答えてくれた。

照れたのか歩くスピードが速くなった。




商会に帰ると領主の部下がクルル兄に事情を説明してくれていたようだったので怒られずにすんだ。

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