初討伐
受付でお客さんと商談を行いながら、隣で商談しているカリンちゃんを気にしてる。
何故なら初めて商談にきたお客と何やら揉めているからだ。
「だから何でこの金額なんだよ!
銅貨3枚なんておかしいだろ、子供の小遣いじゃねーんだぞ!」
「ですから、持ち込まれたポーションが全てこの品質ですと銅貨5枚、さらに手間賃を引いた額が銅貨3枚です」
「だからその品質ってのは間違いなんだよ!
なんだよ超低品質って、聞いたこともねーぞ!」
納得のいかないお客は文句をカリンちゃんにぶつけた。
「わかりましたお客様。きちんと説明させていただきます。
我が商会が扱うポーションの全ての色は透き通った透明をしております。
お客様の持ち込まれたこのポーションは所々不純物があり、とても透明とは言えません。
おそらく、成分を濾過するとき雑に行ったのでしょう。
さらにたとえ濾過を雑に行っても低品質になり、また濾過をすれば普通のポーションになります。
ですがお客様のポーションは濾過しても、超低品質のままでしょう。
お客様、水で薄めましたね。
量を多くするために薄めた結果、低品質を維持できなくなり超低品質になったのです。
ですが買い取りはしないとは言ってません。
本来の超低品質の買い取り金額銅貨5枚、濾過にかかる手間を考え銅貨二枚を引いた金額。
銅貨3枚が妥当と判断します」
もうカリンちゃんも俺も一年以上この商会で学んでいる。
沢山の商品。
それが出来上がるまでの工程。
扱う商品の目利き。
必死になって覚えてきたんだ、値段設定もけっして間違いじゃない。
「ふ、ふざげるな!小娘ごときになにがわかる!!」
そう言ったお客は受付に使う机を支えにし飛び上がりカリンちゃんを殴りつけようとした。
警戒していた俺は即座に動き、殴ろうとしている右腕の手首を右手で掴んで止めた。
机の上に乗っているお客を睨みながら言う。
「お客様、ここは暴力をする場ではありません、商品の商談をする場です。
さらに商会の職員を殴りつけるという行為は決して許させることではありません」
「今度は小僧か!
悪いのはこの小娘だ!どけ!」
今度は左腕で俺に殴りかかろうとしてきたので、普通に左手で拳を止めた。
「なるほど、どうやら暴力を使っての商談がお得意のようですね。
では私もその商談に付き合いましょう」
掴んでいる手首と拳に思いっきり力を入れる。
「ぐっ離せ、離せ、離せ」
「離す前に殴ろうとした職員に謝ってもらいましょうか?」
冒険者ギルドで、散々訓練した俺の握力は結構ある、その力で握り締められたお客は机の上で痛みで身体が蹲っていった。
「わ、悪かった。この通りだ」
蹲っているので土下座みたいになっている。
「カリンさんどうしますか?」
「謝っていただきましたので、離していただいて大丈夫です」
カリンさんから許可が出たので手を離すと、
お客は机をすぐに下り手首をさすりながら俺を睨みつけてくる。
「なんて接客しやがる、こんな商会こっちがごめんだ」
お客は、机の上に奇跡的に無事だった持ち込んだポーションを持ち商会から逃げるように出ていった。
「カリンさん大丈夫?」
「はい、大丈夫です。トムさんも自分の仕事に戻ってください。
私は支店長に報告してきます」
お客、もとい男が騒いだせいで次に受付するお客がいなくなったので、カリンちゃんは支店長室に向かう。
商会では、悪質な商人や錬金術等が現れたら報告する義務がある。
「お客様の皆様お騒がせいたしました。
今回に限りまして、買い取り金額を一割増しにし、商品の値段を二割引きとさせていただきます」
いつの間にか副支店長になったクルル兄はお客にそう宣言すると軽く歓声が起きた。
俺は持ち場に戻る。
「シエスタ様、お待ちいただきありがとうございます」
「大丈夫大丈夫、君のせいじゃないし。
よく彼女を守ったね!偉いよ」
「ありがとうございます!
では商談を始めましょう」
「一割増しか、どう転んでもこちらが有利。
でも手加減はしないよ」
常連客であるシエスタ様との商談というなの戦いが始まった。
惨敗してしまった。
受付時間が終わって書類整理も終わり帰ろうとするとカリンちゃんから声をかけられた。
「トム君、今日は助けてくれてありがとう。
今から寮に帰るんだよね?
一緒に帰らない?」
「いいよ!今日はクルル兄じゃなくて、クルトさんは支店長と2人で仕事があるみたいだし。それに帰り道同じだしね」
カリンちゃんと楽しくお話ししながら帰った。
僕たちをすごい目で見つめる人に気づかずに。
「カリンちゃん相談って?」
相談があるとカリンちゃんの部屋に呼び出されその内容を聞いた。
女の子の部屋なのでドキドキしながら。
「ごめんねわざわざ。
自信過剰かもしれないんだけど、最近誰かに見られたりあとをつけられたりされてる気がするの」
「なんか確信みたいなものはあるの?」
そう聞くとカリンちゃんは首を振った。
「なるほどねーとりあえず仕事の日は俺が送迎できるように仕事する日を合わせてもらえるよう、クルル兄じゃなくてクルトさんに頼んで見るよ」
「信じてくれるの?」
「信じるっていうか、この前商会で揉めた男が腹いせにカリンちゃんを狙うのは可能性として大きいなって!
それに、こういうことは念には念をってことでしょ」
「ありがとうトムくん」
この日からカリンちゃんとシフトが同じになり送迎をする。
休みの日は流石に無理なので、寮で大人しくしてもらってる。
そんなある日事件はおきた。
「今日のお客さんの数やばかったね!
なんか知らないけどカリンちゃんに並ぶ人増えたよね」
「商談した人がいうには、あの迷惑な男の人との商談した時の内容がきちんとしていて、値段設定も完璧だったことから信頼して商談ができる受付って思われたんだって」
「それは俺も思ったよ、抜群の知識と値段設定だったよね!
俺も見習わなきゃ」
「どう考えてもトム君の商談の方がレベル高いでしょ、嫌味ー?」
「違うよ、本当にそう思ったんだって」
カリンちゃんと楽しく会話しながら帰っている、後ろからつけてくる人を警戒しながら。
近づいてくる!
俺はカリンちゃんを守るためストーカーと思われる奴とカリンちゃんの間に入る。
そこに現れたのは刃物を持ったシエスタ様だった。
「シエスタ様、なぜ刃物を持ってこんなところにいるんです?」
「ふふふ、トムくんわかるだろう?
裏切った女を殺すためだよ」
この前商談しているときは頭の回る商人って顔をしていたのに今は目が血走って見る影もない。
「裏切った女とはカリンさんのことですか?」
「そうだよトムくん!
私達は相思相愛の仲だった!
何度も何度も見つめ合った!
君が彼女を守ったあの日、彼女に危険が迫る可能性があることを考え見守っていたのに!
なぜか常に君といるようになった。
私ではなく君とだ!
これを裏切りと言わずしてなんだというのだ!
トムくんどきなさい、君との商談は実に楽しい。
殺したくはない。彼女をこちらに渡し、今日私に会ったことは忘れなさい」
無茶苦茶な事を言ってくるシエスタ様。
たしかにこの人との駆け引きはとても楽しい。
この人から初めて一本とったときはすごく嬉しかった。
でも。
「はぁ、あほかおまえ。
どう考えてもあんたが悪いだろ!
つか歳を考えろよ、もう49だったよな、
14歳に恋とか場所によっては犯罪だぞ!
まあいいわ、とりあえずカリンちゃんは渡さん。
さっさとかかってこい」
「残念だよトムくん、では君も死んでもらうことにするよ。
しねー」
刃物で刺しにきたシエスタの動きをかわし、
左脇で刃物を持っている右腕を締める。
次に右手でシエスタの右肩を掴み下に向けて力を入れ、倒れたシエスタを見下ろしながら左脇を斜めに締めて手から刃物を落とさせる。
「ぐぐぐぐ、離せ!」
「カリンちゃん傭兵呼んでもらえる?」
「わかった!」
カリンちゃんを目で見送ってからシエスタに話しかける。
「歳とかなんとかいったけどさ、歳の差なんて関係ないとか言ってる夫婦も沢山あるし、
絶対ダメってことはないけどさ。
自分の思い通りにいかないからって殺すのはダメだよ?」
「う、うるさい!おまえに何がわかる」
「全部はわかんないよ。
でも商人としてシエスタさんと多少関わっているから少しわかるよ。
シエスタさん子供に弱いでしょ。
俺みたいガキに本当は商談で負けるなんてあり得ないほどの知識ありますよね。
でも負ける。
理由はわかんないけど、いつも俺を優しい目で見てきますし。
相思相愛とかよくわかんないこと言ってますけど、違いますよね。
多分カリンちゃんを誰かとダブらせているんですよ。
だって殺すと言いながらシエスタさんの瞳には狂気の他にいつもの優しさがありました。
シエスタさんほどの頭ならもう答えは出ているのでしょう。
罪を償ってまた商談やりましょうよ」
シエスタさんは抵抗するのをやめ、何故かシエスタさんの右手にある指輪が壊れた。
シエスタさんはカリンちゃんが連れてきた衛兵に連れて行かれた。
「ふう、カリンちゃんこれで一件落着ですね!」
「トム君ありがとう!
あとお願いがあるんだけど」
「なに?」
「この件は終わったけどさ、シエスタさんが言ったように、商会で迷惑を起こした男が何かするかもしれないから、
このまま送迎してくれないかな?」
「別にいいよ。
最近ずっと一緒に帰っていたから、カリンちゃんと帰らないと違和感ありそうだし」
「じゃあ明日からもお願いね」
「おう、じゃあ寮に帰ろうぜ!
明日は衛兵所で事情聴取だからな!」
カリンちゃんと仲良く寮に帰った。
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