スライム


「トム!お前確か自炊してたよな?」

受付でお客様を待ってると後ろからラーゼルに後ろから左肩をひっぱられ話しかけられた。


「でもたまにですよ?無性に食べたいものがあったので台所を寮母さんに借りて料理作ってましたけど、それがどうかしたんですか?」

「よし!ってことは多少は料理ができるってことだな!

トム、俺の仕事に付き合え!」

「えっでも受付の仕事はどうするんですか?」

「大丈夫だ!クルトさんに話してある。

非番のララが来てくれるし、この時間はお客が比較的少ないから安心しろ!」

確かにこの時間帯はお客様が少ない、


でも急にたくさん来る時もあるので抜けるの大丈夫かな?と心で思いながら他の受付を見ると、ちょうど全席お客様いなかった受付のみんなが笑いながら俺に向けて丸サインを指で作っていた。


「了解しました!

服装は着替えた方がいいですか?」

「服はあっちに行ったら貸してくれるらしい。

とりあえず行くぞ」

「はい!」

受付の制服のままラーゼルさんについていき、

荷物がたくさん乗った馬車の御者が座る場所に座って目的の場所に向かっていく。


「ラーゼルさんどこに行くんですか?」

ふと疑問に思ったので聞いてみた。


「昨日積荷手伝ってもらったろ。

あれは今日開催される大食い大会の荷物だったんだ。

んで、足りなくなったから今からさらに納品ってわけよ」

「でも昨日納品した量ってそうとうありますよね?足りなかったんですか?」

昨日馬車に運んだ量を考えると足りないというのが信じられなかった。


「俺もそう思ったんだが、大会を見てみると予想以上の参加者と1人の化け物がいた。

その化け物が食べる速さにつられて他の参加者も奮闘していてな。

食材も調理も間に合わないって大会に主催者に泣き疲れたよ」

馬を上手に扱いながら教えてくれる。


「ああ、だから料理ができるかどうか聞いたんですね。

でも男の俺より女性の先輩方の方が良かったんじゃないですか?」

「トム、料理ができるやつはみんな居酒屋や飲食店に斡旋されてる。

今商会にいる女達は、ほとんど料理ができない。

できるのは支店長とララくらいだ。

支店長は今は不在だし、ララを調理場に入れたら調理どころじゃなくなるだろ」

「なるほど、確かにそうですね」

ララさんを調理場に入れたところ想像すると、みんなララさんに見惚れて動きが止まる映像が頭に浮かんだ。


ララさんはその持ち前の美貌を武器に、

商人達を巧みに操り、商会に莫大な利益をうんでいる。

本人は特に意識もしてないが仕草があざとい、見惚れた商人が何度も動きを止めるのを何度も見ている。


「ということはあっちに行ったら調理をするってことですか?

そんなに料理上手くないですよ?」

自分が食べる程度なので、そんなに上手くないことに不安になった。


「そこは大丈夫だ!

ざくぎり焼きだからな!

ある程度包丁を使えればなんとかなるし、それに俺たちは調理前の食材の処理をするだけだからな。

っともう着くぞ」

馬車は会場の目前まで迫った。


会場の調理場の近くに馬車を止めると、この大食い大会を主催した、

《熊のシャケ亭》のオーナーが調理場から出てこっちに来た。


「ラーゼルさん!すぐに準備して調理場に入って下さい!

食材はスタッフに運ばせますので!

早く!」

オーナーさんは馬車から降りた俺達の腕を引っ張り、手を綺麗に水洗いをさせて調理用服に着替えさせられ調理場に連れて行かれた。


「まずラーゼルさん達は、

ベネットを一枚一枚剥いて芯を取ってください。

芯を取るときは多少雑でも構いません。

ではお願いしますね。

では失礼します」

俺の好物であるキャベツに似たベネットの下処理を任されました。

キャベツならば剥かずにそのまま刻めば大丈夫だけど、ベネットの芯は硬く食べられない。

芯は家畜用の餌に改良されているらしい。


「よしトム!なるべく綺麗に剥くぞ、そうした方が切りやすいからな!

そしてなるべく早く剥くぞ!」

「わかりました!」

俺とラーゼルさんと他のスタッフ達は無心になってベネットを剥く。



俺たちが剥いたベネットは次々と包丁を持ったスタッフの元に運ばれていくが、人が足りないのか、俺達の周りに剥き終えたベネットが沢山置いてある。


「ラーゼルさん!

ここはもう大丈夫そうなので、ベネットを刻む方に移ってください!


えーと確かトムくんだったね。

君は包丁を使える?」

「はい大丈夫です!

刻むくらいなら出来ます!」

「よし!なら君もこっちに来てくれ!」

再び現れたオーナーさんにまな板と包丁が置かれてる場所に連れて行かれる。


「細さはこのぐらいです、なるべく合わせて切ってください!

では私は別の作業にあるので頼みました!」

そう言ったオーナーさんは別の作業場に向かっていった。


「トムやるぞ!」

「はい!」

ベネットを剥くときと同じように無心で刻んだ。


しばらく刻んでいると同じ作業場にいた人に声をかけられる。

「坊主うまいな!

均等に切れているじゃないか!

商会を辞めてうちに来いよ」

「お誘いはありがたいんですが、今は見習いなので転職はできないんです」

「見習い制度かー

じゃあ見習いが終わったらうちに来ることを考えてくれよな」

「はい、考えておきます」

褒められたので少し刻むのが楽しくなった。





「ラーゼルさん無事に大会は終わりました!

ありがとうございます!

トムくんもありがとう!

ぜひ特等席で表彰式を見ていってください」

刻みすぎて手と腕が筋肉痛で少し痛むのを我慢しながら、大会の関係者席に案内された。


優勝したのは、赤い髪をツインテールにした童顔の可愛らしい少女だった。


なんと二位が食べた量の三倍を食べていた。


「オーナーさん、もしかしてかなり早く前から優勝者決まっていたんじゃないですか?」

「トムくんのいうとうりです。

皆の食べる手が止まる中1人だけ食べ続け、

トムくん達が刻んむ作業に入る頃にはもう彼女しか食べていませんでした」

「その時点で大会を止めなかったんですか?」

「この大会を宣伝する文句として食材は無限と言ってしまったので、時間が過ぎるまで止められなかったのです。

止めてしまうと信用問題に関わりますから」

「なるほど、お金の方は大丈夫なんですか?」

「トムくん今は無事に大会を終えられたことを感謝しましょう」

オーナーさんは空を遠い目をして見ていた。












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