第29話 『脅威の始まり』謎の女戦士編1

【決戦】


 フフリンの街


 モーブル川の河川敷


 対岸では、草がワサワサと勝手に動きだしていた。まるで草が生きているようだった。


「何者だ、貴様は?」


 アスロンが鋭い切長の目で、目の前にいる謎の女に言った。


「だから、魔女は殺すべきね!」


 女は、しつこいくらいその言葉を繰り返した。


「今、お前は、この娘を殺そうした」


アスロンが、手でパピコを庇うようにそう言うと女は、急に戯けた表情で舌をだした。


「いや、それは手が滑って、人間はミスするものよ!本当はご挨拶がわりにそこの木に矢を放つたつもりだったのよ」


 女がさした木は、パピコ達から1mくらい離れていた。


 パピコは、警戒した面持ちで女をみていた。なんとなく、女の表情から嘘を言っている気がした。


 グリースは、対岸の草木の様子に気になっていた。


(なんや、なんか、?動いてない?)


 アスロンが女に問いかけた。


「なんのようだ?」



「あなた達と同行したい!」



 アスロンは、パピコが立ち上がったのに気づくと目で意志の確認をした。するとパピコは、首を横に振った。



「やばい!」



グリースが、突然叫んだ。



「え、なに?」


「向こうの岸からオークがくる!」


対岸から大量のオーク達がゾロゾロとでてきた。



「あれは、パピコが眠らせたオーク達だ」


グリースが大声で叫んだ。


”バシャ、バシャ〟



”バシャ、バシャ〟



ぎはぁ!





 大量のオーク達がパピコ達のいる岸に向かって泳ぎだしてきた。


 謎の女は、それを見つけると次々と泳いでくるオークめがけて矢を放った。



”ビューン、ビューン〟


”バッシュー〟


”バッシュー〟


 女の放った矢は、泳いでくるオーク達の身体を貫いた。



「ほら、今度はうまくいった!やればできる子なのよ、私は」


 アスロンの目には、女の弓が素人のように見えたのか、オークに対しての緊張を緩めなかった。



「お前、矢を打つのが初めてなのか?」



「まさか、私は武器商人キャスカよろしくね」


 女は、放つ矢は、次々とオークを頭や身体を貫いていった。しかし、大量のオーク達は、対岸からウジのように湧いて出てきて、キャスカの矢は焼石に水のようだった。



 グリースは、パピコにもう一度、眠らせる呪文を催促した。


 「やってみる」



 パピコは、ツキヨの呪文、欠伸をした。



 しかし、泳いでくるオーク達には全く効いていなかった。


「お嬢様、あくびしている場合じゃないわよ、やつらがくるわよ」


 オーク達は、パピコの岸に既に1メートルの付近にいた。


 パピコは、キャスカの言葉にイラッとしたが争っている場合じゃないと思った。



「パピコ乗って!」


「うん」


 グリースが危険を感じパピコを乗せて飛んだ。




「おい、きたぞ、やれるか?」


アスロンは、キャスカに言った。



「ははーん、もしかして私たよられちゃてる」



 アスロンとキャスカが背合わせ、オーク達と対峙した。


 アスロンは、襲いかかるオークを次々と斬っていく。


 キャスカも近づいてきたオーク達の腹に矢を刺した。



「どう?私できる子でしょ?」



(なんだ、この女?変な奴だな)


 アスロンは、心の中でそう思った。



”びゅーん〟



 グリースは、そらから対岸からくるオーク達の数が数百いる事に気づいた。


「まだまたくる、キリがないぞ」



 アスロンがグリースの方を少しだけみると、目の前に次々現れるオークを斬り続けた。



「はぁ、はぁ、、、キリがねえ」


「なに、あんたもう弱音はいてんの?」

 

 そうキャスカが、離れた所でアスロンにハッパを、かけると、いつの間にかオーク達にキャスカが囲みだした。



「ぐわぁ」


 キャスカを、助けに行こうとするアスロンにも次々、オーク達が襲いかかる。



「グリースあの固まりに突っ込んで!」



 パピコがそう言うとグリースは、キャスカを囲んでいるオーク達に突進した。


”ドースーン〟


 すると、キャスカはその隙にオーク達の足元からスルスルと逃げ出した。


”パータン〟


 その衝撃にパピコが下に落ちてしまった。



「パピコぉぉ〜!」


オーク達が一斉にパピコを目掛け突進してきた。


(やばい、どうしよ、、)


パピコがあたふたしている。


パピコの首をオークか掴みかかった。


「んぐぅ」


するとそのオークに向かってグリースが蹴りを入れた。


 蹴りを入れられたオークは、振り返りグリースに向かって全然効いてない表情を見せた。



「俺は、足をもらうぜ!」



「オレはこの腕でいいや!」


次々とパピコの身体を掴みにかかった。




【逃避】



フフリン街





キャスカは、草陰に1人逃げていた。



 目の前にカーバーがかかった乗り物らしきものがある。



 そのカーバーをキャスカが剥がすと、中からオートバイに羽が、ついたような乗り物がでてきた。


 その乗り物は、〝ランチャビート〟といわれる乗り物でタイヤはなくジェットの風圧で宙に浮き走りだした。

 

 河川敷では、パピコがオーク達に囲まれている。

 

「パピコ、!」


 グリースが叫ぶと、空からアスロンが降ってきた。



 グリースに乗っかっていたアスロンは、下に落下すると同時に、パピコに群がるオーク達を次々と斬った。


 (助かった!)


 今度はアスロンが、パピコをグリースの方に投げた。


 パピコが宙に浮いた。


(ちょ、ちょ、雑ね)




 グリースがパピコをキャッチすると自分の上にのせた。



「お前ら逃げろ!」



 そうアスロンが言うと、彼はオーク達に囲まれた。



 その囲んでいるオークの群れの一部が崩壊して、キャスカを乗せたランチャービートが現れた。


 ”ウギャー〟



「私の後ろに乗って!アスロン」


 アスロンは、少し驚いたが躊躇なくキャスカの後に乗った。



”ブブーン〟



きゃきゃ、


 ランチャビートにオーク達が飛び乗ろうするが、アスロンがそれを剣で阻止した。




「逃げろ!」



グリースが、叫んだ。



キャスカは、グリースの後について行く。



しかし、オーク達も諦めず、追ってきた。



「運転して!」


アスロンが、運転をかわると


キャスカが追ってくるオーク達に矢を放った。



”ビューン〟


”ビューン〟


先頭を飛んでいるグリースにパピコが言った。


「私、なんの役にも立ってない!」


「いいの、今は逃げ切る事が先決なんよ」



「いや、なにかできるはず」



「止まってグリース」



「なにをするんた、パピコ」



「もう一度呪文を」



逆さにぶら下がりパピコは、また欠伸をした。



しかし、パピコの呪文は、オーク達に効かなかった。


 

〝ぎははぁ〟




 (だめか、)





「役にたちたいなら、しょうがない、これ、使いな!」


キャスカが逆さになってるパピコに布に包まれた石をわたした。


 「え、何これ?」


「それを、ビュンビュンまわすの」


「原始的ね」



「文句ある?」



「いや、ないです」



肩をすくめるパピコは、くるりと回り、またグリースの上にまたがった。



”びゅーん、ひゅーん〟



〝ぎゃがー〟



 これが中々の破壊力でオーク達が次々と倒れていった。


 しかし、調子に乗って振り回していると、石が突然、生地を破って何処かに飛んでいってしまった。


(ありゃりゃ)


しばらくすると。キャスカの矢も無く無くなっていた。


「後はまかせたぞ」


 キャスカがそう言うと、アスロンがまた後方に移りオーク達を相手した。


 だんだんと追ってくるオーク達が少なくなっている事に気づいた。



【ソロニア砂漠】



モルダナにあるソロニア砂漠地帯




砂漠で、4人が項垂れていた。



(はぁはぁ、)



「はぁ、はぁ、ここは?」



「ソロニア砂漠」


 見渡す限りの砂漠地帯だった。


 彼らは、オークから逃げてここに行き着いてしまった。



「はぁ、はぁ」



 キャスカのランチャビートは、燃料切れになってしまい動かなくなっていた。



 しかし、幸いな事にもう追ってくるオークはいなかった。




 アスロンは、キャスカに向かって言った。



「お前は、一体なにもなんだ」



「キャスカ、武器商人の娘よ」



「さっきは、武器商人言ってなかったか!」



「そうだっけ!」



「お前、弓を始めて間もないだろ!」



「いや、それは、いやそんな事はないぞ」



「それより、どうだ!わたしも役にたつだろ!魔女のとこへ連れてて」


「な、な、なんだ、こりゃ」



グリースが叫んだ。


 「どうしたの?」


 「方位じゃくがクルクルまわだしてる」



 グリースの持っている方位磁針が煙をた立てて壊れてしまった。


 「まずい、これから向かう方角がわからなくなった」

 


「砂漠でそんな事がおきるなんて聞いた事が、ないぞ」



 グリースは、めちゃくちゃに飛んでいたので魔女がいる方角からだいぶ離れてしまった。




「方位磁針がないと後は、太陽を頼るしかなさそうね」


パピコがそういうとキャスカが口を開いた。


「あなた達、レーダーのを知らないの?」


 キャスカがランチャビートのレーダーを見ようとしたがレーダーの電源が入らなかった。


「くっそ!」


 ランチャビートを蹴飛ばすキャスカ。

 

「太陽があるじゃない、大丈夫」


 パピコは、そう言うと空を見上げた。


 空には、太陽が二つあった。



「この惑星は太陽が二つあるの?」



「そうだよ」


 

グリースが頷いた。



「という事は、えーと方角的には、」



「あっちが西?」





 しかしアスロンとグリースは、黙っていた。




「え、違うの?2つの太陽はどういう動きしてんの?」




 「なにどーゆーこと、太陽というは、普通規則性があるはずでしょ」



「二つあるとしても規則性は、あるんでしょう」




「太陽には規則性がある、もちろん太陽をあてにする事は間違いではない」



アスロンが、口を開いた。


「通常ならその2つの太陽を当てにして方向を決めて進める、でも問題はそれ以外にありそうだ」




ザザ、ザザー




「パピコ、気づかないか?」




グリースが言った。



 パピコは、辺りをみまわした。しかし、見渡す限り砂だらけだった。


(ん、あれ?)


 微妙に地面が動いているような気がした。



 (砂が生き物のように動いている?)




「俺たちは、もうこの砂漠から抜け出す事ができなくなってしまったかもしれない」




「どういう事?」



 砂は、縦横無尽に動き始めていた。


 

 (魔女が、いよいよ動き始め、我々を行先を阻止しようとしている)



アスロンは、そう感じた。



ザザ、ザザー



一つ目の太陽が西に沈もうとしていた。


つづく

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