第2話 『絵本の世界』

【パピコ】


 病室に戻った葉日子。


「パピコちゃん、暑かったしょ」


 葉日子は、少し額から汗を掻いていた。


「飲む?」



 木村が葉日子にアイスコーヒーを渡した。


「ありがとうございます」


木村は、左足を骨折して入院していたが、なぜか葉日子と同じ病室だった。


「ミルクとガムシロップいる?」


 葉日子は、首を横に振った。


「パピコちゃんは、大人ね、私なんか甘くないとコーヒーは苦くてのめないのよ」


 木村は、そういうとガムシロップ3個とミルクを2個、アイスコーヒーの中にドバドバいれた。


 〈アイスコーヒーは、木村の面会人が持ってきてくれたようだが、葉日子は一度も木村

の面会人を見たことなかった)


 二人は、アイスコーヒーを飲みながらたわいもない話しをした。


【ガルダダと箱】


惑星ソラリス


ダナンの丘


 ガルダダと叡智の箱が対面している。


「ガルダダよ、お前は死ねないようだな」


叡智の箱は無表情のまま、ガルダダに言った。


「私の肉体はぼろぼろですが、意識は消えません、魔女の呪いか?私の念でしょうか?」


 ガルダダの身体は、左頬が劣化によって垂れ下がり、左目が大きくみえた。


「それは、私の知る所ではない」


 ガルダダは、叡智の箱からその事を伝えられると落胆した。


叡智の箱が続けて話をした。


「私は、お前にもう一度、この世界をやり直すチャンスを与えよう」



「もう、一度?」



「それがお前の想いだろ」


「わかりません」


 ガルダダの爛れた顔がますますただれているようにみえる。”叡智の箱〟に自分の思いをぶつけた。


「でももう一度やり直しても同じ結果になると思います」



「同じ結果になるだろう」


叡智の箱は答えた。


「でしたら、私はこのまま宇宙の藻屑となりましょう」


「お前は、何千年と続くその物質を持った意識だけの苦しみを知らない」


 叡智の箱は、宇宙空間の中で途方もない時間をそこで過ごしたかのような事を連想させた。


叡智の箱は、続けた。


「そして、この死滅した惑星がまた他の惑星にも影響を及ぼす」


「他の惑星とは?」


ガルダダが、聞いた。


「具体的には地球という星が巻き込まれて、またそのことによって宇宙全体にも異変が起きるだろう」



、、ガルダダは、爛れた顔両手で押さえ肩を落とした。



「この世界は、全てのひとつの流れによって全体が流れている。だから、全てが影響をしあっている。しかし、お前が世界に働きかける事は何もできない」



 ガルダダは、箱の言葉を目を閉じ受け入れた。


また箱は、話しを続けた。


「ただそれは、凡庸な人間の話しだ。

お前には、結果を変えられる可能性がある」


 叡智の箱は、無表情のままに言葉放った。


「しかし戻った世界で、お前は死ぬであろう」


「人間いつかは、死にます」


「いやそうではない、寿命を全うしないという事だ」


「私は今、他の誰より長く生きています。もう充分です」


「そうか、ではもう一度やるか」


「どうやら、それが私のやるべき事のような気がします」


「それが、私の願いでもある」


ガルダダは.眉をひそめた。


「なぜ、あなたの願いでもあるのですか?」


箱は黙ったままだった。


 ガルダダは、箱が宇宙全体の事を思っての事かもしれないと思ったが、真相は箱から語られる事はなかった。


「ガルダダ、準備は良いか?」


ガルダダは、うなづくと


「いつでも」


と言った。


 するとガルダダは、自分の心の中の意識と箱の意識が入り混じって空間に溶けていく感じがした。



『私が世界から消える』




【ガルダダとラプータ】


10年前の世界


惑星ソラリス


カナンドール地方


 ガルダダがグラブビトンが生えるダナンの丘で大の字になって寝ている。


 ダナンの丘は、海に面していて、グラブビトンというここにしか生えていない植物が生息していた。


 ガルダダが、10年後の世界から戻ってきて初めて目を開ける目の前には、かつての弟子ラプータがいた。


(ラプータ)


 ラプータは、容姿は髪の色は金髪で天然のパーマらしく髪の毛がカールかかっていた。

そして、目はどこかトポけた感じがして全体的に愛嬌があった。


 ガルダダは、この1番弟子に好感を持っていた。10年ぶりにみる元気なラプータが嬉しく思わず強く抱きしめた。


「生きてたか?」



「な。なんです?ずーと生きてますよ!」



 戸惑い、怪訝な表情を見せるラプータに、ガルダダは我に帰った。


「ああ、すまない」


 ガルタダは、いつものラプータに対する威厳をとり戻した。


「そんな事よりガルダダ様、今日はメルリンの村で何が起きているか行かなくてはなりません早い所、支度をしていきましょう」


ガルダダは、思い出していた。


(たしか、メルリンの村が魔女による最初の犠牲者、イタサレが出た所だ)



”ふぉぉーん、ふぉぉーん〟


なにやら獣の鳴く声がして視線を横にすると


そこには、立派な麒麟が立っていた。


麒麟とは、馬と龍が入り混じった架空の生物とされていたが、ここカナンドールには実在していた。


「そうか、ウォルフィットが私を見つけてくれたのか?」


 ガルタダは、久しぶりに見る懐かしい者達に心が弾み顔が綻んでしまう。


 ラプータは、いつものガルタダと違うような顔したが続けて話しをした。


「はい、ウォルフィットとファルゴは賢いです、多分人間の私より賢いですね」


ラプータは、おどけながらそう言った。


「ラプータ、話しがある」


 ガルダダは、さっきまでとは打って変わって厳しい表情になった。


「なんですか?”おまえ、いつ生き返った〟かなんて聞かないでくださいよ」


 おどけてラプータは言った。


「お前は、今日で破門だ!今からお前は、私の弟子でなんでもない。さぁどこへでも行け!」


 いきなり強い口調でガルダダは、弟子であるラプータに言った。


 ガルダダはそう言うと、ウォルフィットに跨り走り去った。


 ラプータは、今しがたの事が理解できずに固まってしまった。


(な、なにが、どうなっているんだ、、ガルダダ様、なんで、いきなり、どこへでも行けって、、どういう事、、おいら、行くとこなんかありゃしないのに、、)


”ゴボッ〟


”ゴボッ〟


 咳をんだラプータは、ガルダダのいきなりの破門を信じられなかった。


 でもガルタダが冗談でそういことを言う人間ではない事をラプータは、一番理解していた。


 ウォルフィットに乗って走っているガルダダは、悲しい顔をしていた。


(すまない、ラプータ、、)


 ガルダダを乗せたウォルフィットが地平線の彼方へと消えいく。


【絵本の世界】


地球


神奈川県成徳病院


 葉日子は、その夜、夢をみていた。


 昔父親に読んでもらった絵本の話しの夢。



 その昔、ソラリスという惑星があった。


 ソラリスにあるカナンドール国は、ある魔女の力によって、国に混乱をもたらされた。


国王の命により、


”大賢者ガルダダ〟


”その弟子ラプータ〟


”そして大剣士アスロン〟


の三人が魔女退治をまかされた。



 三人は、魔女の城までの道のりには、様々な困難があった。


だが、三人は、困難に敗北する事なく、魔女の城まで辿りついた。



 そして、最終的な魔女との対峙でよからぬ事が起きた。


 魔女によってガルダダの弟子、ラプータが殺されてしまったのだ。


 ラプータは、何度となく旅の途中で暗くなった仲間達を笑わせていた。


ガルダダは、怒りで我を忘れた。


 アスロンとガルダダの二人は、魔女との戦いの末に魔女に勝利した。


  ”魔女は死んだ〟


 国王から、感謝され、国民からも感謝されるはずだったが、そうはならなかった。


 カナンドールは、魔女の死によって氷の世界になってしまったからだ。



 誰一人いない氷の世界が絵本の最後ページに描かれ、その絵本の物語は幕を閉じた。


【パピコの子供の頃】


幼い頃の葉日子は、父親に言った。


「なんて、悲しいお話しなの?」


(私の大好きなラプータが死に、。世界も、


救えないなんて嫌だ、、)


心の中でそう思った。


「悲しいお話しだね、葉日子はどうしたら


 この世界は氷につつまれなかったと思う?」


 父親は、優しく葉日子に言った。


「ガルダダは怒りに任せて魔女を殺すべきではなかったの」


 幼い葉日子は、父親にそう言った。


 父親は、葉日子の言葉に優しくうなづいた。


【その後のラプータ】


惑星ソラリス


カナンドール国



 ダナンの丘で、一人途方にくれているラプータ。


 崖の下では、波と岩がぶつかりあい、不規則な運動を繰り返していた。


”ジャバーン、ジャバーン〟


 波が岩山に激しくぶつかりあう音だけが辺りを支配していた。


 ダナンの丘から、見える波は、ある種の虚しさを感じさせた。


”ジャパーン〟


”ジャパーン〟



(行く所なんか、どこにもない、これからどうすればいいんだ)


 ラプータの頭の上には、うみねこ達が数匹円を描きながら飛んでいた。



つづく。















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