第1話 『最弱な女子高生』
【最弱な女子高生】
2023年8月 夏
〈神奈川県鎌倉市〉
”ミーン、ミーン、ジー、ジー〟(蝉の鳴く音)
彼女の不思議な物語が、始まったのは記録的猛暑日の夏だった。
(湘南鎌倉総合病院〉
ー病室で、天井を見上げて横になっている少女がいる。
その少女の目は、どことなく虚で、人生に絶望しているようにも見えた。
髪は、ボサボサで整えておらず、瞳はくりっとして大きく可愛らしいが、その瞳も
彼女の名前は、”橘 葉日子〟高校に通うどこにでもいる16歳の女の子。
橘葉日子は、ある時身体の左側が麻痺して動かなくなってしまった。
(1.2..3..4.5..6.....45.46.47.....105.106..206207)
彼女は、いつものように天井の黒い丸を数を数えていた。
窓の外では、青い空と白い雲が写しだされ病室の世界とはまったく切り離されたように感じた。
(なにもしたくない、、)
橘葉日子は、この頃毎日そう思っていた。
ここで、彼女の事を少し話そう。
彼女の両親は、まだ葉日子が幼い頃に離婚した。そして、彼女は経済的な理由で父親の方に引き取られる事になった。
しかし、その父親は彼女が、中学生の頃に交通事故でこの世から消えてしまい、母親も行方不明となっていた為、彼女は天涯孤独になってしまった。
葉日子が高校生になると、生活の為、アルバイトを何個か掛け持ちでやった。
しかし、無理がたたったのと元々身体が弱かった事もあって、倒れてしまった。
それが、いまから3か月前の話しだ。
彼女は、左半身麻痺になった。その原因は、医者はストレスと診断したが、真相はわからなかった。だから当然、治療にも時間がかかっていた。
「こー暑いと何もする気が起きないわよねー」
橘葉日子の隣のベッドから顔を覗かせた木村敏子が言った。
「ですね」
(葉日子は、木村の言った言葉が羨ましく思った)
木村敏子は。葉日子が入院して2ヶ月後、ちょうどいまから1ヶ月前に入院してきた50代の主婦である。
「外出たくないわー、パピコちゃん、夏って好き?」
「割と好きです、木村さんは?」
「私は昔っから苦手、なんかあのギラギラ感
が好きになれなくて?」
「それって夏のせいですか?」
「え、夏のせいでしょ、」
「あ、そうだ、木村さん、地球に隕石が近づいているって知ってます?」
「やだ、なにそれ?」
「ネットでみたんですけど、」
「だめよ、ネットなんかの情報を間に受けちゃ」
(最近は、ネガティヴになっているせいかやたらとそんな情報が目につくようになった)
「でもパピコちゃん、それ本当だったらやばわねー、、かぁかぁかぁ」
木村敏子は、そう言うと突然笑いだした。
(なんで、この人は私の事、パピコって呼ぶんだろう?)
木村は、葉日子と初めて会った時からそう葉日子を呼んだ。
橘葉日子のいる病室は、4人部屋だったが。葉日子と木村の二人だけで、あとの二つのベッドは空いていた。
お昼前に、葉日子の親戚の叔母さんが面会にきた。
親戚の叔母さんの名前は、佐野恵子といい父方の遠い親戚で40代の主婦だった。
佐野恵子は、葉日子が入院してから初めて会いにきてくれて、色々と身の回りの面倒をみてくれた。
恵子は、葉日子を見るとニッコリ微笑んだ。
葉日子のベッドの脇に置いてある台に花が飾れている。
それに気づいた恵子は葉日子に尋ねた。
「今日も新しい花ね」
葉日子もその花に目を向けた。
(いつも誰が?)
葉日子も恵子もこの花を誰が持って来てくれるか知らなかった。
木村は、佐野恵子の存在に気付くと声をかけた。
「恵子さん、知ってます地球に隕石が接近しているの?」
恵子は、困った顔をして
「さあ、初めてききました」
と興味のないそぶりで言った。
「ですよねー」
木村は、悪戯っ子のような顔でおどけた。
【直樹と佳純】
病院の庭
昼下がり、橘 葉日子は看護師に車椅子を押してもらい、病院の外を散歩していた。
そんな中、葉日子に一人の青年が声をかけた。
「たちばな」
葉日子は、呼ばれた方を見ると良く知っている顔が二つあるのに気がついた。
一人は、同級生の真鍋直樹。
もう一人は、同級生の三好佳純。
「なおき」
葉日子の声のトーンに影が見えた。
「ノート持ってきたよ」
直樹は、明るいトーンで言った。
橘葉日子は、目の前の真鍋直樹のことが好きだった。
しかし真鍋直樹は、横にいる三好佳純の彼氏であった。
二人共、健康的に少しだけ日焼けをしていた。
葉日子は、二人が自分と比べて、とても眩しくみえた。
「ありがとう、あ、そうだ、いつも私のベッドの横に花を届けてくれるの二人なの?」
「花?、いや、俺じゃないよ」
真鍋直樹の横にいた三好佳純知らない様子だった。
「そう、、二人じゃないんだね」
橘葉日子は、ガッカリした表情で言った。
三好佳純は、葉日子の悲しそうな表情をしたのがわかった。
橘葉日子は、花を届けてくれるのは二人以外いないと思った。
なぜなら、学校での橘葉日子は、勉強では学年一位と優秀だったが、クラスメートの中で話す人がいなかった。唯一、仲が良いのは直樹と佳純だけだったからだ。
二人は、葉日子と世間話をしてから帰っていた。
「またくるよ」
直樹がそう言うと葉日子は、手をあげて答えた。
看護師さんと病室に帰る途中、葉日子は、地球に迫ってくる隕石の事を思い出した。
(本当に隕石が落ちて、全部なくなちゃえばいいんだ)
橘葉日子の心の中は、暗い闇に覆われていた。
その後、とても悪い事を思った感じがして、車椅子を、押す看護師さんに悟られないように別れ側には笑顔でお礼を言った。
【真鍋と金田】
NASA(アメリカ宇宙船局)
大きなモニターの前で、
男性が二人で話をしている。
「どうにかならない?」
真鍋が部下の金田に言った。
「はい、シュミレーションを一億万回やっても、どうしたって隕石から逃れる可能性は0パーセントです」
「何度も聞いて申し訳ないけど、もう一度確認させて、災厄、地球が隕石に落ちたらどうなります?」
「地球の半分はなくなります」
「半分は、助かるんだよね?」
真鍋は、聞いた。
「いや、生態系のバランスが崩れてて、その他の生命体が存続するのは難しいと思われます」
金田は、真鍋の質問に対してそう答えた。
「地球がおわる」
「はい」
「まだシュミレーションを続けて地球が生き残る可能性は?」
「もう無理です」
「金田さん、私はこの世界の素人です。
しかし、なぜかここの指揮を全てまかされている。
教えてください?なぜ,私がここに呼ばれたのか?」
「わかりません。
私だって真鍋さんが、このミッションの適任者だとは、おもいません」
「正直だね」
「君は、優秀な人間だ。私のような凡庸とはできが違う」
「私にできない事が君にはできる。
どうだろう、もう少しだけてやってくれないか?
君ほどの優秀な人間が無理だと言っているのは間違いないと思うのだけれど」
「私だけでは、ありません。
この世界に精通している方なら、これは無理だと判断するべきだと思います」
真鍋は、顎に手を当ててさすると、金田に向かってこう言った。
「わかったよ、そうか、僕が間違っていた。
金田くん、ちょっとコーヒーでも飲みにいかない?」
金田は、ずれたメガネを汗ばんだ手で少し戻した。
「すみません、いいすぎました」
真鍋は、笑って踵をかえした。
金田は、座ったままで動かない。
真鍋は、振り向き
「どうしたの?行かないの?」
「いいんですか?ここは」
「いいの、いいの、だって地球終わっちゃうんだから」
真鍋は、中年らしからぬお茶目な笑顔で言った。
【ガルダダと叡智の箱】
地球に向かっている隕石は、ソラリスという惑星が死滅し、重力エネルギーを失った惑星が、隕石となり地球に向かっている。
しかし、死滅したかのように見える惑星には、少しの生命体の存在があった。
ソラリスは、地球の二分の一の大きさで、人口もおよそ5億人と少ない為、環境の破壊がそれほど深刻な問題ではなかった。
なぜ、この惑星が死滅してしまったかというのは、様々な要因があるが、ある男がその罪を全て背負っているように見えた。
その男は、死滅した惑星の中、他の生き物達は全て淘汰されていたにもかかわらず、どんな環境になっても肉体は滅びず、罪の意識だけで生きていた。
その男の名は、”ガルダダ〟と呼ばれていた。
ガルダダの肉体は、辛うじて原形をとどめていたが、色々な所が腐敗していて醜かった。
それでも生命活動の終わらないガルダダは、一日を通して長い間、瞑想をしていた。
そんなガルダダの前にある箱が姿を現した。
「エルドの弟子、ガルダダよ」
ガルダダは、目も開けず心の扉を開いて問いかけた。
(あなたは?)
(人は、私の事を”叡智の箱〟と呼ぶ)
ガルダダが、瞼の爛れた隙間から瞳を開くと、そこには人間くらいの大きさの四角い箱があった。
その箱の正面には、半分象、半分哲学者のような顔があり、上の部分には奇妙な植物が生えていた。
”ガルダダ〟と”叡智の箱〟が生命の生きられない朽ち果てた世界で対峙した。
つづく。
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