第185話 泥舟ヨーソロー!
――次の日。
オベロンの妖精騎士。バグリジェのドワーフ戦士。王都の兵士。合計すると約2500。超大勢の軍隊である。
指揮するのはヘレナ、ダン、アネージュの3人。たった3人が率いる2500。相手は何人か。まだ不明だが、それでもこの威圧感を超えるのは難しいはず。
だからといって慢心はしない。あくまで相手は未知数。一瞬の傲りが敗北に繋がることなんでよくある。
今は全員が一致団結。体育祭の時の高校生なんて目じゃないぐらいの一致団結をしなくてはならない。
後衛。兵士たちから少し離れた場所にカエデたちはいた。
「敵兵は?」
よじ登ってきたアネージュに答える。
「ヘレナ様とダン様はなにしてる?」
「意気揚々と演説中だ」
「ならもっと長引かせてもいい、って言ってきてもいいぞ」
つまりまだ見えていないということだ。
「……あの小娘は?」
「オベロンで避難誘導してる」
「そうか」
「……なんだあの子はやらんぞ」
「要らん。欲しいとは言ってないだろ」
まだ敵が出てきていないからだろうか。まだのほほんとした空気である。
「しかしこんなことになるとは予想外だったな」
「誰でもそうだろう。王都にはなんて報告するつもりだ?」
「『我らの勝利』だ。この戦いが終わったら、すぐにオベロンとドワーフを潰しにかかる。兵士にはそう伝えた」
「……それ、俺に言ってもいいのか?」
「お前は関与しないんだろ?まさか嘘をつく気じゃないだろうな……?」
「嘘はつかないよ……まぁ勝手にしな。血も涙もないやつめ」
「貴様には言われたくないわ」
なんだかんだで仲の良さそうな2人であった。
「であるんやったら――ん?」
ダンの演説中。気合いの入った1番の山場。そこで話が急に止まった。止められた。
普通なら罵倒や食べ物が投げつけられるような場面。だが相手は王様。そんなことができるはずがない。
ただ疑問なことには代わりがない。種族関係なく兵士全体がハテナの文字に包まれていた。
「……バトンタッチやヘレナ」
「へ?」
木の台から唐突に降りる。ヘレナにもなんで降りているのかが分かっていない。
ダンはそのまま走り去っていった。方向はバグリジェ。ヘレナの静止も間に合うことはなかった。
「……どしたんやろ。まぁ逃げるような男でもあらへんし、行かせとこっか」
走り去ったダンの代わりにヘレナが壇上に上がる。
「ダンは何やらバグリジェに武器を忘れてったようや!!そやさかい今からダンの代わりに演説させてもらう!!」
特に気にすることはない。これは信頼していると言っていいはずだ。
少なくとも妖精とドワーフの中では『ダンが逃げた!』と言う者は現れない。嫌いあっているお互いだが、そこは信頼をしていた。
「――はーいこっちですよー」
よぼよぼ歩きのおばさん。そして脚と羽を怪我をした妖精。混乱する妖精たちを大声を出してヘキオンはまとめていた。
「押さないでくださーい!各自持ってきた食料は自分で保管してくださいねー!」
1人の兵士が近づく。
「ええ声やな。ヘキオンちゃん……かいな?」
「はい、ありがとうございます」
「わしらも頑張るさかい、一緒に持ちこたえよう!」
「――はい!」
嬉しそう。ここにいるのは戦えない兵士だが、要らない兵士ではない。だからヘキオンも頑張ることができる。
戦おうとしている者たちの為にも。自分が頑張らないと。ヘキオンはもう一度決心を固めた。
そんな時だった。
「あ、あの!」
一人の妖精が走ってきた。羽には緑色の包帯が巻かれてある。
「妻が……妻が外に……」
「外?なんで……」
「わしの家の花だけ持ってくるって……一つだけ大事な花があるって……」
男は心配そうにモジモジとしている。
「まだ戦いは始まってへん。ほっといても帰ってくるやろ」
「え……でも」
「自己責任や。わしらの命令を聞かんかったソイツ悪い」
「……わ、私見に行ってきます!場所は!?」
「こっからまっすぐ行って右に曲がったところにあるビニールハウス――」
「すみません行ってきます!」
「ちょっ、ちょっと!」
走り出すヘキオン。その場のことを兵士に任せ、走り去っていった。
「……聞いていた通りの子やな」
残った兵士がボソッと呟いた。
「こうなったからにはしゃーない…… ハイハイ押さんとー!」
早い切り替え。さすが兵士。嫌味ひとつ言わない。残ったのは自分一人と少しの兵士。
とやかく言っても仕方ない。兵士はそのまま声を出し続けるのだった。
続く
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