第183話 アングスト!
「――」
「出会って数ヶ月くらいなのに私のことを『親友』とまで思ってくれてるなんて……感激です!」
「しん……ゆう……」
「私もカエデさんに見合うように、もっと強くなります!」
「……はいぃ」
白くなった。なんか生気が消えた。このまま粉になって消えていきそうだ。
「……」
「あはは……は!?」
ヘキオンがアネージュの存在に気がついた。2秒……いや3秒。時間が停止したように固まる。
そして隠れた。真っ白になってるカエデの後ろに。気の木陰に隠れる小動物のように。
「――か、かか、カエデさん!?どうしてコイツと!?」
「う……あ、生き返れた……」
ようやく頭が戻った。遅いな。
「元気そうだな小娘」
「……うるさいやい」
シャーッと猫のように威嚇。さっきにカエデが忠告していたことと全く一緒。思わずアネージュも笑ってしまった。
「……小娘も巻き込むのか?」
「前線には出させないぞ。ヘキオンが無事じゃすまないのなら俺は戦わない」
「……?何の話ですか?」
「後で知ることになる」
アネージュが王宮の方へ顔を向ける。
「ヘレナ様は帰ってきたのか?」
「え……うん」
「なら行くぞ」
トコトコと早歩きで向かうアネージュ。その後ろをカエデも早歩きでついて行く。
「え、ええー……」
訳が分からない。そんな言葉を口にしそうになるが、中でとどめて2人の後ろをついて行くのだった。
――とある場所。
暗い坑道。山の中の広い場所。地下か。真っ暗で松明の光だけがユラユラと揺れている場所。
恐らく使っていたのは炭鉱夫。だが近くには村がない。作られた理由が謎だ。しかしここには確かに存在している。
「――ただいま」
光の粒が集まり、人の形となった。ヘレナの前に現れた男だ。
「遅かったじゃない。光のくせに遅いってどういうことよ」
「ごめんごめん。話すのが楽しくてさ」
「全く。僕ちゃんはお腹が空いたぞ!」
「君は何もしてないでしょ」
「お前もな」
そこにいたのは男だけじゃない。アネージュの前に現れた女。そして知らない男女がいた。
男の方は短髪のデブ。身長は160cmほど。パッと見では首を確認できないほど太っている。
女の方はピンク髪のサイドテール。こちらも身長は160cmほど。細身で華奢。顔も可愛い。
アネージュの前に現れた女もフードを脱いで顔を確認することができた。青髪のショート。毛先は内側に向いている。
「作戦はどうなの?」
「報告はしてきた。怪しんではいるけど、言った通り手は組みそう」
「――ねー。ほんとにこれでいいの?依頼主さん」
暗闇の奥。4人のところに歩いてくる男。髪は銀髪。身長は190ほど。
「それでええ。順調そうで安心したわ」
低い声。ほんの少し喋っただけで背筋が凍りつく。4人もピリピリと肌をひりつかせていた。
「えっと……われ名前なんじゃっけ」
「カーマよ。覚えてちょうだい」
青髪の女はカーマという名前らしい。
「王都の兵力はどうじゃった?」
「そこまで大きくはない。下っ端らしいわ。隊長も日が浅そう」
「ふぅん……まぁええか。われは?」
「ジェイサスだ」
金髪の男はジェイサス。
「そうかジェイサス。オベロンはどうじゃった?」
「女王は流石ってところだな。俺の存在もすぐに気がついてた。兵士も強そうだ。バグリジェも同じ。どっちも相手にとって不足はないと思うぜ」
満足そうに。嬉しそうに。コクコクと頷く。顔にはどこかワクワクした気持ちが隠せていなかった。
「ついでだ。われら2人の名前も教えろ」
「1回自己紹介したのに……僕ちゃんはアガリーヨ」
「僕はラヴィ」
男の方はアガリーヨ。女の方はラヴィと言うようだ。
「お仕事ご苦労。だが戦いは明日が本番じゃ。――油断はしんさんなや」
「「「「了解」」」」
――また違う場所。名前は天空山。
雲を突き抜けるほどに高い山。その頂上。酸素は薄い。通常の生物なら一呼吸で失神するほどの薄さ。
そんな場所に立っていた。誰かだって?……分からない。人間のように見えるが、出しているオーラは人間とは思えない。
真っ黒。紫。暗い色。とにかくおぞましい色のオーラを見ている。周りの雲は白色なので、色がさらに強調されている。
両腰には剣。形は普通。西洋の剣みたいなやつだ。服は赤黒い。軽装の鎧のようだ。筋肉質な体で少しピチピチになっている。
金髪。そして黒色のメッシュが入っている。顔は……ちょっとごつい。だがイケメンではある。イケおじが最適な表現か。
「……ふぅぅ」
深呼吸。この超高山帯で深呼吸だ。そして「空気が美味しい」と一言。そしてまた言葉を出した。
「活きのいいのは……いるかな」
続く
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