第182話 勘違いで仲違い!
――フワッ。
アネージュが後ろを通った。
「……おっ」
「……貴様」
目が合う。ごく自然だ。2人とも顔見知りではあるのだから。
「また来たのか。攻撃を仕掛けるのは3日後、なんて言ってなかったか?」
「事情が変わった。今からヘレナ様と話がある」
「ヘレナ様ならまだ帰ってきてへん思うけど……」
「ならいい。出直す」
「ちょっと待て」
帰ろうとするアネージュを引き止めた。
「事情が変わったってなんだよ。そんな簡単に戦争は辞められるのか?」
「貴様には……まぁいい。話そう。来い」
指でクイクイっと「来い」の指サイン。歩きながら話す気だ。
「ちょっ――あぁもう。先に帰っててくれ」
「う、うん……」
道には出店。いつも祭りみたいな雰囲気だ。それほど活気があるということだろう。中東みたいなものだ。
ここでは人間は珍しい。だから人間2人が歩いていたら、すれ違う人はみんな目で追ってしまう。
だがこの二人は気にしない。それよりも気にするべきことがあるからである。
「――なるほど。戦争を仕掛ける、と……」
先程あったこと。砂を纏った女の話だ。
「明日には戦争になる。相手の目的は分からんが、とにかくオベロンとバグリジェと手を組まねば」
「ただのイタズラの可能性は?」
「単身で私たちにイタズラするバカがどこにいる。少なくとも相手は私たちの目的も知っていた。その時点でただものでは無い」
「そうか……ならさっさとここから逃げないとな」
「おい」と一言。
「同族を助けようという気はないのか?住ませてもらった恩を感じないのか?」
「来て2日ちょっとだぞ。恩はあるけど、愛着は無い……お前らにもな」
「ふん。ならいい……ただ1つ」
アネージュが立ち止まる。つられるようにカエデも立ち止まった。
「――なにかが来ている。とんでもないなにかだ。生態系が軽く変わるほど……もしかしたら、単騎でこの辺り一帯の生物を絶滅させることが可能な奴だろう」
「なんでそんなことがわかる?」
「女の勘ってやつだよ」
「都合のいい時に女って出すなよ」
ジト目。アネージュにも自分が女という自覚はあったようだ。
「でも不思議なことはあっただろ。――この辺りには存在しない魔物。お前ならその理由が分かるはずだ」
「……」
「"圧倒的強者の前では、魔物は逃げるのみである"」
「……言いたいことは?」
「助けて欲しい」
頭を下げた。
「……このとおりだ。無駄な犠牲は避けたいんだ」
「なら最初から頭を下げとけばいいのに……そもそもなんで俺だ。お前の前で戦ったことは無いぞ」
「なんとなくだよ」
「女の勘ってやつか?」
「そうだ」
「……はぁ」
「まぁ気迫とかでも分かったけどな」
「わかったわかったいいよ……頭を下げられたんじゃ仕方ない。何があっても文句は言うなよ」
「――ありがとう」
アネージュはもう一度、深々と頭を下げた。物珍しそうに見る妖精のことは気にすることなく。
仲間の兵士のため。アネージュはプライドを捨てた。
「――カーエーデーさーんー!!」
遠くからヘキオンの声。その方向を見てみると、猛スピードで近づいてくる女の子が1人いた。……とても見たことのある子だ。
「あの子か……」
「元気だろ。多分お前見たら威嚇すると思うから気おつけとけよ」
「頭に入れておく」
ズザーッと。土埃をあげなら急停止。結構ギリギリの所でヘキオンは停止した。
「元気だな。どうだった?」
「凄かったです。私なんてもう……じゃなくて!」
カエデの両手をギュッと握る。力強く。力強く。
力はそんなだ。カエデからしたら、プリンに触れてるようなくらい。――だがカエデは振りほどくことはできない。
顔を真っ赤にして停止しているカエデにヘキオンはお構い無しに話す。
「すみませんカエデさんの気持ちに気がつけてなくて……私ずっと勘違いしてました!」
「ふぇ……あ、ひゃい」
「私鈍感で、馬鹿だから……でも気が付きました!カエデさんが私のこと思ってくれてるなんて……」
「ふ……へ……」
「――私も好きです!カエデさんのこと!」
ボン!と頭が水蒸気爆破。湯気が煙突くらいに出ている。
「はは……あはは……」
涙目。でも嬉しそう。だがどこか情けない。「……勘違いだったかな」とアネージュが呟くほどだ。
それでもヘキオンは手を握り続ける。上下にブンブン。カエデの力が抜けているからだろうか。鞭のようにしなっている。
「こ……こへ、こへから、これからも……よ、よろしく?お願いします」
たどたどしい告白……なのか。まぁこれも告白だろう。なんだかしまらないが。
「はい!これからも『親友』として、よろしくお願いします!」
続く
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