第181話 小心者の露店喧嘩!
――少し前。
「……地震?いやこれ地震か?」
「あー。いつものことだからいけるよー」
家。本日は両者共に暇なので、家でゴロゴロとしていた。
「いつものことって……いつもこんな地震が起きてんのか?」
「まぁね。自然現象じゃないで。外でヘレナ様とドワーフの王が戦っとんねん」
「……ん?戦ってる?そういや今日ヘキオンはバクストンと一緒に……」
「多分ヘレナ様とかのところにおるな」
近くに置いていた木の棒をサッと掴み、外に出ようとする。
「心配なら見に行けばええけど、怪我もしてないとは思うで」
「でもだって……」
「お兄がついてるんだから大丈夫だよ。そんなに心配?」
不服そうな顔。しかし木の棒は机の上に置いた。
「ちょうどいいや。今日は私が食事当番なんだ。食料買いに行くから着いてきてよ。明後日から戦争だし、食料も備蓄しておかないと」
「……まぁいいけど」
「――あ、ネサスちゃん!今日も可愛いなぁ」
「ありがとおばちゃん。可愛いうちに免じて、ちょいくらい値下げしてくれてもええで」
「ダメ」
「反応が早いわ」
昔ながらの八百屋さん。……みたいなところ。露店に並ぶ花や野菜がいい匂いを醸し出している。
大根やキャベツなどの人間がよく食べるようなものから、花や蜜などの妖精がよく食べるようなものまで揃っている。
色も様々。見てるだけで楽しくなってくる。植物の品種改良が進んでいるのも頷けるだろう。
「妖精はみんな偏食家だと思ってたんだが……普通のもあるんだな」
「別にいつも花を食べてるわけとちがうで。人間とは舌の構造がちゃうさかい肉やらは食べられへんけど、野菜やらは食べられる。調味料も行けるで」
「はぇー。初めて知った」
代金をおばちゃんに払いながら、カエデの質問に答える。
「へぇ、その子人間の兄ちゃんかい。うーん……顔は普通やな」
「……え、もしかして貶された?」
「褒めてるんとちがう?知らへんけど」
「ははは!」と2人に笑われる。正直自信は無かったようだが、普通って言われるのはなんだか悲しい。
「……ネサスちゃんもようやく結婚する気になったのかい?」
「――はい!?」
「え」
突然の発言。顔を真っ赤にして慌てふためく。
「あらへんあらへんあらへんあらへん!だ、だってまだ会うて3日も経ってへんのやで!」
「へぇ……俺のどこに惹かれたの?」
「やかましい!」
挑発。カエデもどこか嬉しそうだ。別にヘキオンが好きじゃなくなったとかではない。男子高校生が美人の人……じゃなくて妖精だが、結婚すると間違われたのなら、誰でもちょっとは嬉しくなるものだ。
残念ながらこれは男のサガ。人とお付き合いしたことないカエデも嬉しくなるのだ。
「もしかして……やっぱりまだオフィサー君のことが好きなん?」
「――///」
「ははーん……」
先日聞いていた話。どうやらまだオフィサーのことを好いているようだ。
「初恋の人のことをまだ覚えてるのか〜。ウブだねぇ〜」
「ウブやなぁ〜」
よくあるだろう。好きな人を知られて煽られるのは。カエデもされていたやつだ。これはそもそも思春期によくあること。
カエデもそうである。遊びたい年頃なのだ。まぁ相手は24歳の歳上であるが。
プルプルワナワナと震えている。怒ったのか。ニマニマしながら見続ける。
「――カ、カエデやって何ヶ月も一緒にいるのに、ヘキオンに好きって伝えられてへんくせに!!」
「――!!??」
予想外のカウンター。どこで知ったのか。いつから知ったのか。カエデがヘキオンのことが好きなのがバレていたのだ。
「なぜそれを!?」
「見てたらわかるし、おにいから聞いたもん!」
「んだよアイツ言ったのかよ!?口軽すぎだろ!?」
「へへ……小心者め!臆病者め!」
「うるせぇ!こっちだって聞いたぞ……小さい頃からオフィサーのこと虐めてたらしいな……ツンデレかよ!小心者め!」
「んなぁ!?それおにいから聞いたな!!」
店の前で喧嘩。普通なら大迷惑なことだが、肝心の店主が「仲良いわね〜」とのほほんとした様子。
道行く人も微笑ましそうにその様子を見ていた。ある意味ではいいところではあるが、現実世界ではこんなことをしてはいけない。
どちらも片思い中であるからか。気が合うこともあるのだろう。店主はそんなことを思いながら、2人の様子を見ていたのであった。
続く
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