第180話 デジャブ!
黄色の球体。まん丸で神々しい。米粒のような光は一点に集まっていく。塊は大きく、形を変えていく。
それは人の形。ピカピカと光る人間の形に。まさに光人間。明るさは消えて人の全容を見ることができるようになった。
「気が付かれてたかぁ〜」
黄色のポニーテール。瞳は黄色。肩幅は大きい。それでいてスレンダー。顔は少し女性らしさがあるが、全体像は男である。実際に性別も男だ。
「流石に妖精の王と呼ばれるだけはあるな。さっきの小娘とは違う」
「……で、なんの用?」
「ははは。小娘と違って対応が素っ気ないな。少し寂しいぞ」
近くの木の椅子に腰をかける。
「もう少し世間話でもしようぜ」
「そないな時間はあるん?」
「あー……暇じゃないわ。遅くなりすぎると依頼主が怒るかも」
「ならちゃっちゃと要件だけ言うて帰りーな……それとも、今ここで殺し合う?」
殺気。先程まで戦っていた時と同じ、もしくはそれ以上の殺気を放つ。ピリピリと神経が逆立つほどの恐怖。
しかし男は気にしない。「ははは」と陽気に笑うだけ。
「それもアリだなー……って言いたいけどやめておこう。楽しみは取っておくのが俺の流儀だ」
「大袈裟やな」
一呼吸を置いて男が口を開く。
「うちの雇い主があんたらオベロンとバグリジェ、王都と戦争がしたいらしいんだ。今日はそれを言いに来た」
「戦争?雇い主はアホなん?」
「最初は俺もそう思ってたんだけどなぁ。どこの誰かは知らんが、とんでもない兵力を持っててな。あながち勝てない戦いではないかも……」
「雇い主の名前は?」
「それは教えられない。これでも傭兵なんだ。雇い主の名前を教えることはできない」
チッと舌打ち。
「そんな怒らないでくれよ……そこでだ。あんたにはバグリジェ以外にも王都と手を組んでて欲しいんだ」
「はぁ?王都と?なんで?」
「うちの雇い主が頭おかしくてな。『強ぇやつと全面戦争したい!』とか言ってて。それで手を組ませてこいって命令をもらった」
「なにそれ……」
男が立ち上がる。
「じゃあそんなところだ。王都側には話がついてると思うからさっさとしておいてくれよ。明日には襲撃を開始するから」
手をぽんと叩く。もうひとつなにかを思い出したようだ。
「あ、そうだ。これは別に悪意とか無しに純粋な忠告ね……最近ここら辺には現れないはずの魔物が出てきたりしてただろ?」
「まぁ……そうやけど」
「――なにかとんでもない奴が近づいてきてる。ここら辺の魔物はそいつに追われてここまで来ていた」
奴。ヘレナはそこに引っかかった。
「奴?ってことは……」
「人間、妖精、ドワーフ、どれでもない。――魔人だ」
「魔人!?」
魔人。魔物の人間バージョンである。魔物と比べると知能がとても高い。
魔物と同じで魔吸臓を持っており、魔力を貯めるために人間や他種族を襲う。ただ魔物と違うのは見た目だけではない。魔吸臓の貯蔵量である。
数倍。数十倍なんてものでは無い。数字にすれば数百倍は高いだろう。もちろん戦闘能力は魔物とは比べ物にならない。
ちなみに魔人と言ってはいるが、別に魔物と他種族のハーフではない。魔王によって作り出された生物である。そして魔人も魔物を生み出すこともできるのだ。
「俺らも運が無いなぁ。寄りにもよって魔人が出てくるとは。アイツが来ないことを祈りな。戦争にアイツが出てきたら、王都もオベロンもバグリジェも俺らも。全員がたった1人に皆殺しにされるかもだからな」
体が発光。ヘレナの前に出てきた時のような光の塊になる。
塊は粉のように大きな粒となり消えていく。それは空中に。あらゆる場所の隙間を通り抜けて消えていった。
部屋に残っているのはヘレナだけ。疲れたのか体をベットに預ける。
「……胃が痛くなるわ。ストレス発散せんとなぁ」
静かに瞼を閉じる。やることは多い。だが今は休憩をしないといけない。
体力は消えた。もし男の言うことが本当なら明日は大忙しとなる。もしかしたら死ぬかもしれない。
だから今は体力回復。国民のためにも。自分のためにも。そしてヘキオンのためにも。戦わなくてはならない。戦わなくては――。
続く
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